Ⅰ-転生準備
今回はちょっと長めです。
「どこだ・・・?ここは。」
切り裂き魔に腹を刺されて気を失ったあと、気が付くと真っ白な空間に俺は立っていた。
「周りには誰もいないし・・・ここは天国って事か?」
まぁ天国でも地獄でもどっちでもいいか。どちらにせよ、雛は助けれたからな。・・・最後に悲しませちまったけど・・・。雛なら乗り越えてくれるだろう。
「さて・・・このあとはどうするかな・・・。とりあえず居心地がいいし、寝るか。」
双馬は横になり、腕を枕にして目を閉じた。
あぁ・・すぐに寝れそうだな・・・。
「そのまま寝たら、魂ごと消滅しますよ?」
どこからとなく、優しい女の人の声が聞こえた。
「・・・誰だ?」
双馬は目を開け、周りを見渡すが誰もいない。
「今の声は誰だったんだ?」
首を傾げていると後ろから肩を叩かれる。
それにビックリして後ろを振り返ると、そこには金髪で頭に草を輪っかにした冠をした女性が立っていた。
「・・・・あんた誰だ?」
「そうですね・・・一言で言うなら神という存在ですね。」
「日本の神・・・ではなさそうだな服装からして。」
その神と言う女性は、日本の神が着ていそうな袴や着物ではなく、ワンピースのような真っ白い服装だった。
「はい。日本の神ではありません。ちなみに、地球に伝わっている神ではありません。」
「ギリシャ神話とかエジプト神話とかそのへんの神じゃないのか?」
「私は、地球とは違う異世界の神の一人です。」
・・・異世界?
異世界の神かぁ・・・そもそも、異世界なんてものが存在するのか?パラレルワールドとかだったらあるんじゃないか?くらいには思うけど。というか神の一人って言ったよな?ってことはその異世界には複数の神がいるのか・・・そこは地球と変わらねぇな。
「思考がだんだんそれてきてますよ。」
ハッ!?心を読まれた!?
「神ですから。」
神って言葉便利だな、おい。
「神に対して便利とはきょうびに聞きませんね。」
「人間なんてそんなもんだろ?時には神を便利扱いして敬い、邪魔になったら信仰心を捨て、忘れ、切り捨てる。所詮はそんなもんさ。」
「確かに。」
女性は目を閉じ、静かに頷いた。
「そういえばまた名前を名乗っていませんでしたね。改めて自己紹介を。私は異世界で神を束ねている者。名をユリアと申します。以後お見知りおきを。」
「ご丁寧にどうも。んじゃ、神って言ってるくらいだから知っているとは思うが、こっちも一応自己紹介しよう。俺は葛西 双馬。現世では高校二年生だった。年は16歳。誕生日を迎える前にこうしてここにいるわけだが・・・。ここはどこだ?」
「ここは天国と現世の狭間です。」
天国と現世の狭間・・・?ってことはここは天国じゃないのか。まぁ、確かに天国なら周りに人がいないとおかしいもんな。
「俺はどうしてここにいる?」
「本来ならあなたは今日死ぬはずではありませんでした。」
その言葉に双馬は少し考えると、こういった。
「・・・なら、死ぬのは俺ではなく雛だったってことか?」
「そうですね。そう、予想されていました。」
「冗談じゃないぞ?目の前で幼馴染を殺されかけていたのに助けないなんてできるわけがないだろうが。」
「はい。ですが、運命とは自分とは関係なく襲って来るものです。そして、あなたの幼馴染はあの時、死ぬはずでした。」
「・・・運命とやらでか?」
「そうです。ですがあなたはその運命を自分の運命を使い捻じ曲げ、死ぬ対象を自分に移した。それを私は素直に驚愕しています。あなたの世界の神ですら予想していませんでした。」
そりゃ、いきなり死ぬ人が変わったら神様もビックリ仰天だろうよ。
「そうだ・・・雛はあのあとどうなった?」
「見てみますか?」
「・・・え?」
ユリアは手を地面にかざす。
すると地面の一部がテレビの画面のように写り、現在の雛の状況を見せてくれた。
「・・・雛。無事で良かった。」
画面によると、俺が死んだあとすぐに救急車が到着し、病院に運ばれ手当を受けていた。
その傍らに俺の遺体が横たわっているのを見ると、無性に胸が苦しくなった。
あの隣で頭を撫でてやりたい・・・頑張ったなと声をかけてやりたい・・・・。今になってしたいことが山ほど出てくるなんて・・・。未練たらたらだな・・・俺。
双馬は胸を右手で押さえ、目には涙が浮かぶ。
その状況をユリアは横目で見ていた。
「・・・生きたいですか?」
生きたいか・・・だって?・・・そりゃ生きたいよ。あいつの、雛の隣でずっと・・・生きていたかったよ・・・。50歳になろうと80歳になろうと・・・寿命が終わりを迎えるまでずっと。
双馬は地面に映る雛を見つめながらこう言った。
「・・・当たり前のことを聞くなよ。心が読めるんだろ?神様。察してくれ。」
「そうですね・・・すいません。」
ユリアは双馬を見つめていた目を静かに地面に映る雛に移した。
双馬は静かにあぐらをかいて座る。右手はまだ胸を抑えたままの状態で画面を見つめる。
その状態で双馬はもし生きていたらの状態を考えていた。
もし・・・生きていたならば中学の時から言えずじまいたった「好き」という言葉を伝えたかった。告白をして付き合って・・・。そして同じ大学に進学して就職が決まって、プロポーズして・・・結婚して・・・。
そんなことを考えていると後ろからユリアが首に腕を回し、抱きついてきた。
少しビックリしたが、暖かい感じがする・・・。
双馬は、小さな声で言葉をつぶやいた。
「・・・少し・・・泣いてもいいかな?」
「ご自由に。ここには私しかいません。」
「そうか・・・少し胸を借りるよ・・・。」
葉は座った状態でユリアに向きあうとユリアの胸に頭を乗せ、静かに泣いた。
ユリアはその頭を抱きしめ、やさしく撫でる。
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数分後、双馬はゆっくりと頭を上げる。目を赤く腫らしているが、スッキリした表情だった。
「すまない。胸を借りた。」
「いえ、あなたの今の状態で私にできることなんて、これくらいしかありませんから。」
「そうか?そんなことはないと思うが・・・とりあえず、話を戻そうか。なぜ俺はここにいる?」
「死ぬはずではなかったあなたの魂を異世界で転生させようと日本の神にここに連れてきてもらいました。」
転生・・・か。
それもいいだろう。だが雛はどうなる?もしまた運命とやらが襲ってきたら防ぐ手立てはあるのか?
「それについては日本の神の人が言っていました。あなたの功績に免じて寿命を終えるまで全面バックアップするそうです。」
「そうか、それなら良かった。俺は安心して転生できるわけだ。雛と会えなくなるのは寂しいが、雛に襲ってきた死という運命を俺の全ての寿命で肩代わりしたと考えれば安いもんだ。」
「そうとうあの子が好きだったんですね。」
ユリアは微笑みながら言った。
「そうだな、自分でも不思議だよ。最初に出会ったのは幼稚園の時か・・・出会ったときの一口目に「あなた、私の家来にしてあげる!」って言ってきたんだぜ?それを俺はなにいってんだ?こいつとしか思ってなかったけど、それがきっかけで一緒に遊ぶようになって、だんだん好きになっていった。本当に、いつの間にか好きになっていた。」
「羨ましいですね。人間は。好きという感情を得ることができて・・・。」
「ユリアに好き感情を持ったことがないのか?」
「どうなんでしょうね・・・うれしいとか悲しいとか、そういった感情すら、理解できているのかよく分かってません・・・。」
「さっき。」
「・・・はい?」
ユリアは首を傾げ、こちらを見つめてくる。
「さっき、ユリアは悲しんでいる俺を抱きしめてくれた。それは何かしらの感情が無いとできないことだと俺は思う。さっきユリアはなにを感じて俺を抱きしめてくれたんだ?」
「・・・泣いているあなたを見たら・・・なんと言いますか・・・こう・・・私も悲しくなった・・・んだと思います。」
「共感してくれたんだな?」
「・・・多分。」
「なんだ、ちゃんと理解してるじゃないか。」
「え?」
「ユリアはちゃんと感情を理解してるよ。人は悲しんでる人を見ると自分も悲しい気持ちになってくるんだ。そして、どうにかしてあげたいという気持ちになる。それをユリアは俺にしてくれたんだ。」
「私が感情を理解している・・・。今度は私が助けられましたね・・・。」
ユリアは満面の笑みでこちらを向いた。
「そりゃお互い様だよ。・・・今の感情は?」
「嬉しいです!」
「正解だ。な?ちゃんと理解してたろ?」
「はい!」
互いに笑い合う双馬とユリア。
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「さて、これから俺が転生する世界について教えて欲しいんだが。」
「そうですね、説明します。まず、異世界は剣や魔法の世界ということを前提に頭に入れておいてください。」
「いきなりファンタジーだな。了解。」
「異世界の名前はアウロラ。先程も言った通り、剣や魔法が存在します。ですが、普通の魔法体型もありますが、それとは別に己に宿る魔力で創る、魔装といった武器が存在します。」
魔装?なんだそれは、ファンタジー系の小説なら少し読んだことがあるけれど、そんなものは見たことがないな。
「魔装というのは自分の魔力で作り出すことができ、顕現させることも可能です。少しやってみましょう。」
ユリアはそう言うと右手を前に向け、その魔装の名前と思う言葉を発した。
「《聖杖・カドゥケウス》」
カドゥケウス?っていうとヘルメスの杖だと思うんだが・・・。
「えぇ。それを模して今作りました。」
すげぇな。そうゆうことも出来るのか。
「ですが創るときは注意してください。一度、顕現させたらマクロとして登録され変更は不可になりますので。」
「魔装ってのは各属性に一つなのか?」
「そうなります。ですが、アウロラでは一人の人間が使用できる適正魔力属性というものがあり、適正属性は一種類と決まってますので、実質一人に付き一つの魔装と考えられるかと。」
自分に宿る魔力属性が1つしかないのか・・・。
「はい。ご自分の適正魔力を調べてみますか?」
ユリアはそう言うと、どこからか水晶玉を取り出した。
「ここで、っていうより俺ここにいるってことは魂の状態だよな?出来るのか?」
「この水晶玉は魂に宿る魔力を計測するものですので可能ですよ。」
神様何でもありだな・・・・。やっぱり便利。
「では、こちらの水晶玉に触れてください。触れると、炎属性の適正ならば赤に水属性ならば青にといった具合に光りますので。」
「わかった。」
双馬は水晶玉に手を乗せると、水晶玉がピシッと音を立ててひび割れた。
「・・・この場合は?」
「・・・さぁ?」
ちょっと待てや、こら。
「そんなこと言われましても・・・こんなことは初めてですのでわかりませんね・・・。なぜひび割れたんでしょう?」
「・・・この水晶玉ってさ、属性を一気に何個測れる?」
「そうですね・・・かなり前ですが属性を二つ持つ人がいましたね。なので最高で2個だと思うのですが・・・。」
考えれるとしたら、俺が複数の属性を所持しているってことになるんだが・・・。
「ちなみに、属性ってなにがあるんだ?」
「えっと、炎、水、風、土、雷、光、闇の七属性でしょうか。」
「7個もあるのか。多いな。俺はそのうち何個持っているんだろうな?」
「・・・なるほど。そうゆうことですか。ならこちらで試してみましょう。」
ユリアは先程出した水晶玉とは違い、後ろを向き地面に手を当てる。
「なにをしてるんだ?」
「見ていればわかりますよ。」
そう言うと、ユリアの正面に魔法陣が七つ円を描くように地面に刻まれ真ん中に台座が現れた。
「・・・なんじゃこりゃ?」
「複数の属性を持つ人が現れた時の為に作られた祭壇です。では、真ん中の台座に手を当ててください。周りの魔法陣が適性がある場合光りますので。」
「へぇ・・・やってみよう。」
双馬は台座のあるところまで歩き、軽く手のひらを乗せた。
すると、正面の魔法陣が赤色に輝き、次に右の魔法陣が水色に輝いた。それを繰り返し、ついには全ての魔法陣が光り輝いていた。
「・・・全属性ですか。」
「・・・みたいだな。」
「あなたは人間ですか?」
「現世で死んで、ここにいるんだから人間なんだろうよ。」
「それもそうですね。そうすると魔装が一つという説明したところで無駄ですね・・・。」
「合計で7個の魔装か・・・。創るのにも苦労しそうだが、その分多彩な動きができて面白そうだな。」
「それは楽しそうですね。」
「だろ?さて、他にも教えてもらいたことは山ほどあるんだ。まずは種族から。」
「種族は、まず人間、エルフ、ドワーフ、獣人、魔族といったご種族になります。」
「エルフと獣人がいるのか。」
「興味があるのですか?」
「まぁそれなりにな。それぞれの種族の特徴を教えてくれ。」
「はい。人間は様々なことでバランス型ですね。鍛え方次第は攻撃特化や防御特化、敏捷特化にすることもできますが、基本は平均的に育ちます。主な使用武器は剣や槍が多いでしょうか。エルフは森の中に住処を作っており、耳がとんがってます。視力が良く敏捷もとても高いです。主な使用武器は弓や細剣が多いですね。ドワーフは山や鉱山の近くに住処を作っており、鍛冶が得意です。背は小さく、ヒゲが濃いのが外見的特徴でしょうか。主な使用武器はハンマーや斧です。獣人もエルフと同じ森の中に住処を作ってます。外見的特徴は耳や尻尾が生えていますね。獣人は力がとても強いので素手で戦ったりもしますが、主に使う武器は剣です。魔族は、一括りにされていますがいろいろな種類がいます。例えばサキュバスだったり、龍人だったりと存在しますね。主に使う武器は杖、つまりは魔法です。」
「頭がこんがらがってきたぞ・・・・。」
双馬は頭を右手で押さえる。
「そういや、転生した時のパラメータって自分で決めれるのか?」
「はい。ステータスはこちらで決めさせていただきますが、種族を選択することはできますよ。職業はアウロラでは5歳の時に儀式を行いますその際に選択できますよ。」
「それは良かった。種族は・・・まぁ人間でいいかな。一応聞いておくか、職業ってのは何がある?」
「そうですね・・・一般的なので剣士や弓使い(アーチャー)、槍使い(ランサー)などがあります。」
「特殊なのは?」
「勇者や、魔王。あとは龍王、獣王などが存在します。」
「結構あるんだな。勇者ってやつにはなりたくないね。なんとなくだけど、いろいろ巻き込まれそうだな。」
「それは今更な気もしますけどね。」
「確かにな。既にいろいろ巻き込まれた結果ここにいるわけだし。」
双馬は苦笑する。
「あとは魔物や迷宮も存在しますよ。」
「迷宮があるのか!攻略するのが楽しみだ。」
ガッツポーズをして喜ぶ双馬。だがその反面、ユリアは少し寂しそうな顔をした。
「ん?どうしたんだ?」
「そろそろ時間のようです・・・。あなたを異世界に転生させる時間がきました。」
「・・・そうか。」
「最後なのでちゃんとした感じでやりましょうか。」
今までのはちゃんとしてなかったのかよ!
「ゴホンッ!えー、身を投げ出してまで幼馴染を救ったあなたを異世界に転生させてあげましょう。異世界へ行ってなにか欲しい物や、これがしたいということはありますか?なんでもよろしいですよ?」
「え?いまなんでもって?」
そうだな・・・なんでもか。既に全属性適正というチートは手にしてるんだよな。
どうするかな。
「そうだ!サブ職業を複数、設定できるようにさせてくれ。」
「メインのほかにも職業が欲しいと?」
「だって職業にはきっとステータス補正とかもあるんだろ?俺は強くなりたい。誰かを守っても死なな位くらいに。」
「わかりました。他にはございませんか?」
え?まだいいの?
「3つまででしたら可能ですよ。先ほどを1つとカウントしますとあと2つです。」
あと2つか。
何にするかね。
「スキルを自由に3つ選ばして欲しいってのはあり?」
「3つですか・・・それくらいならば大丈夫でしょう。向こうに転生した時にいつでも3つ選べるようにしておきます。」
これであと1つか。
「これはアウロラに行ってからしたいことじゃないんだが・・・雛に手紙を書く事はできるか?」
「・・・できますよ。」
「なら最後はそれで。」
「本当によろしいのですか?」
「なにがだ?」
「それは死者からの手紙ということになりますが。」
「異世界に転生しちまうんだ。俺は雛とはもう会うことはできない。だから、俺の死ぬ前の日付で手紙を送るんだ。」
「なるほど。それならば。」
「異世界に関することの記載は大丈夫か?」
「それは申し訳ありませんが・・・。」
「わかった。ペンと紙をくれるか?」
「はい。」
ユリアはボールペンと手紙用の紙と封筒を取り出し双馬に渡した。
数分後、双馬は手紙を書き終えユリアに手渡す。
「これ、よろしくな。」
「はい。承りました。それでは、葛西 双馬さん。異世界で第二の人生を謳歌してください。」
「あぁ。ユリア。短い時間だったけど世話になった。向こうで死んだらまた会えるのか?それだといいな。向こうで経験したことをいろいろ話したい。」
「では、そのようにしましょう。私もお話聞きたいので。では、また。」
「またな。ユリア。」
そう言うと双馬の足元に魔法陣が現れ、双馬の姿とともに消滅する。
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双馬が異世界に旅立ったあと、ユリアはこうつぶやいた。
「葛西 双馬さん・・・ですか。久々に良い人に会えました。また会えるのを楽しみにしていましょう。さて、この手紙ですが・・・これとは別にもう一通私の方で送りましょうか。今回のことについての説明をするために・・・。」
そう言ってペンと紙を取り出し、書き終えると双馬が書いた手紙の中に一緒に入れ、双魔の幼馴染である、如月 雛へと転送した。
「さて、双馬さんのステータスを設定しなければ・・・種族は人が良いとおっしゃっていましたね。ではLVが上がりやすいように私の加護もつけて・・・初期ステータスはちょっと高めに100くらいにしといてあげましょうか。成長した姿は今の姿でも十分かっこいいですが、髪の色を銀色にして目を赤くすると・・・更に私好みになりますね。こんなものでしょう。双馬さんの新たな人生。これからどうなりますかね。」
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現世、双馬が死んでから2日目の朝。
「雛~!朝ごはんよ~!」
「はーい・・・」
如月 雛は、双馬の葬式に行く準備をしていた。
リビングへの扉を開けると母からこう言われた。
「雛。ご飯食べる前にポスト見てきてくれない?」
「いいよ~。」
そう言って雛は玄関を出る。
「・・・寒っ。ポストポスト・・・。」
そうつぶやいてポストを開けると一通の手紙が入っていた。
「誰からだろ?・・・・っ!?」
差出人の名前を見て雛は驚愕する。なぜならそこに書いてあった名前は死んだはずの葛西 双馬からだったからだ。
「かっちゃん・・・?」
雛は急いで手紙の封を開け中身を確認する。
そこに書かれていた内容は一言だけ。
大きな文字で「好きだ!」と書かれていた。
その一言しか書かれていない手紙だったが、雛が泣き崩れるには十分な一言だった。
なかなか戻ってこない雛を心配して雛の母親が玄関から出てくる。
地べたに座り込んで手紙を見つめ涙している雛を見て母親は、ビックリする。
「雛~?なにかあったの~?どうしたの!?大丈夫?」
「お母さん・・・かっちゃんから・・・かっちゃんから手紙が来てる。グズッ・・。」
「双馬君から?どんなの?」
雛は母親に手紙を渡すと母親までも目に涙を浮かべる。
「あんた・・・愛されてたんだね・・・。双馬君に。片想いじゃなかったんじゃないか。」
「うん・・・!」
「もう一枚手紙が入ってるけどこっちは読んだのかい?」
「まだ。見して。」
もう一枚の手紙には驚くべき真実が書かれていた。
なぜ葛西 双魔が死に至ったのか。死んだあとどうなったのかが鮮明に記載されていた。
「かっちゃん、異世界に転生したんだ。ちゃんと記憶も残ったままの状態で。」
「へぇよかったじゃないか。また会えるといいね。」
「向こうは子供だけどね」
「そりゃいいじゃないか。あんたショタコンだろう?」
「違うもん!ちっちゃい頃にかっちゃんが好きになっただけだもん!」
「今の姿はダメなのかい?」
そう母親がいうと、雛は顔を赤く染めこうつぶやいた。
「・・・全然ダメじゃないもん。かっこいよくて・・・私を守ってくれた私の、王子様だもん。」
そう言い切ったあと雛は空を見上げる。
「今度は私が会いに行って、言ってあげるんだ。好きだよって。」
その言葉が実現されることになるのをまだ葛西 双馬も如月 雛も知る由はない。
書きたいことをいっぱい詰め込んだらかなりの文字数になってしまいました。申し訳ないです。
読みづらいかもしれませんがよろしくお願いします。
誤字・脱字がありましたら教えてください。