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 【 “17”と呼ばれし魔女  】  作者: お~とらいぶらり
 【 本編 (完結済) 】
6/21

 [ 6 拾七  ]

 

 【“17”と呼ばれし魔女】――――≪コールド17≫(セヴンティーン)

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★

 

 

「主、おいででしたか……」


 途端に蒼影は、電撃を受けたかのように跳ねあがり、叉門から離れる。

 どちらも、構えは崩さない。


 少女は近くの屋根から、蒼影の傍らにふわりと降り立つ。



「その人は、『客人』よ」


 招かれた覚えは無い。



「……宜しいので……」


 少女と叉門の間に立ち塞がったまま、獣は問う。



「たった今、認めたわ」


「御意に」


 有無を言わさぬ威圧感。

 二回りも大きな魔獣が、恐縮している。



「蒼影と渡り合うなんて……強いのね」

 

 数度の交錯で致命傷を与えられず、叉門には厳しい戦いであった。

 体力自慢だが、魔獣である蒼影には程遠いはずだ。


「手なづけるほどじゃない」


 警戒とも賞賛とも取れる軽口。



「あたしは『17』と呼ばれている女。セヴンティーンでいいわ」


 背丈の半分程もある髪。月を反射した白銀が闇夜に輝く。

 まったき白というわけでもなく、よく見ると地は水色に近い。



「知らないおじさんについて行っちゃいけないって習わなかったか?」



 このエリアでは見られない豪奢なドレスの裾を翻し。


「ついてくるのはあなたよ、宿無しさん」


 蒼影は既に臨戦態勢を解き、主に付き従う。



「ガキは趣味じゃ無いが、俺も男だ。同衾するなら歯止めは効かないぜ」


 冗談だが、蒼影の耳がピクリと動く。



「部屋はいくつもあるわ」


「大屋敷か! ありがてぇ」


 どういう流れか、侍は野宿しないで済むようだ。



   ◆  弐  ◆



 良からぬ魂胆があって、招かれた可能性は捨てきれない。

 しかし、あのまま戦っていたら……ゾッとする。

 少女と狼、双方を相手取って生き残れるか怪しいものだ。

 毒喰らわば皿までと、叉門は思い切る。



 薄暗い夜のとばりの中、“17”の後姿だけが眼を引く。


 所狭しと民家が続き、突然、寺の門らしきものが現れる。

 がっしりした門と塀に遮られ中は見えない。

 まさに隠れ家といったおもむきか。



「ここよ」


 “17”が開けた扉をくぐると・・・・・・中には、別世界が広がっていた。


「ここは……どこだ?」


「見ての通り、おてらよ。

 ……だった所、と言った方が良いかしら」



 暗闇を照らす明かりは、提灯やロウソクではない。

 細い柱に、丸い光の球が下がっている。

 叉門の鋭い視覚は、そこかしこに見慣れない物を捉えている。



「豪華な屋敷だな……」


 芝生と花壇が広がり、奥には直線的な建築様式の館。

 横長の箱に、等間隔に窓が開いていると形容すれば良いのか。

 まったくもって寺には見えない。

 通路の正面中央には石垣で覆われた水場があり、真上に水が噴き出している。



「噴水……ってやつか?」


「ノプチーニではあまり見ないでしょう。ライトクシアの様式ね」


 ライトクシアは『壁』(ザ・ウォール)によって隔てられた、隣のエリアだ。


「他の『えりあ』に詳しいってことは……もしかすっと」


「ええ、あたしは『称号者(しょうごうしゃ)』よ」


 こともなげに言う。


「マジかよ……」


 この世界は、『壁』(ザ・ウォール)によって6つに分かれている。

 その壁を通れる者を「称号者」と呼ぶ。


「あの『壁』を越えて来たのか」


「そうよ」


「称号者なんて、ほんとに居たんだな……」


 理解の範疇を越えている。

 元来、直感で生きている叉門は、難しく考えるのをやめた。



   ◆  参  ◆



 寺の跡地を丸ごと使っているだけあって、館の前の庭は広い。

 栄えていた寺だったのだろうか、民家いくつ分もの土地を使っている。

 しばらく歩き、館の正面に着く。

 正面から見るだけでも、窓が八つある。



 人の倍くらいある扉をギギィーッと開き、少女はスタスタと入っていく。

 叉門は慌てて歩を進める。


 蒼影は時折、叉門を振り返る。

『客人』にランクアップしたからか、殺気はかなり薄まっている。



 二階の一室の前で、少女が待ち構えていた。

 憮然とした表情をしているように感じられ――


「なぁ、『せぶんてぃーん』とやら」


「何?」


 慣れない響きに、戸惑いつつ呼びかける。



「俺、なんか機嫌悪くするようなことをしたか?」


「いいえ」


 端的な即答。

 嘘をついているようにも感じられない。



 蒼影の方を盗み見ると、気だるげな視線を返してくる。

 何を言っているのだこいつは、とでも言いたげな風である。



 無表情――これが彼女の「平常」、なのだ。



   ◆  肆  ◆



「この部屋は自由に使っていいわ」


 “17”に続いて部屋に入る。


「立派なもんだな」


 決して多くの物があるわけではないが、叉門からすれば贅沢である。

 辺りの民家は、雑魚寝が一般的だ。


 またも見慣れない物が目に入る。

 四角い台に、薄い布団と枕が置かれている。


「こいつがライトクシア流の寝床か」


「ベッドよ。ノプチーニの人は随分低い所で寝るものだと思ったわ」


たたみで寝るのも味があるもんだぜ」


「……そう……」


 “17”は叉門を睨んでいる。

 もしかすると、「睨む」ではなく、ただ「見ている」だけなのかもしれない。




 ベッドから離れると、頑丈そうなつくりの縦長の木箱があった。


「こりゃなんだ? お、開いた」


 手前が外れる蓋のようで、その一辺が蝶番ちょうつがいで本体に固定されている。


「冷たくて気持ちが良いな」


 中からひんやりとした空気が流れ出す。

 先程の姿勢で黙ったままの“17”が、ようやく反応する。


「それはレイゾウコ。食べ物などを保存しやすくする」


西瓜すいかを川で冷やすのは知ってるが、こいつは一体どうなってるんだ?」



 “17”は『レイゾウコ』の前に立ち、その中に手をかざした。

 少女の周囲に青白い光の粒が明滅し、踊り出す。

 髪やスカートが浮き上がり、波打つ。



≪凍れる白銀の拾七/コールドセヴンティーン≫


 “17”の手から、『白い霧』が勢い良く溢れ出す。

 霧が触れた指先に熱を感じた。


 それは凍えてしまいそうなほどの冷気。

 寒さよりも痛みが先に来るのは、危ない。

 咄嗟に手を引く。


「おい、大丈夫なのか!?」


「あたしは“普通”じゃないのよ」


 耐性があるのか、使用者には効果が無いのか、“17”は平然としている。


「魔法、か……。俺にはできない芸当だ」


 “17”が手を下ろし、霧も収まる。


「手加減するのは一苦労。

 本来ならば、この部屋は17秒間、マイナス17℃の冷気に包まれる」


「物騒だな」


「微調整はできないの――『呪い』の副作用だから」



☆☆☆☆☆☆★★★★★★★★★★★



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