プロローグ
ジャンルは、伝奇ファンタジーです。
まだまだ、未熟ですが、色々とアドバイスや感想を頂けるとやる気が出ます。
更新は不定期になってしまいますが、どうぞよろしくお願いします。
今、少女の目の前に転がっているのは、元々、生きていた人間。
鼻をつく悪臭と、飛び散る肉片。その場に動いている物は何一つ無く、花壇の花は血の雨を浴び、真っ赤に染まっていた。
「何故? 皆、どうして動かないの?」
少女は、何かを探すようにふらふらと歩き始めた。そして、少女の目に映ったのは、父、母と呼んでいた、肉の塊だった。
「お父さん? お母さん?」
何故少女が自らの父と母の姿を断言できないか。それは、それほどまでに、原型を留めていない塊だったのだ。唯一、少女が認識出来たのは、その肉の塊が着ている服に見覚えがあったからだ。
自分が買い物に行く時、見送りをしてくれた父と母が着ていた服。
だが、今はその服も真っ赤に染まり、触れた少女の小さな手に、生温かく、ヌルッとした液体が絡み付いていた。
「お父さんの首、無いよ…………。お母さんの足と手、何処にいったの?」
ふと見た少女の視線の先にある草むらの中で、何かが光を反射していた。恐る恐る近づいていった少女の瞳に、メガネを掛けた丸い真っ赤な球体が映った。
「……お、とう、さん?」
少女は真っ赤に染まった球体を持ち上げると、先ほど見つけた父の身体の場所まで持って行き、あるべきはずの場所にそれを置いた。
「その人達には、最高の至福を与えた」
突然、少女の背後から、静かな男の声が流れた。
「神父さん?」
少女の反応から、その男を少女は知っているようだった。
「お父さんにお母さん、そしてこの場の者達は、全て神の下で新しく生まれ変わるのです」
そう言った神父の服には、極僅かだったが返り血が付着していた。そして、何よりもその神父の足の下には、元人間だった人の身体があるにもかかわらず、平気な顔で平然と話をしていた。
その神父の姿を見た少女は、何かを恐れるように神父から距離を取ろうと後づさった。
「あなたの瞳は澄んでいる。だから、あなた以外の人に生まれ変わるチャンスを与えた」
少女の身体は、恐怖からか小さく振るえていた。しかし、その瞳は鋭く、神父を睨み付けた。
「ふむ、残念だ…………あなたの瞳も曇ってきましたね。それは、負の感情ですね。その感情は人を腐らせる」
そう言って、神父は側に落ちていた血まみれの刃物を拾い上げた。
「あなたにも生まれ変わるチャンスを与えましょう」
神父は刃物を振り上げ、少女に向かって思いっきり振り下ろした。
グチャッ! っと、耳障りな音が響いた。しかし、よく見ると、刃物は少女の身体ではなく、少女を守るように包んでいる腕に刺さっていた。
「大丈夫ですか、お嬢様?」
「お、お前は…………」
「私ですか? 今日からお世話になる予定でしたが、来てみればこの有様」
神父も予想外の人物の登場に困惑しているようだったが、それは一瞬だけだった。すぐに冷静になると、これ以上の戦いは無駄だと思ったのか、刃物を捨てた。
「私の計画はいずれ行われる時が来る。その時まで、お前達の命は預けておこう」
そう言って、まるで魔法でも使ったように、神父の姿は一瞬の内に消えてしまった。
「お嬢様? 大丈夫ですか?」
すると、少女は恐怖で震えている口を精一杯動かし、言葉を口にした。
「………………私、お父さんとお母さんを殺した犯人を目の前にして何も出来なかった」
「仕方ありません。お嬢様でなくても、皆、恐怖で動けません」
「………………それに、あの神父さんの目、どこか悲しそうだった」
「お嬢様。今は目を閉じ、全てを忘れて下さい。でなければ、お嬢様の心が壊れてしまいます」
男は少女を抱き上げ、立ち上がった。少女は、男の言うとおり、静かに瞳を閉じた。