表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/10

第三話 目的

 現在、イキシア達と場所を移動し、蓮の家に来ていた。

「随分と狭いところね? 本当に此処が家なの?」

 はははっ、確かに、狭いけど、入って第一声に言わなくても……

「ま、まぁ、確かに狭いかもしれないけど、俺ぐらいの奴には、平均的な所だと……思う。でも、ここが狭いって言うなら、イキシアの家はどんな所なんだよ?」

 軽い感じに言った蓮の言葉に、イキシアはぴくりと反応した後、少し表情に陰を落とし、静かに言った。

「――地獄よ」

 イキシアの言葉を聞き、クロッカスが表情を曇らせた。

(じ、地獄って、イキシアは親に虐待とかされてたのか? それとも…………いや、人様の家庭環境に首を突っ込むのは、よくないよな)

「悪かった。狭いけど、好きな所に座ってくれ」

 蓮は申し訳なさそうにイキシアに言った。 イキシアは部屋に上がると、フローリングの上に置いてあるローテーブルの前に座り、イキシアの背中を守る様に、クロッカスはイキシアの後ろに立っていた。

 蓮は、冷蔵庫の中から、緑茶を取り出してコップにつぐと、ローテーブルの上に置いた。

「これは?」

 ローテーブルに置かれた飲み物に対して、イキシアが不思議そうに蓮に尋ねた。

「これは? って、只のお茶だけど?」

 そう、返した蓮にクロッカスが、ぐっと顔を寄せてきた。

「お嬢様は、緑茶と言う物をお召し上がりになった事は無いのだ。朝は、ダージリン。お昼は、アッサム。お夕飯は、ジャワ、と、決まっておるのだ」

(おいおい、何処のお嬢様だよ。ってか、マジでお嬢様なのか?)

 そんな話をしていると、イキシアはテーブルの上に置かれた冷たいお茶を一口飲んだ。コップを持ち上げてから置くまで、全く音を立てず、完璧な作法だった。

「こくっ……。うん。これは、これで美味しいわ」

 そう言って、イキシアは一人で、うんうんと納得していた。

「ところで、お菓子はないの? ティータイムには付き物でしょう?」

「お菓子?」

(全く、外人は皆、そうなのか?)

「え〜と、確か、買っておいたやつが……あった!?」

 蓮は台所の下の棚を開けて、煎餅を取り出すと、皿に入れて、イキシアの前に運んだ。

「ほら、これでいいだろ?」

「これは何? ティータイムには、クッキーやケーキ、パイなどが常識でしょう?」

(こいつは……、駄目だ。完全に箱入りのお嬢様だ。)

「いいか、イキシア? お茶には、クッキーやケーキじゃなくて、煎餅の方が合うんだよ。騙されたと思って食べてみな」

 イキシアは、少し躊躇しながら、一枚の煎餅をとって囓った。

 パリッ!

 そして、少しの間、口の中で煎餅の味を味わった後、また、一人で頷いた。

「これは、これで悪くないけど、硬い……」

「煎餅なんだから、当然だろ」

 半分呆れながら見ていた蓮だったが、いつの間にかイキシアの煎餅を食べる姿をじっと見ていた。

 それは、イキシアの煎餅を食べる姿が、まるで、ハムスターやリスの様に、歯でカリカリ、カリカリ、煎餅を少しずつかじっていて、すごく可愛らしくて、ちょっと癒されている感じがしたからだ。

 そんな蓮の視線に気付いて恥ずかしくなったのか、イキシアは名残惜しそうに煎餅を置くと、一呼吸おいて蓮に視線を向けた。

「それじゃあ、そろそろ説明するわね」

 蓮はイキシアの言葉を聞き、向かい側に座った。

「先ず、蓮は超能力って知ってるわね?」

「そりゃあ、もちろん知ってるさ」

「じゃあ、超能力って本当に存在すると思う?」

 イキシアの問いに対して、考えるまでもなく、蓮は言った。

「あれは、タネがあるんだろう。宙に浮くのは透明なワイヤーだとか、切断した様に見せて、鏡を使っていたり」

 蓮の言葉を聞き、イキシアはまた一人で頷いた。

「じゃあ、蓮は今言った様な、道具を全く使わない超能力って見た事ある?」

「多分、無いと思う」

 正直、全部タネが分るわけじゃない。もしかしたら、そんな奴がいたかもしれないと言うレベルだった。

「うん。蓮の場合は、口で説明するより、実際に見てもらった方が早そうね」

 そう言って、イキシアは蓮に何かを確認するように視線を向けた。

「いい? このお茶をよく見ていて」

 イキシアの言葉を聞き、蓮はテーブルに置かれているコップに視線を向けた。すると、コップの中に入っているお茶が少しずつ宙に浮かび上がった。そして、浮かび上がったお茶は、空気中の水分を取り込み、肥大して行った。

「あ、な、ななな」

 驚きの余り声も出せず、蓮の視線はお茶とイキシアの顔を行き来していた。

「どう? これで、信じてくれるかしら?」

 蓮は宙に浮かぶお茶の周りを手で探ったが、ワイヤーや鏡といった物はなく、正真正銘、お茶だけが宙に浮いていた。

 流石に、こんなことを目の前で見せられたら、否定しようがない蓮は、まだ疑問が残っていたが、イキシアの言葉に頷いた。

 宙に浮いていたお茶は、何事もなかった様に、コップの中に戻っていった。

「じゃあ、次。蓮は数年前にあった流星群を覚えてる?」

「数年前の流星群?」

(いつだったか、正確には覚えていないけど、確か高校に通っていた頃に、そんなのがあった様な…………)

「確か、ニュースとかで取り上げられて、周期がどうのとかって、大騒ぎになってたやつだよな?」

「うん、正解」

 そう言った後、一呼吸置き、イキシアの表情から笑顔が消えた。

「――じゃあ、その流星群で流れたのは、本当に星だと思う?」

 突然のイキシアの表情の変化と共に、部屋の空気が重さを増した。

「ほ、星じゃないって言うなら、何なんだ?」

 蓮は精一杯の言葉をイキシアに向けた。

「――神々の魂。それも、手のつけられないくらい、荒ぶった」

「神々の魂?」

 先ほどのお茶といい、今度の話しといい、現実離れし過ぎている。

「そう、神々の魂。そして、荒ぶった神々の魂を治めるためには器が必要だった」

「器…………ッ!? もしかして、それが俺達、人間だって言うのか?」

「蓮は頭の回転がよくて助かるわ。その通りよ。神々は魂を治める器として、私達、人間を選んだ。そして、その代償として、選ばれた人間には、自らの持つ力の一部を与えた」

(なるほどな。それが、さっきのお茶を宙に浮かせた力ってわけか。……力?)

「もしかして、イキシアが初めに言ってた俺の力って?」

 イキシアは、蓮の言葉を聞いて満足そうな笑みを浮かべた。

「本当、蓮には説明しやすいわ。そう、蓮も神々に選ばれた人間。そして、神々の力を与えられた特別な存在。私は神々に力を与えられた人間を、レクイムと呼んでいるわ」

 蓮は自分の身体に視線を落とした。

「力は身体の一部を神に預ける事によって使用できるけど、その部位は神が選択する。蓮」

 名前を呼ばれた蓮は、反射的に顔を上げ、イキシアに視線を向けた。すると、先ほどまで透き通る様に青かったイキシアの左目だけが、真っ赤に染まっていた。

「イ、イキシア?」

「私の発動代償部位は、左目。赤く染まった間だけ能力の使用が許される」

「お、お嬢様!?」

 後ろで静観していたクロッカスが、慌てた様子でイキシアに呼び掛けたが、イキシアはそれを腕で制した。

「良いのよ。協力をお願いするのに、こちらの情報を隠していては、失礼にあたるわ」

 イキシアに言われると、クロッカスはそのまま元の位置に戻った。

「ちょ、ちょっと待った。協力ってなんだ?」

「勝手に話しをして、ごめんなさい。今までのは、只の基礎知識。ここからは、私達の目的」

「イキシアの目的?」

 すると、イキシアは気持ちを落ち着かせる様に、お茶を一口飲んだ。

「お嬢様、そのお話は私から……」

「ありがとう。大丈夫よ」

 今のイキシアとクロッカスの様子からすると、かなりの理由があるのだと言う事はわかる。

 蓮もどこか緊張して、握った手のひらには、じっとりと汗が滲んで来ていた。

「先ず、単刀直入に言うわ。私達の目的は、ヒルガと言う男の計画を阻止する事」

「その計画ってのは、どんな事なんだ?」

「人類の再生よ」

「人類の再生?」

「そう。人類の再生と言えば聞こえはいいかも知れないけど、実際は、この地球上のあらゆる生物を殺し、新しい人間による、新しい世界を作る事。それが、ヒルガと言う男の描いている理想の世界」

(全ての生物を殺し、新しい世界を作るだって? そんなの、どう考えたって人間の力で出来る事じゃ…………)

 そこまで思考回路が回った瞬間、蓮の中で一つの答えが浮かび上がってきた。

「なぁ、イキシア。もしかして、イキシアが追っているヒルガってのも、神々に選ばれたレクイムってやつなのか?」

「くすっ……。蓮の言う通り、ヒルガもレクイムよ。そして、ヒルガの仲間も」

「仲間って。イキシアが追っているのは、ヒルガって男、一人じゃないのか?」

「ヒルガの計画に賛同してる者達がいるの。ヒルガの計画は実行するまで、それなりに準備が必要なの」

(だから、その準備期間に計画事態を阻止されない様に守る護衛、か)

「っで、イキシアはその計画を阻止するために追ってきたと……。それと、協力を求めているところを見ると、思っていたより、敵の人数が多くててこずっている」

 イキシアは蓮の言葉に頷き、改めて真直ぐ蓮の目を見た。

「その通りよ。私とクロッカスだけでは、ヒルガの計画を阻止するのは難しい。だから、私達と同じ能力を持つ人に協力を求めている。――蓮、私達に力を貸して」

 蓮は暫く考えた後、

「悪い……。少し、時間をくれ」

「――わかったわ。明日の夕方、もう一度ここにくる。それまでに決めて置いて……クロッカス」

 そう言って、イキシアは立ち上がり、玄関に向かっていった。そして、ドアの前で立ち止まった。

「それと、一つだけ忠告しておくわ。明日、私が来るまでは外に出ないことね。既に、ヒルガ男の仲間がいる可能性もあるし、レクイム同士、不思議と引きつけあう。今の蓮がそいつらに出会ったら、間違いなく殺される」

 イキシアはそのままドアを開けて、クロッカスと一緒に出ていった。

 

「お嬢様。あやつをほおっておいてよろしいのでしょうか?」

「そうね。頭の回転は良さそうだけど、まだ、完全に信じていない。時間が立てば、私の忠告など忘れてしまうでしょう。念の為、クロッカスは蓮の様子を見ていて。何かあったら、すぐに報せなさい」

「かしこまりました」

 クロッカスはイキシアに一礼すると、何処かに姿を消した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ