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ヘヴンズ・ドアー  作者: 浮草堂美奈
第二章 ジャック・ザ・リッパー編
17/112

十六話―そこに、タブーは存在しない

「エミリー、時間頼むよ。できるか?」

「当ったりめえだ。細かいのは任せるぜ、ホン」

「よろし。じゃあ、依子、耳貸すね」

 何かを耳打ちしようとする紅玉に、マイケルは思わず嘲笑めいた笑みを浮かべた。

「敵の目の前で作戦の相談なんて、初歩の初歩もできてないよ。お話にならなすぎさ!」

 エミリーは腰のセミオートを構えた。

「大統領、こいつの装填量を知ってるか?」

「うーん…・…それはアメリカ製かい? よく分からないなあ……」

「H&K Mk23。残念ながらドイツ製だが、アメリカでも広まってる。自国の軍が使ってる銃ぐらい把握しとけ」

「だって僕は使わないんだもの。それで、装填量が如何したって?」

「簡単に言うと十二発以上くれてやるって事だ!」

 ダンダンダンダン

「はは、僕に銃は聞かないって……」

「うるせえ」

 照準を、合わせる。そして、その一発は与えられた。

「うわっ」

「庇ったな」

 一発、確かにマイケルは庇い後退した。

 狙った箇所は

 眼球!

「やっぱりな。お前は筋肉が丈夫なんだ、目玉の周りに筋肉はあっても、目玉自体に筋肉はねえからな!」

 マイケルが撃たれても平気だった理由、それは筋肉硬化! 筋肉を鉄板のように硬くして銃の威力を防いだのだ! 家を抱き潰したのは筋肉強化! 筋肉を一時的に増強させ、家をも潰す怪力を生み出した!

 目玉を庇ってマイケルは後退する。

「数えたか? 今ので五発だ」

「そ、それが如何したって云うのさ。君は二丁(トゥー)拳銃(ハンド)、二十四発当たらなければ良いだけだろ!」

「Yes。その程度のお頭はあるようだな」

 次の瞬間、エミリーはマイケルの懐に飛び込んだ。

 響く銃声、計十五発。

「き、君! 僕にこんなことをしたら君を狙った戦争になるよ!」

 目玉を庇ったまま後退するマイケルに、エミリーはニヤリと笑った。

「いいね戦争」

 ドン、次に狙ったのは股間、狙いにくかったのか外れたがいよいよ敵は反撃の為距離を詰めなればならなくなった。しかも、両手は目を庇って使えない、視力も無いのだ!

「いいねだって!? 君にどれだけの味方が着いて来るっていうんだい! どんな状況になっても、僕が正義(ジャスティス)! 君に勝ち目なんかないんだよ!」

 しかし、告げられたのは非常に冷えた言葉だった。

「ああ、あたし、そういうの如何でも良いんだ」

「如何でも良い……?」

「撃って殺せれば良いのさ。戦場でね。アンタも知ってるだろう。このヴァルハラはそんな奴が集うドブの底だってさ」

 

「ジャンヌ、ヴァルハラに来られる条件は知っていますね?」

 若草色のレースをあしらったドレスを身に纏った女性が、傍らのメイドに話しかける。

「知ってるっすけど」

「もう一度聞きたくなりましたわ。言って御覧なさい」

「殺し合いの中で死に、また戦う事を望んだ魂だけがヴァルハラに来てこの天上の戦場でラグナロクを待つんすよね」

「そう、その通りよ」

 メイドは片手のマシンガンを床に置いた。

「い、いきなり、皆殺しなんて酷すぎる!」

 残された一人の男は叫んだ。周囲には、肉塊と化した使者達が転がっている。

「我々は我が国が侵略され、非道な行いを受けた窮状を訴えに……!」

 恐怖のあまりだろう、目をぐらぐらと揺らしながらも、その使者は叫んだ。

「それが、この振る舞い、それは、あまりに、あまりに」

 女性はダチョウの羽根で作られた扇を口元に当てた。

「犬のクソでもお食べなさい」

「ひぎッ! そ、その言い草はなんだッ!」

「そちらこそそのゲロみたいな口のきき方はなんですか。犬の方がよっぽど追従の仕方をしっています。犬のクソでも食べて学びなさい」

 声も出ない男を芋虫でも見るような目で見る。

「良いですか。侵略とは他国をテメェの好き放題蹂躙したくてやるわけです。蹂躙の一つもできなくて、何故侵略を致しますか? 侵略された国はそれが嫌だから戦うのでしょう? それでも負けたんでしょう? 負けたくせに蹂躙を嫌がるのはお門違いと思いませんか?」

「そ……それは……非道だッ! 今の発言の撤回を」

「しません」

 彼女は軽く、手元のレバーを引いた。次の瞬間、男は肉片と化していた。硝煙の香りがスカートの下から毀れる。

 華麗に広がったスカートの下に、マシンガンを仕込み発砲したのである。

「ジャンヌ、片付けておいてくださいね。(わたくし)はマイケルが気になります」

「畏まりました。ブリタニア女王」

 メイドが一礼する。女王が座っていた側の壁には、一面にイギリス(ユニオンジ)国旗(ャック)が張られていた。


「クレイジーだ!」

「知ってるよ。あたしは戦争(ミリタリ)中毒者(ージャンキー)さ。きっかけを教えてやろうか? 南北戦争で敵将校の頭をマスケットでぶち抜いた時だ。あの時はこっちもぶち抜かれる寸前だったぜ。さてと」

 エミリーの口角が吊り上る。

「今、何分経って、あたしの残りの弾は何発だ? そしてお前は、海から何メートル離れてる?」

 マイケルは気づいた。自分が既に船から20メートル近く離れてしまっている事を。

 危機! それだけがマイケルの体を走り抜ける。

 船は、壊れた。

 警報ブザーのような赤い点滅を正面のたった一つの目玉から放つ、巨大な土人形が中から現れた。その姿は歪な子供の玩具のよう。しかし、この土人形が数多の日本武士及び各国の兵士を死に追いやった。

「新型が……ッ」

 ざわざわ……ざわざわ……。

「ゴーレムだ!」

「いや、ロボットだ!」

「な、何で人がッ!」

 いきなり響きだした声に、マイケルは悲鳴を上げた。

 海岸には寝間着姿のロンドン市民が集まっていた。

 最初は十数人だったその人々は、倍になり、倍になり・・・・。

「あれは我が国の戦艦じゃないか!?」

「何をする気だ!? あのゴーレムは何だ!?」

「いや、あれはロボットだ!」

 ついに、港を埋め尽くした。

 マイケルは気づいた。新型による、ロンドン市民への洗脳「何も気付かず眠れ」が切れたのだという事を!

「ど、どうやって……」

「さあな。あたしも時間稼げしか言われてねえんだ」

 その時、沈み行く船から逃れた人影が見えた。

「東洋人共ッ!」

 ジャックが出てきたところで理解した。

 マイケルを船から離した間に、連中は船に入り……新型にジャックの洗脳をかけたのだ! 新型は一切のタブーなど感じず、忠実に命令違反をした。そして、洗脳は解かれた。

 この戦いはあくまで新型の性能を試し、日本の弱体化を図ったもの。

 つまり、正式な戦いではない。市民の同意は得られていない! 大っぴらには戦えない!

 それを見越しての手段だった。勿論、今英国海軍に砲撃されれば終わりだ。しかし、市民は誰も気づかせて貰えなかった戦い。目の前で砲弾は撃てない。そんな事をすれば、日本と正式に開戦せねばならなくなってしまう。

 一切の負傷をせず、マイケルは敗北した。


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