表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

第二話 水と少女、そして始まり……

「お疲れ。じゃあ、後、頼んだよ」

「お疲れ様です。蓮さん」

 夜のシフトの奴に挨拶をして、蓮はコンビニを出た。

「……あいつ、今日はあの後、来なかったな」

 朝、薺が出て行った後、いつもならコンビニの前でタバコを吹かしているのに、今日は姿を見なかった。

「べ、別に気にしてるわけじゃない」

 ぶんぶんと、何かを否定する様に、蓮は頭を振った。

(今朝のは、只の気まぐれ……そう、気まぐれだ)

 蓮は一人でぶつぶつ呟きながら、家に向かって歩いていた。そして、帰路の途中にある、小さな公園に差し掛かった時、見知った人影が見えた。

「あれ? あれは、柊 薺?」

 太陽も沈み始め、長い影が地面に写っていた。薺自身の影と、そして、薺に向かって伸びる影。

 薺の向かい側には、男が不気味に笑い、薺の行方を塞いでいる様だった。

(俺は、薺の向かい側に立っている男は知らないはずだ。でも、何だ? 何かが引っ掛かる)

 蓮は、薺達からは離れて様子を伺う事にした。

 

「あんた、あたしに何か用?」

「くくく………」

 男は薺の言葉に、只、笑っているだけで、何も答えようとしなかった。

「はぁ〜。あんたさ、用事があるなら早くしてくんないか?」

「くくく………」

 薺は一向に変わらない男の態度を見ると、その場を去ろうと一歩進んだ。

「わかった。じゃあ、あたしが行くわ」

「くくく………」

 薺が一歩を踏み出した時、男は隠し持っていた刃渡り15cm程のナイフを取り出し、薺に突き付けた。

 それを見た薺は、やっとかと、まるで男のその行動を待っていた様に言った。

「やっと出したね。最初から出せば言い物を」

 薺は男の正面に立ち、腕を組んだ。

「あんただろ? 最近、ニュースでやってる、殺人犯ってやつは」

 薺の言葉を聞いた男は、そこで初めて笑い以外の反応を見せた。

「気付いていたのか? しかし、俺の正体を知ってて逃げ出さないとは、只の馬鹿か? くくく………」

 男は嬉しそうに、持ってるナイフを舌なめずりし、ポケットから掴み出した白い錠剤を口に押し込み、ボリボリと食べ始めた。

「はぁ〜……。お前、柔らかそうな肌をしているなぁ。ザックリと切り刻んだ後に、臓物を取り出し、目玉をくりぬき、皮だけ剥ぎ、俺のコレクションに加えてやる」

 男は、まるで超高級料理でも、目の前にあるかの様に、よだれを垂らした。

「ごたくはいいよ。あたしは、あんたみたいな奴、大っ嫌いなんだ!!」

 

 

 一方、その様子を二人から離れた位置で見ていた蓮は、

「そうか!? なんか見た事あると思ったら」

(でも、薺の奴、あいつを下手に刺激してないだろうな? いや、薺の奴の事だ。あの不良に絡まれてた時も、自分から挑発していた。

 もし、あの殺人犯が薺に襲いかかったら、俺はどうする? また、見て見ぬ振りをするのか? 今朝の不良同士の喧嘩と違って、人一人の命が掛かっているんだぞ?

 出て行ったとしても、俺に得な事は何もない。むしろ、損をする可能性の方が高い。下手すりゃ、殺される可能性だってある)

 蓮が悩んでいると、男が薺に向かってナイフを取り出していた。

「!?」

(ふざけるなよ! 何でこんな場面に俺が出くわしてんだ!? 神でもいたら、ぶん殴りたい!)

 そんなことを心の中で叫びながら、蓮は勢いよく飛び出すと、薺達に向かって走っていった。

 

 

 男は薺の身体をじっくり視姦した後、ナイフを構え直した。

「それじゃあ、早速、お前の肉の感触を味わわせともらおうか」

 男の言葉と同時に、薺の体にも力が入った。

「止めろ!!」

 その時だった。薺と男の間に、全速力で走って来た蓮が割り込んだ。

「薺、何してんだ!? 早く逃げるんだよ!!」

 蓮は薺の手を握り、その場から急いで逃げ出そうとした。

「竜胆 蓮? お前、何やってんだ!?」

 薺は蓮に掴まれた手を振りほどいた。そして、薺の視線は蓮ではなく、ナイフを持つ男に向かって伸びた。

 男は逃げ出そうとする獲物を狩る様に、嬉しそうな笑みを浮かべ、懐からさらにナイフを取り出し、一本を逃げていく獲物の脳みそ目掛け投げた。

 この時、薺はすでに迎撃の体制を取っていたが、薺の視線を追った蓮には、男が投げたナイフ以外見えなくなっていた。

「薺――――!?」

 咄嗟に薺を庇う様に、ナイフの前に立ちはだかった。蓮の行動を予想出来ていなかった薺は、結果を見ている事しか出来なかった。

 男が投げたナイフは、確実に、蓮の額目掛けて迫ってきた。当たる瞬間、蓮は迫り来る死の恐怖から目を閉じてしまった。しかし、おかしな事に、蓮の額からは何の痛みも襲って来なかった。

 普通なら、ナイフは蓮の額に深々と突き刺さり、血やら脳みそやらが流れ出しているはずだった。

 その状況に蓮も驚いたが、ナイフを投げた男の顔は、蓮の思っている以上に引きつった笑いを浮かべていた。

「な、なんだ?」

 男はさらに、蓮に向かって二本目のナイフを投げつけた。

 しかし、そのナイフも先ほどと同じ様に蓮の額には届かなかった。男が外したのではない。ナイフが蓮を避けていったと言う方が、表現的には正しかった。

「――ぐっ!」

 男は蓮の存在を不気味に感じたのか、一度、後ずさりをすると、そのまま姿をくらましてしまった。

 あまりの出来事に蓮自身も、男を追いかけると言うところまで頭が働かず、その場に固まっていた。すると、蓮の前に今度は、薺の姿が現れた。

 薺は一瞬笑みを浮かべた後、鋭い目つきに変わり、蓮の胸倉を掴み上げた。

「お前、何、偽善者ぶってんだよ!? あたしを助けようとしたのか!? ふざけるなよ!! あたしはそういうやつが大嫌いなんだ!!」

 そう吐き捨てるように言うと、薺は蓮の胸倉を掴んでいる手を離し、咥えていたタバコを蓮の足下に捨てた。その瞬間、蓮の足下に捨てた薺のタバコは大爆発を起こした。その場にいれば、確実に死を逃れられない爆発だった。

 しかし、蓮の身体は爆現地から離れた場所に移動していた。そして、蓮の目の前には黒い執事服を着て、テカテカに髪を固めたおっさん? と、巨大な水の壁が、連を守るように立っていた。

「あなたも能力を使えるのね。でも、火では、私の水に勝てないわ」

 そう言ったのは、巨大な水の壁の側に立っていた、一人の少女だった。

「チッ!」

 巨大な水の壁を前に薺は一つ舌打ちをすると、踵を返した。

「あっ!? 薺!?」

 蓮が薺の名前を呼ぼうが、振り向きもせず、薺はその場を去っていった。

 そんな薺を気にする様子も見せず、少女は蓮の方を振り向き、話を始めた。

「あなた、変わった能力を使うのね? 今のナイフの避け方からするに、物体を破壊するよりも利用する能力ね」

 蓮は少女の言っている意味がわからなかった。

「あっ・・・・・・」

 少女は、蓮の言葉を遮る様に休む事なく、話を続けた。

「そう言えば、自己紹介がまだだったわね。ごめんなさい。私はイキシア。イキシア・リーブ。こっちは執事のクロッカスよ」

「クロッカス・グロリオサと申します。イキシア様の執事をやらせて頂いております。以後、お見知り置きを」

 そう言って、クロッカスと名乗った執事は、自慢の髭を人差し指と親指で摘んだ。

 蓮は目に映った執事のオッサンを、ひとまず置いといて……イキシアの方を見た。そのたたずまいは、何処か気品を感じさせ、整った顔立ちに、瞳は透き通る様な青色、肌は白く、まるで、自らを象徴するように咲き誇る花の様なイメージがピタリと合う少女だった。

「あっと、俺は蓮。竜胆 蓮」

 蓮もイキシアにつられて自分の名前を言った。

「蓮ね。っで、蓮のレクイムの能力を聞かせて」

「レクイム?」

 聞いたことも無い単語を言われ、蓮はそのまま、イキシアに聞き返した。

「レクイムとは、イキシアお嬢様がつけた神の能力を使う者達の名前だ。お前も選ばれたのであろう?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺はレクイムとか言うのじゃないし、神様の能力を使うことなんて出来ないぞ」

 その言葉にイキシアは不思議そうな表情をして、蓮の顔をじっと見つめた。

「蓮と一緒にいたあの人。あの人もレクイムでしょ?」

「………………」

 蓮は解答に困ってしまい、イキシアの瞳を見つめ返すことしか出来なかった。

「お嬢様。こやつ、まだ、自分の能力に気づいていないようですな」

「ふぅ、どうやらその様ね」

 イキシアは、あからさまに大きいため息を吐いた。

「それなら、場所を変えましょう。説明してあげる」

 蓮はイキシアの言葉に流されるまま、場所を移すことにした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ