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第四話 戦いの始まり

 イキシアから話を聞いた蓮は、立ち去り際にイキシアが残した言葉に従い、部屋の中に籠っていた。

「暇だ…………」

 イキシアが出ていってから時間が経ち、日付が変わり、外は蓮を誘う様に晴れ晴れとしてた天気だった。

 初めはイキシアの話を聞いて、蓮の中で恐怖を感じていた部分もあった。しかし、時間が経つにつれ、その恐怖は薄れていき、曖昧な理由でごまかし始めた。

「イキシアはヒルガの仲間がいるかもって言ってたけど、何千、何万と人がいる中、そんな簡単に会うわけないよなぁ」

 何の保証もない理由は、時として大きな過ちを起こしてしまう。どんな場面でも……

 蓮は再度、窓の外を見た後、突然立ち上がり、玄関に向かった。

「ちょっとくらいなら大丈夫だよな。それに、人を隠すには大勢の人の中ってね」

 そう言って、鼻歌を歌い、ご機嫌な様子で蓮は部屋を出ていった。

 

 

 外は思っていた以上にぽかぽかしていて、気持ちが良かった。今までずっと部屋の中にいた蓮には、余計にそう感じられた。

「あ〜、やっぱ人間も光合成しないと駄目だよな」

 ぐっと伸びをして、縮まっていた身体をほぐす。

「さてと、ちょっとだけと思ってたけど、こう気持ちが良くちゃ、すぐに戻るのは勿体ないよな。街の方まで行ってみるかな」

 

 

 その頃、蓮を監視していたクロッカスから、イキシアのもとに報告が入った。

「やっぱり忠告を守らなかったのね」

 イキシアはわかっていたとは言え、しょうがないなと言う感じに、ため息を吐いた。

「仕方がないわね。万が一を考えて、私も向かうわ」

 そう言ったイキシアに対して、側にいた使用人が話し掛けた。

「お嬢様が向かわれなくとも、変わりの者を向かわせればよろしいのではないでしょうか?」

 イキシアは、にこりと使用人に笑顔を向けた。

「ありがとう。でも、相手はレクイム。能力のないあなた達では、敵わない。それに、私はもう……失いたくない」

 力強く、決意の込められた、強い瞳だった。

 そんなイキシアの瞳を見た使用人は、すっと頭を下げた。

「出過ぎた真似をしました」

「ううん。ありがとう」

 

 

 街に来た蓮は、いつもの道が、すごく新鮮に感じた。たった一日も経たない時間でそう思ってしまう程、人間の心は過剰に反応するのだ。

「やっぱり、あの忠告は、イキシアの考え過ぎなんだよな」

 実際、蓮は外に出て、昼食を取り、ぶらぶらと街の中を歩いているが、いつもと同じ人ごみで賑わっていた。そして、あるビルの下まで来た瞬間、蓮の右腕は電流を直接流された様な感覚がした。

「ッ!? 何だ? 右腕が急に……」

 ピリピリと痛む様で、つきまとう様に拡がる黒い陰。

 蓮は目の前のビルを見上げた。

「ち、違う。このビルじゃない……」

 恐怖を覚えながらも蓮は、右腕の痛みに導かれる様に、ビルとビルの間にある細道を歩いて行った。

 蓮が細道を抜けると、周りをビルに囲まれた小さな空き地があった。その空き地の隅には、カップルと思われる男女が、激しく唇を重ね、舌を絡ませ、唾液の交換を行っていた。

 端から見れば女の方が年上に思えた。肩に掛かるか、掛からないかくらいの長さで、瑞々しい黒髪。胸元を強調させる様な、大胆な服装。どうみても、男を誘っている服装だった。

「昼間から大胆過ぎるんだよ。やるなら、場所選べっての」

(って、あのカップル、場所はちゃんと選んでるんだよな? ここ人目につきにくいし。これは、俺が悪いのか?)

 段々、自分がこんな場所に入って来てしまった事に罪悪感を覚えた蓮は、すぐにその場離れようと踵を返した。

 その瞬間、行為に夢中になっている男とは対象的に、冷静な女の方はぴくりと反応をした。

「今日はここまで」

 そう言って、女は行為を中止した。もちろん、お預けをくらった男は納得出来ず女に訴えるが、女の鋭く変化した瞳を見ると、大人しく引き下がった。

 

 

「さてと、次は何処行くかなぁ?」

「――もう行ってしまうの?」

「!?」

 背後からの声に、蓮は振り返った。そこには、先ほどまで淫らな行為を行っていた女が立っていた。

「ふふ、貴方なかなか可愛いわね」

 女がうっすらと笑みを浮かべた瞬間、それに反応するように、蓮の右腕にビリビリと痛みが走った。

「ッ!?」

 咄嗟に右腕に手を伸ばした蓮の様子を見て、女は先ほどよりも更に不気味に笑った。

「そう、右腕が痛むのね? ――イキシア…………」

 女の口から思いも寄らない名前が出た事に、蓮は驚いて視線を上げた。そして、女の姿を確認した瞬間、パンッ! っと、言う炸裂と共に、女の背後に真っ赤な鮮血が飛び散り、地面を赤く染めた。

「ッ!?」

 いくら突然の出来事であったとは言え、今の真っ赤な鮮血が誰の物であるか、蓮でも容易に想像が出来た。

「そう。坊やは、イキシアを知っているのね?」

 その一言で、女の纏う空気が明らかに変わった。

 背筋が凍る様な感覚。そう、例えるなら、何も身に着けていない生身の状態で、腹を空かせて唸っているライオンやトラの前に立っている感じだ。

「そんなに怖がらなくて大丈夫よ。素直に話してくれたらね」

 蓮の中の何かが言っている気がした。その女の言葉を信じてはいけないと。

 蓮は出来る限りの力を足に込めて走ろうとした。そんな蓮の気配を感じ取ったのか、女が、まるで蓮の行動を楽しんでいるかの様に言った。

「止めた方がいいんじゃない? 君が逃げるとお姉さんも困っちゃうから……。それに、君が逃げようとすると、後ろの奴みたいに、君の後ろを歩いている人達が吹き飛んじゃうよ」

 女はくすくすと笑っていたが、目は蓮が逃げようとすればその行為を行うと、語っていた。

「さて、いきなりだから、名前も聞いてなかったかな。私は鬼灯、鬼灯ほおずき はぎ。君は?」

 この女の様子から、逃げるのは難しい。それに、本当かわからないけど、通行人を俺のせいで死なせるわけには行かない。ここは、名前を名乗った方が良さそうだな。それに、名前だけじゃ、何も変わらないだろうからな。

「蓮」

 蓮は素っ気無い感じで答えた。必要最低限の言葉で、極力、自分の持っている情報を鬼灯に渡さない様に考えての事だった。

「蓮ね。――じゃあ、蓮。イキシアについて、知ってる事を教えなさい」

 蓮は何も答えようとしなかった。すると、鬼灯は蓮がそんな反応をするだろうと予想していた様に、笑って、蓮の後ろを指差した。

「はい。一人目」

 その瞬間、先ほどと同じ炸裂音が響き、蓮の後ろで歩いている通行人の一人の片足が吹き飛んだ。

 突然の出来事に、周りの通行人達は慌てていた。応急処置をする者。電話を手に取る者。恐怖のあまり、悲鳴を上げる者。人々は様々な、行動をとっていた。

「これでわかったかしら? 抵抗はよくないわよ」

 鬼灯の行った行為を見て、蓮の中で湧き上がる気持ちがあった。

「それで、イキシアは、今どこにいるの?」

「………………」

「二人目」

 先ほどと同じ様に、鬼灯が通行人を指差した。すると、今度は、先ほどとは別の通行人の片腕が吹き飛んだ。周囲には男の吹き飛んだ腕から溢れる血が飛び、まさに、血の雨のような状態だった。

「ふふふ…………。赤くて綺麗な雨ね」

 鬼灯はまるで蓮を挑発するように、笑みをこぼし、楽しそうに言った。

「ギリッ! ふざけるなよ……」

 蓮は歯軋りをして、鬼灯を睨み付けた。怒りが集められた拳は硬く握られ、既に感情が爆発しそうになっていた。

「あらぁ? もしかして怒っちゃった? ふふふ、でも、蓮がイキシアの事を話すまで止めないわ」

 鬼灯のその言葉に、蓮の極限まで張り詰めていた、糸がプッツンと切れた。

「ふざけるな!!」

 バチッ! っと、蓮の右腕に何かが起こった。それは、蓮の心に同調しているかのように、右腕が答えた瞬間だった。

 蓮は、右腕をビルの壁に当てた。すると、ビルの壁についている鉄パイプが剥がれ、鬼灯目掛けて落下していった。

「危ないじゃない」

 鬼灯は落ちてくる鉄パイプを難なく交わすと、蓮の右腕に視線を向けた。

「やっと、見せたわね? やっぱり、あなたも能力者ね?」

 感情が爆発している蓮は、鬼灯の言葉に耳を傾けることなく駆け出した。そして、蓮は走り出すと同時に、右拳を解き、開くと、鬼灯の足下に落ちている鉄パイプがまるで吸い付くように、蓮の右手に向かって飛んできた。蓮はそれをキャッチすると、そのまま鬼灯に向かって行った。

「あぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 向かってくる蓮に対し、鬼灯は取り乱すことなく、すっと蓮に向けて指を伸ばした。

「腕や足が無くても、死ななければ話せるわよね?」

 一直線に向かってくる蓮に、鬼灯は照準を合わせた。

 その瞬間、蓮と鬼灯の間に、何者かが割って入ってきた。

「それまでだ! 小僧、感情に流されて己を見失うなど、戦闘においては死と同じ愚考!」

 そう言って、その男は自らの拳をビルの壁に突き立てた。ビルの壁は男の拳によって破壊され、鬼灯の上に降り注いだ。

「くっ!?」

 その瓦礫が、ちょうど煙幕のように砂煙を立て、鬼灯の視界を塞いだ。その隙に、男は蓮に一撃を食らわせ、担ぎ上げると、そのまま姿を消した。

 砂煙が薄まり、鬼灯の視界が回復した時には、蓮の姿も、割って入ってきた男の姿も消えていた。

「逃げられたか…………。まぁ、いいわ。次に見つけたら、最初に腕と足を吹き飛ばして、動けないようにしてあげるから……。ふふふふふ、あははははははは!!」


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