↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヘヴンズ・ドアー  作者: 浮草堂美奈
第二章 ジャック・ザ・リッパー編
14/112

十三話―眠りを夢見る時でさえ片目はしかと見開いて

 日本武士は皇を頂点に、ピラミッド型の体制を敷いている。

 上下関係は厳しく、一般の兵は皇の前に立つ事すらできぬ。

 飯塚幾之助の地位は上から三番目の家老だ。

 ただし、彼は何をしているのか武士内でも把握されない事が多い。

 『よく分からない男』それが武士たちの評判の総称である。

 今回も、日本武士が毛嫌いしてやまないソ連に協力を求める事が驚きと共に伝えられた。イタリアンマフィアに金を叩く事に至っては賛同者はゼロだった。

 しかし、今は理解できる。

 飯塚幾之助と対等に”殺し合える”人間は日本武士にいない。

 つまり、こうなる事は彼は予想していた。

 それを理解できたなら、二人の答えは一つだ。

 アンドレアとウラジーミルの声が揃った。

「ブチ殺す」

 ベレッタとトカレフを抜き、振り返る幾之助を狙い定めて撃つ。

 しかし、幾之助は刀を一閃した。

 二人が息を呑む。

 幾之助に傷は無い。

 つまり。

 この男、弾丸を斬った……!

 片手に銃を握った儘、ウラジーミルは特殊警棒で殴りかかる。

 ぎんっと嫌な音を立て、日本刀がそれを受け止める。振り下ろそうとするが鍔迫り合いのように動かない。

「……バケモノめ」

「お互い様でしょう」

 アンドレアががら空きの腹部に向かってコルセスカを構える。即座に人をも貫く水圧の水が放たれた。

 しかし、幾之助はウラジーミルを刀で弾き飛ばすと、自らも即座に移動した。

 水は壁に突き刺さっただけで終わる。

「片手で大丈夫ですよね?」

 はじき飛ばされたウラジーミルに唐竹割を繰り出す。かろうじて特殊警棒で受け止めた。

 ぎぎ、と特殊警棒が軋む音がする。

 冷や汗が僅かに伝った。

「あれ、片手では厳しいですか?」

 思わずトカレフを取り落し、両腕で特殊警棒を掴むのに、口の端を吊り上げる。憎たらしい顔である。

 それを背後からアンドレアが迷わず撃つ。

「うぐ……っ」

 苦鳴が上がるも、体を捩じらせ、致命傷は避けていた。その隙を突き、ウラジーミルは蹴りを幾之助の顎に叩き込む。

 当然刀は受ける事となった。腕にバッサリと傷が開く。肉がはっきり見えるレベルの。

 脳を揺らされ、幾之助は地に伏せる。

「やったか……?」

「撃たれて顎蹴られて動けんなら、ホントにバケモノだな。それよりお前、腕使えるか?」

「問題ない」

「いや、問題なくねえだろ。それは」

 出血がほとばしる腕を見て顔を顰める。確実に神経もやられている。

 しかし。

 いきなり血が止まったと思えば、傷がみるみる内に塞がっていく。ぴたりと引っ付いた皮膚を撫で。

「完治」

 普通に手を握ったり開いたりしているが、軍服が見事に斬れて鮮血が染みついているところから、先ほどの傷は確かにあったのだと知らされる。

「ソ連の人体改造か。お前も大概だな」

 呆れたように呟くアンドレアに一言告げられる。

「体内電気」

「!」

 驚いた様子に続ける。

「貴様がその槍を使って操るのは水素と酸素だ。水は水素と酸素の結合物だからな。それを操る方法は電気分解。槍で体内電気を使用して電気分解を効果的に使い、海水を水素と酸素に電気分解すれば、空白地点は先ほどのように水が流れ込み、波を操る。逆に空気中の酸素と水素を結合させれば、空中に水を作り出せる」

 暫く沈黙していたが、アンドレアは大げさに肩を竦めた。

「流石KGB」

 一息ついていた二人だが、その揺らぎには機敏に判明した。

「いけないいけない……こんな時に眠るのなら、片目は貴方たちを見ていなければ……」

 ゆっくりと幾之助が立ち上がる。弾丸を受けた傷は未だ血を流し、目の焦点もぶれているのに。

 刀を拾い上げると、幾之助は前髪をぐしゃりと掴み、上げた。

「私は、貴方たちを、斬る」

 二人の間の壁が斬りおとされるまで、動けなかった。


 依子がジャックを追ったのは、ほとんど衝動であった。

 突如走り出した彼からは、離れていけない。

 そんな”何故だか分からない”義務感に追われ、港へ向かい走って行く。

 後で、それは本能だと理解できるのだが、今の彼女は知る由もない。

 霧で霞んだ暗い海が見えてきた。

 そして、そこに居るのは・・・。

「紅玉! エミリー!」

 いきなりの登場に二人が目を見開く。

「依子……! お前・・無事で……!」

 安堵の声が出たのは一瞬だった。

「見つけた! 君はジャック・ザ・リッパーだね!」

 マイケルの明るい声が響き、全員が動きを止める。

 ヴィクトリア朝ロンドンの連続娼婦殺し……!

 それを指しているとは思えないほど、少年の声は朗らかだ。

 ジャックはマイケルを睨みつける。

「肯定の沈黙と受け取っていいのかな? 受け取らせて貰うよ!」

「俺の兄弟はその船か」

 暗い声に、明るい声が返される。

「兄弟? ああ、確かに兄弟かな! でも、君よりずっといい子だと思うよ!」

 金髪の少年は、煉瓦造りの倉庫の壁に手をかけた。

「会わせる訳にはいかないけどね」

 ジャックはナイフを取り出す。

「力ずくで行く」

 ぎらつくナイフを見て、マイケルは無邪気に笑った。

「ダメだって言ってるだろ! 僕はアメリカの大統領、つまり、世界で一番愛される存在なんだらさ」

 みしり、みしりと煉瓦が軋み始めた。

「言う事はちゃんと聞いてよね!」

 建物が崩れる。

 マイケルは、サバ折りのように2階建ての倉庫を抱きつぶしたのである!

「そうしないと、愛されなくなっちゃうよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。