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ヘヴンズ・ドアー  作者: 浮草堂美奈
第一章KGB対抗編
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二話「―我、タダでは殺さないよ」

「このネクタイをおくれよ。女の子にモテないんじゃ死んだかいがないからね」

「そう、なら、お金はいらないわ」

 サマンサがにっこり微笑むと、青年は嬉しげに笑った。

「ありがとう、ねえ、此処に来て初めて会った女性は君なんだ。色々聞きたいことがあるからドルチェとかどうかな?」

 ふふ、とサマンサも笑いを漏らす。

「このお店は本当に可愛いね。君が経営してるからかな?」

「そうよ。私は可愛いものが大好きなの」

「僕もなかなかに可愛くないかい?」

「残念ね、うちの店員たちには敵わないわ」

「本当に店員さんたちも可愛いよ。此処は本当に天国だ」

「天国……? いいえ」

 にこり、とサマンサは笑う。

「ヴァルハラよ」


 紅玉が肩を竦める。

「軟派な奴ね。お金入ってこないのに時間だけ取られてもったいないある」

 サマンサはクスリ、とする。

「イタリア男だもの、仕方ないわ。それに、今回は別件でお金が入るわよ」

「別件ってなんですか?」

 依子の問いにまたクスリ、と笑う。金髪がフリルのシャツに落ちる。

「また、構成員が足りないから、船を使えるイタリア男が来たら紹介してって」

「ああ、それで『思い』、の方が入らなくってもOKって事か」

 エミリーの言葉に紅玉はにゃっと笑う。

「テンチョ、ボロイ儲けあるな」

 その後、新たに『思い』を支払い現世に帰る客が来たため、その話は終わった。

 しかし翌日。

「オイコラ、開けろ!」

 ガンガンと扉を派手に叩く音で、三人の店員は開店準備の掃除をストップした。

「も、申し訳ありません開店は」

「営業時間外ある。また来るよろし」

 依子の言葉を紅玉が愛想もなく遮る。再び埃を塵取りに集める作業を再開している。

「そんな事は知ってるし見りゃ分かる! 二秒以内に開けねえと扉ぶっ壊すぞ!」

「朝っぱらからキレてんじゃねえよ! うるせえな!」

 エミリーが怒鳴り返すと、本気でドアノブがガシャガシャと不穏な音を立て始めたので、慌てて依子は扉を開けた。

「あの、お客様、申し訳ありません。まだ準備中でして……」

 目の前の女は言った。

「だから知ってると言ってるだろう。店長を出しな、ジャポネーゼ」

「……嗚呼……やはり貴女でしたか」

 店の奥からサマンサが顔を出す。

 彼女も同意見だった。

「やっぱり貴女だったのね、アンドレア」


 茶色のショートカットに、黒の眼帯、赤のシャツに黒のパンツを着こなす。どれをとってもお洒落に隙がない上、シャツから零れんばかりの胸に細いウェスト、きゅっと吊り上った尻に長い脚。ミラノでモデルをやれそうなこの三十路の女は、カウンターにどんと拳を下した。

「おい、サマンサ」

「やん、いつも通りサムって呼んで」

 同年代であろうサマンサのふざけた声を、ギロリと片目が睨む。

「おい、もう一度、俺が出した条件を言うぞ。船を使えるイタリア男を紹介しろ、引き換えに5万ドル払う」

「あら? 貴女のアジトまでの船はこちらで負担する、という文章が抜けているわね」

「いけしゃあしゃあと言ってんじゃねえ! 俺はお前に確かに5万ドル支払った!」

「前払いだったわねえ……」

「そして昨日男が来たので出航させると電話してきた!」

「そうね、貴女のアジトは船じゃないと行きにくいわ」

「それなのに……」

 またバン、とカウンターが叩かれる。

「船も野郎も一向に届かねえのは如何いう訳だ!」

 あらあら、とサマンサは口に手を当てる。

「うちは雑貨屋よ、人材派遣会社じゃないわ。貴女に紹介した男が船を持ち逃げしても、知る限りでないわよ」

「やっぱりか! 野郎、頭の風通しを良くしてやる!」

 荒れるアンドレアから離れて、エミリーがこそこそ話す。

「そんなだから構成員足りなくなるんじゃねえの」

 依子もこそこそ返す。

「職業柄仕方ないですよ」

 紅玉もこそこそ返す。

「あの女ボスも消えられるのが嫌なら、イタリア男以外を雇えばいいある。中国人、お金さえ払えばとても真面目よ」

「聞こえてるぞ小娘ども」

 低く呟かれた言葉に、慌てて視線を逸らした。

「まあ、落ち着きなさい。美人が台無しよ。それに、うちもそこまで無責任じゃないわ」

 サマンサはモバイルパソコンを開いた。

「ちゃんと、船に発信器くらいは付けてるのよ」

 ぴ、ぴ、と光が点滅している。

「ただ、少し変なのよねえ」

 光が点滅しているのは、海の中なのだ。陸地から三キロほど離れた場所で、ぴ、ぴ、と音がする。

「ね? 三キロも船を捨てて泳ぐほど、貴女はモテないかしら? イタリアマフィア、ロッソファミリーの女ボスさん?」

 ち、と舌打ちをする。

「三キロは泳がねえな。興味がないならお前の話を断れば済むことだ、サム」

 ふふ……とサマンサは笑う。

「安心して、貴女が船を出す前に、ちゃんと何があるか調べて来てあげる」

 嫌な予感が三人を襲う。

「ね、依子、エミリー、紅玉、ちょっと海まで行ってきて」

 予感的中。


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