表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/10

第九話 弟

「……こ、こ、は…………?」

 鬼灯が目を覚ますと見知らぬ天井があった。

 気を失った後、何が起こったのかわからない鬼灯は、ゆっくりと辺りを見渡した。

「ん? 目、覚めたみたいだな。何か飲むか?」

 鬼灯の視線の先には、台所に立ち、ポットを火に掛けている蓮の姿があった。

「――!? お前は!?」

 突然の事で驚いた鬼灯が身体を起こそうとすると、すっと小さな手がそれを制した。

「落ち着きなさい。別にあなたを殺そうってわけじゃないわ」

「イキシア? そうか……私は……」

 鬼灯はそのままバタッ! と、布団に倒れた。

「――情けないわね。敵に捕まって生きているなんて……」

 鬼灯は腕で表情を隠しながら、そう呟いた。

 そこへ、蓮がおぼんにお茶とお茶菓子を乗せて来た。

「まっ、暗い話は置いといて、お茶にしようぜ」

 そう言って、ローテーブルの上にコップとお茶菓子を置いていった。

「蓮、これは何?」

 そう言って、目をキラキラさせながら、イキシアはローテーブルに置かれたお茶菓子を指差した。

「それか? 煎餅だよ。前に食べただろ?」

 蓮の言う通り、確かに形は前に食べた煎餅に似ていたが、目の前にある煎餅は、前のに比べて、色は白かった。

「前に見たのと色が違うわ。前のは、もっと汚い色だったわ」

「食べ物に汚いは止めなさい。それに、その煎餅の色が違うのは味が違うから」

 すると、イキシアは、恐る恐るお茶菓子に手を伸ばした。

「……嘘だったら、許さない」

 何やら怖い言葉が聞こえてきたが、間違ないはないので、蓮は胸を張って待っていた。 イキシアはカリカリと煎餅を少しかじり、味を確かめると、一度、蓮に視線を向け、直ぐに戻し、また、カリカリと小動物の様に煎餅をかじり始めた。

 その様子を鬼灯は、只、呆然と見ていた。

「どうかしたのか?」

 蓮は何となく、鬼灯に聞いた。

「……私、あなた達と戦ったのよね? 命懸けで」

「――――」

 蓮が何かを言おうとした時、煎餅をかじっているイキシアが声を掛けて来た。

「蓮、私は前のより、こっちの方がいいわ。今度から、これを出しなさい…………(カリ、カリ、カリ)……」

(またかよ。これから、俺が真剣に言おうとしてる時に……)

「…………ぷっ、あははははははは!!」

 そのやり取りを見ていた鬼灯は、声を上げて笑い始めた。

「あはははは…………。あなた達、絶対おかしいわよ」

 蓮はその時、初めて鬼灯の笑顔を見た。

 戦っていた時のクールで冷酷な鬼灯ではなく、その笑顔は綺麗で優しく感じた。

「……初めて笑った。そっちの方が、全然似合ってるよ」

「――!?」

 自分でも笑っている事に気付いていなかったのか、鬼灯は蓮の言葉を聞き、視線をそらすと、表情を戻した。

「笑う……もう、何年も忘れていたわ……」

 鬼灯の表情は冷静なものだったが、口調には、寂しさが混じっていた。

 蓮は鬼灯の言葉を聞き、引っ掛かっていた事を話し始めた。

「なぁ、確か戦う前にあんたが話していた、数年前の事件の事なんだけど…………」

 突然、蓮の口から数年前の事件の話しを切り出された鬼灯は、驚きと共に、その話題を嫌う様に、話を変えようとした。

「数年前の事件? あれはもういいの。あなたを混乱させるために言ったんだから」

 鬼灯はそう言ったが、蓮には聞かなければ収まらない理由があった。

「…………鬼灯ほおずき ゆう……あの事件で死んだ被害者の一人だよな? 名字も同じだ。あんたと何か関係があるのか?」

 ――優。その名前を聞いた鬼灯は、ぐっと拳を握り締めた。そして、ゆっくりと話を始めた。

「…………優は、幼い頃、両親が死んでから、私のたった一人の弟であると同時に、たった一人の肉親だった。どんな事も二人で一緒に乗り越えて来た。

私は必死に働いて、優を高校に行かせてあげた。そんな時にあの事件が…………」

 鬼灯の言葉が詰まり、表情に陰が帯びた。

「その犯人は、まだ捕まっていない。今も、どこかで生きている」

 鬼灯の言葉を聞いた蓮は、話を逸らさず一言だけ言った。

「目的は復讐か?」

「それもある。でも、本当の目的は、再生と創造の神の力を持つ者を探す事」

「再生と創造?」

「なるほどね。その力を使って、弟を生き返らせようとしたのね」

 隣にいたイキシアが、鬼灯の言葉の意味を説明するように言った。

「でも、人を生き返らせるなんて事を、人がやっていいはずがない。それは、あなたもわかっているはずよ」

「わかってるわ。だから、神の力にすがったのよ。私達を創った神なら、もう一度、創る事が出来るんじゃないかって……

そう思っていた時に、ヒルガの計画の話を聞いて、私の思っていた事は間違いじゃないって確信した。だから、そのためにこの手を汚し、ヒルガの計画遂行のため、力を貸した」

「それでたくさんの人達を殺したの?」

 イキシアは静かに。そして自らの感情を抑える様に言った。

「そうよ。私に出来る事はそれぐらいしかなかった…………」

「そう……なら、殺し続ければいいわ」

「お、おい、イキシア!?」

 イキシアの言葉に、聞いていた蓮は驚いて、話しに割って入った。

「何よ、蓮? 私は本当の事を言っただけよ。この女はこれからも人を殺し続ける」

 冷徹に言ったイキシアに対し、鬼灯もその言葉を受け止めていた。

「既に手を汚してしまった私には、その方法しかない」

「おい、おい……」

「…………っと、まぁ、今までの話しは、あなたが今のままだったらと言う前提よ。なら、どうすればいいと思う、蓮?」

 イキシアのいきなりの問いと、口調の変化に戸惑いながら、蓮は少し考えた後、

「……そうか!? 変わればいいんだ!!」

「正解。でも、正確には、私達が変えるのよ」

「俺達が変える?」

「そう。今のままじゃ、何をしても殺しの道を選ぶ。それは決して良い事じゃないけど、悪い事でもない。それしか方法を知らないだけ」

 イキシアの言っている事は、間違っていないと蓮自身も理解した。

 今の鬼灯は例えるならば、生まれたばかりで、泣く事でしか自分の気持ちを表現できない、赤ん坊の様なものだ。

 蓮はふーっと、深く息を吐いた。

「なぁ、あんた、これから行く宛はあるのか?」

 突然、全く別の事を聞かれた鬼灯は、驚いた表情のまま答えた。

「行く宛なんてないわ。あったとしても、あなた達に負けた私に行く場所を選べる権利なんて、あるわけないでしょ」

 その言葉を聞いた蓮は、少し考えた後、

「なら、俺達と一緒にいないか?」

「――ちょ!? 蓮、何を言っているの!?」

 蓮の言葉に声を上げたイキシアだったが、それ以上に鬼灯は驚いている様だった。

「だって、どうせ鬼灯の身柄はイキシアが預かるんだろ? それだったら、一緒にいても同じじゃないか。それにこいつは、そんな悪い奴じゃない」

「あ、あのね、蓮。だからと言って、出来る事と出来ない事が……」

 あらかた、蓮が何も考えていないであろう事はイキシアもわかっていたが、蓮の性格から止めても無駄と判断したのか、深くため息を吐いた。

「……わかった。でも、条件はつける。能力を使わない事。出歩く時は、私か蓮のどちらかと一緒に行動する事。そのどちらかでも破れば、あなたの身柄は私が預かる。――蓮もそれでいいわね?」

「ありがとう、イキシア」

 しかし、話のまとまった蓮、イキシアとは対照的に、鬼灯の表情は曇っていた。

「あんた達、本当に私をここに置いておくつもり? 私が、生きて敵の手中にいるなんてヒルガ達が知ったら、必ず私を消しにくるはず。そうすれば、あなた達も只ではすまないわ」

「そう。それは、探す手間が省けて好都合だわ」

「ばか? 私を消しに来る奴は、私よりも強い力を持っているのよ!?」

 鬼灯の言葉にイキシアは笑みを浮かべた。

「そんな事は承知よ。そいつらを倒して行けば、いずれヒルガにたどり着く。それが近道なら、どんなに険しくても超えてみせる」

 イキシアの瞳は強い決意に満ちていた。

 イキシアとヒルガの間に、何があったか蓮は知らないが、イキシアの強い瞳は頼もしい反面、もろく、壊れてしまいそうに感じた。

「きっと大丈夫。イキシアは一人じゃない。俺もヒルガって奴の計画を止めたいからな」

 そんな二人の表情を見た鬼灯は、呆れた様に言った。

「好きにしな!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ