Ⅲ-職業選定の儀式
ちょっと長めです。
双馬が異世界に転生し、5年の月日過ぎた。
そして、今日はちょうど5歳の誕生日。年に一度行われる職業選定の儀式と同じ日だった。
「ソウマー、そろそろ行くぞー。」
「はーい!ちょっと待ってー!」
5年もあれば俺はスクスクと育ち、言葉もかなり話せるようになった。まだ魔装は顕現もしてないけどね。
「遅いぞ、ソウマ。夜ふかしでもしたのか?」
「ちょっとね。面白い本があったから。つい読み込んじゃった。」
「本が好きなのは結構だが、ほどほどにしろよ?」
「はーい。」
ちなみに、面白い本というのは、この世界の歴史、魔法についての本だ。
3歳の時に文字は完璧に読めるようになったので、親に本をねだったら母さんの部屋にあるやつを好きに読んでいいと言われたので、そこから本の虫となった。特にすることもなかったしね。
「それにしても、本か。どんなやつを読んでたんだ?」
儀式が行われる場所に行くため、馬車に乗り込んだあと、父さんはこう聞いてきた。
「うーん、歴史上に存在する魔法とか魔装に関する本?」
「随分難しい本を読んでるんだなソウマは・・・。俺なんか読んだらすぐに寝ちまう自信があるぞ。」
「魔法には憧れてるし、面白いよ?」
「そうか、ソウマは魔法が使いたいのか。」
魔装に憧れているという話をしないのは、なぜかというと、この世界に魔装と言う概念はあるが、それを実際に顕現出来る人は限られているそうなのだ。割合で言うと10人の人がいたとしてその中で魔装を使えるのは約3名程。
つまり、俺が魔装を使えるかどうかはまだ分かっていない。使えないかもしれないし、使えるかもしれない。
まだ知識が足りない。なぜ顕現できない人がいるのか、なぜ顕現出来る人がいるのか、それがよくわからないのだ。なにをもって顕現しているのか、なにが足りなくて顕現できていないのか。まだまだ知りたいことが山ほどある。
馬車に揺られること10分程、儀式が行われる教会に着いた。
「ソウマ着いたぞ。降りて準備しな。」
「わかった。」
そういって、馬車の扉をあけて飛び降りると、服装に乱れがないか、髪型は変じゃないかの確認を行った。
「どうだ?ソウマ。いけそうか?」
「バッチリだよ。そういえば、今まで聞いたことなかったけど父さんって職業なに?」
「お?俺か?えーとしばらく見てないからなんだったかな?たしか剣聖とかだったかな?」
「へー剣聖かぁ。剣が得意なの?」
「そうだな。刀剣類を持たせたら敵無しとまで言われてたんだぞ。」
「父さんすげぇ!」
「そうだろ!」
「はいはい、親子揃ってバカやってないでさっさと行くわよ。」
遅れて、母さんが馬車から呆れながら降りてくる。
「ソウマ、いい職業がもらえるといいわね。自分でこうゆうのがいいなっていうのはあるの?」
「うーんそうだなぁ・・・いろいろあるけど、特殊系だったらウェポンマスターが欲しいかな。」
「ウェポンマスターか。それはいいな。俺は剣に特化した職業だが、そっちだといろいろ使えて戦いの幅が増えるかもな。」
「あ、でも魔装が使えるようになったらその限りじゃないんだよね。どうしようかな・・・。」
「まぁ、見てから決めればいいさ。自分にあった職業が10個提示されるからな。そのうちから選べばいい。」
「そうするよ。父さんと母さんは魔装って持ってないの?」
「「持ってるぞ(わよ)」」
この両親は化物か。
「俺は両手剣の魔装だな。属性は風だったかな?」
「私は杖の魔装ね。属性は光だったかしら?」
なんでふたり揃って属性が曖昧なんだよ・・・!
「ソウマが中距離攻撃の魔装を持ってくれたらパーティーとして最高なんだけどなぁ。(チラッ)」
うぜぇ。さらっと息子の魔装の形を決めるんじゃない。
「魔装ってなにがあるんだっけ?」
「えーと、何があったかな。そうだ、まずは武装型。剣とか槍とかだな。次に、装備型、これはガントレットなど身に付けるものが含まれる。次に支援型。杖とかだったかな?最後に汎用型、これはハルバードなど、一つの武器で二つの役割が出来る武器が含まれてるな。」
「結構種類があるんだね。」
「そうね。ソウマはどんな魔装にしたいの?」
「うーん・・武装型もいいけど装備型も捨てがたいね。」
「なんだ、体術もやってみたいのか。」
「少しね。」
両親と話していると、今日儀式を受ける人たちが続々と集まってくる。
少し経つと、教会の扉が開かれ、神父のような人が出来てきた。
「職業選定の儀式を受けに来た皆様かな?よろしい。中へどうぞ。」
神父はそういい手を後ろに組むと奥へと入っていった。
それに続くように集まった家族が次々と教会の中に入っていく。
「俺たちも行くぞ。」
「うん。」
「はぐれないように手をつなごうか?ソウマ。」
「い、いいよ。」
「あら、断られちゃった。お母さん泣きそう。グスン。」
大根役者め・・・!
「あーもう!こうすればいいんでしょ!」
そう言って、ソウマは母親の手を握る。
「ふふっ、ソウマは優しいのね。」
「うるさい。早く行くよ。」
「あらあら、ふふっ。」
母親の手を引いて、皆が集まっている場所まで行くと、神父が扉の前で待っていた。
「これで全てかな?では職業選定の儀式を始めよう。前の家族から順に中に入りなさい。出てきたら次の家族。では、どうぞ。」
それから、入っては出てきて、入っては出てくる家族を見ていた。中には喜んでる家族もいるし、どんよりしている家族も少なからずいた。
そして、ついに俺の番が回ってきた。
「では、次の家族・・・おや剣聖様。お久しぶりですな。」
「様はやめてくれ、じいさん。そんな様なんて呼ばれることはしてねぇよ。」
「相変わらずのようで・・・。今日はお子さんのですかな?」
「あぁ、ソウマって言うんだ。ソウマ挨拶しな。」
「えーと、初めまして、神父様。ソウマって言います。よろしくお願いします。」
ペコリと頭を上げて挨拶をする。
「おやおや、礼儀正しい子だな。親とは大違いだな。」
「おいじいさん、そりゃ、俺のことか?」
「当たり前だろう。最初会った時、開口一番「じじい!儀式やらせろ!」だったからの。」
父さん・・・。
「昔の事だろうが。」
「あれは衝撃的だった・・・おっと、まだ後ろがおるんじゃったな。ほれ、はよう行ってきなさい。ソウマ君。」
「うん。」
そう言って扉を開けると中には台座が一つ立っているだけだった。
なんかこの台座、前にも見たことあるような気がするな・・・。そうだ、異世界に来る前に適正魔力測ったときのあれだ。
「ソウマ、そこに手を乗せな。」
「うん。」
そう言うと、俺は台座にまだ小さい手を乗せた。
すると、目の前に少し大きなウィンドウが現れ、適正職業を調べている感じにずっとスクロールしている。適性がある職業をピックアップして他のウィンドウに移すと、大きいウィンドウが閉じる。
「ソウマ、その小さい画面に載ってるのがお前の適正のある職業だ。どんなのがある?」
「えっと・・・。」
目の前に現れている画面にはこう書かれていた。
*************************
・魔装士 ・剣聖
・賢者 ・ウェポンマスター
・錬金術師 ・召喚士
・魔法剣士 ・銃使い
・武闘家 ・忍 *
*************************
・・・なにこの特殊系オンパレード。剣聖はおそらく父さんから遺伝したものだとしても、ウェポンマスター、賢者、召喚士、錬金術師、忍とかそこらへんはなんでだ??
俺が画面を見て固まっていると。両親が心配して、覗き込んでくる。
「なにがあったんだ?ソウ・・・・マ・・・?は?」
「どうしたの?ソウマ・・・・・・・・・・あら?」
ほらみろ!両親も固まってしまったじゃないか。
「えっと・・・これどうしたらいいかな?」
「これは・・・どうするんだ?」
「どうしましょう?」
似た者同士かこのやろう!
三人揃って固まっていると、扉が開かれる。
「遅いぞ!何をしておるんだ!」
「それがよ、じいさん。これをちょいと見てはくれないかい?」
「ん?なんじゃ?この子の適正一覧じゃないか。これがどうし・・た?は?」
あー、このじいさんもかぁ・・・・。
「と、とりあえず、一回でろ。まだ後ろに残っておるんじゃ。他の家族が終わってからでも良いじゃろ。」
「そ、そうだな。」
「そうね。これはゆっくり考えたほうがいいものね。とりあえず、書き写しておきましょ・・。」
母親はそう言うと、カバンからペンと手帳を取り出すと、結果をスラスラと書き写し、カバンの中に戻す
。
「さて、でましょうか。」
「お、おう。」
「うん。」
それから、他の家族が全員終わるまで待ち、再度、儀式の間に行くと同じ結果が表示される。
「これは、本当にどうしたものかなぁ・・・。」
当の本人は頭をポリポリと掻きながら苦笑していた。
画面を眺めながら考えていると、一番下に一つ押せるところがあった。そこにはなにも書いておらず、興味本位で両親と神父には見えないように押してみると、頭の中に声が聞こえてくる。
《お久しぶりです。ユリアです。》
その声は俺を異世界に転生させた張本人、女神ユリアだった。
(ユリア、久しぶり。)
《まずは5歳のお誕生日おめでとうございます。転生してからその後、いかがですか?》
(まぁ、大変だけど知らないことはたくさんあるし。両親たちもやさしいからな。そこそこ楽しいよ。)
《それは、良かったです。さて、この通信ができているということは今職業選定の儀式を行っているんですね。》
(そうなるな。ってかあの適正職業はなんだ?特殊系が多すぎるだろ。両親にも見せたら固まったぞ。)
《あら、そうでしたか?それにしても、通信ボタンによく気がつきましたね。かなりわかりづらいと思ったのですが・・・。》
(かなり小さかったな・・・まったく・・・堂々と話しかけてくればいいのに。)
《こちらから干渉はできないのですよ。なので、こうゆう手段を取らせていただきました。》
(ならもう少しボタンを見えるようにしろ。わかりづらすぎるよ。)
《ふふっ、申し訳ありません。》
(んで、これは俺はなにを選んだらいいんだ?)
《全部選んでしまえばよろしいのではないですか?》
(え?)
《ソウマさんは職業を複数設定したいとおっしゃっていたので10個まで選べるようにしちゃいました。》
(10個って・・流石に多いぞ。予想では2個とかそのへんだと思ってたよ。)
《ふふっ、驚いていただけたようで何よりです。》
全てのことに驚いてるよ。転生したことや、適正魔力が全属性だったとか、儀式してみたら職業10個選べちゃうとか。なにこれ。第二の人生がイージーモードなんだけど。
(まぁ、とりあえず、メインは魔装士でいいかな。全部の職と似たようなことできそうだし。)
《やはり、それを選びましたか。》
(だって、魔装士とウェポンマスターって効果だいたい同じだろ?俺、魔装以外使う気ないし。それに、魔法剣士って付与も使えるから、それでなにかやってたらいいかなって。)
《なるほど。ですが、こればっかりは最終的に決めるのはあなたですからね。魔装の形を決めるのもですが。》
(あぁ。そろそろ決めないとな。日が暮れる前に家に帰れなくなっちまう。)
後ろをチラリと見ると、両親と神父様が頭を抱えて唸っている。
きっと、何にしてあげたほうがいいのか悩んでいるんだろう。
「父さん、母さん。俺、魔装士にするね。」
「ん?魔装士?うーん・・・まぁいいんじゃないか?」
「そうね・・・それでいいかもしれないわね。」
「じゃ、決定で。」
魔装士のところをタップすると文字の隣に(メイン)と表示された。
ここからは全部順番に選択していく。魔装士以外の職業の隣に(サブ)と表示された。
(さて、ユリア。これでまたしばらくお別れだな。)
《そうですね。どうか、お元気で。》
(そっちもな。って、神なんだから病気なんてしないのか?それじゃ、またな。)
《はい。また。お話できるのを楽しみにしていますよ。》
(あぁ。)
そう心の中で言うと、ソウマは台座に再度手を乗せ小さな声で言った。
「メインを魔装士に設定。サブに剣聖・ウェポンマスター・賢者・錬金術師・召喚士・魔法剣士・銃使い・武闘家・忍の9個の職業を設定。」
そう言うと、ウィンドウが閉じられ、ソウマの身体が強い光を放つ。
「えっと、これで終わりでいいのかな?」
振り返りながら、両親に聞くと二人は頷いた。
「それと、職業を選定したことでステータスが見れるようになったから【ステータス】って唱えてみなさい。」
「わかった。【ステータス】」
すると、目の前に小さな画面が現れる。
そこにはこう書かれていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
名前:ソウマ・スヴェンテ 種族:人間
年齢:5歳 性別:男 LV:1
メイン職業:魔装士(魔装使用時にステータス補正15%)
サブ職業:剣聖(刀剣使用時にステータス補正5%)
賢者(魔法威力上昇、【叡智】スキル取得)
ウェポンマスター(武器使用時にステータス補正10%、【武装術】スキル取得)
錬金術師(【錬成】【精錬】【鑑定】スキル取得)
召喚士(【召喚魔法】【契約】スキル取得)
魔法剣士(【付与魔法】取得)
銃使い(銃使用時にステータス補正3%)
武闘家(【徒手空拳】スキル時にステータス補正5%、【徒手空拳】スキル取得)
忍(忍法威力上昇、【忍法】スキル取得)
HP:1000/1000 MP:800/800
力:100
魔法力:100
物理防御力:100
魔法防御力:100
敏捷:100
運:100
スキル:【全属性魔法】・【武装術】・【叡智】・【錬成】・【精錬】・
【鑑定】・【召喚魔法】・【契約】・【付与魔法】・
【徒手空拳】・【忍法】・【隠蔽】
加護:創造神ユリアの加護(経験値取得50%上昇、スキル習得率UP)
魔装:無し
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(これ、多分人よりステータスの数値高いんだろうなぁ・・・。てか【隠蔽】っていつのまに手に入れたんだ?地球で読んでた小説だとたしかステータスを隠せるんだっけか。サブ職業とか加護らへん隠しておくか。)
【隠蔽】スキルで一通り見られたらまずいものを隠し終わった頃、母親から声が聞こえた。
「ステータスは確認出来たかしら、ソウマ?」
「うん、できたよ。そろそろ帰る?」
「そうね、そろそろ帰らないと日が暮れちゃうわね。神父様、ありがとうございました。」
「それじゃ、じいさん。世話になったな。」
「神父様ありがとうございました!」
「帰り道気をつけるんじゃぞ。」
神父はヨボヨボにやせ細った手で優しくソウマの頭を撫でた。
「神父様も健康に気をつけてね。」
「ホホホ、まだ死ぬつもりなぞ毛頭ないわい。」
「そんだけ、元気があればあと10年は生きれるんじゃねぇの?」
「これでも、もう90じゃからなぁ・・・。そろそろお迎えが来るじゃろうて。まぁあと5年は気力で乗り切ってやるわい。」
「そうかい。それじゃ、またな神父様。」
「あぁ、元気でやるんじゃぞ。剣聖様。」
父親と神父様は硬い握手を交わす。
それが終わると、教会を出て、ここまで乗ってきた馬車に乗り込み家への道を進みだした。
帰り道、馬車の窓から空を眺めていると、ふとソウマはこう思った。
(・・・そういや俺、両親の名前知らねぇな。)
5年も経ってまだ両親の名前すら知らないソウマだった。
誤字脱字がありましたら教えてください。
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