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 【 “17”と呼ばれし魔女  】  作者: お~とらいぶらり
 【 本編 (完結済) 】
2/21

 [ 2 叉門  ]

 

 【“17”と呼ばれし魔女】――――≪コールド17≫(セヴンティーン)

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★



 ――影が、あった。

 男の行く先を遮るように、影があった。



 一瞬、立ち止まる。

 再び、歩を進めようと踏み出すと――。



斯様かような刻に橋上に在る汝は、我があるじの客なりや?」


 うずくまっているかのような影から、誰何すいかの声が掛かる。




 男は軽い口調で、


「俺は今日、そこの酒処で呑み明かすと決めた。

 だから安酒を呑んだ」


 答えになっていない応えを返し、続ける。




「そして、この道をまっすぐ進むと決めた。

 だからここは俺の道だ。

 俺が何であろうと、お前が誰であろうと、まかり通る」


 二言目は低く、重みのある声で。




「主の命により、今宵、この橋は客以外通さぬようおおつかってる」


 ゆらりと影が立ち上がり、月夜に照らされる。

 夜目に慣れるに従い、おぼろげながらも正体が見えてくる。



 四つ足で這う大きな人物……と、考えをすぐにあらためる。

 全身を覆う毛皮、力強い爪、剥き出しの牙。

 獣だ。



 犬? ――いや、これは犬ではない。

 ノプチーニの古来種、“狼”だ。

 人語を解するとは、魔獣の類だろうか。




「通ると言ったはずだぜ。――邪魔するなら、叩っ斬る」


 男は、そう言って、刀を抜く。



「我の姿を見ても怖れぬ、か……」


 少々、含みのある物言いだった。

 狼は姿勢を低く、四肢に力を込め始める。



「犬っころに怯えるほどガキじゃないんでな」


 再び、男の軽口。



「ふ……言ってくれる!」


 裂けた口の合間から、牙がギラリと光った。

 その言葉が、開始の合図だった。




 狼は黒がかった紺、蒼系統の色をした毛並みで、闇に溶け込みそうだ。

 男は刀を正眼に構え、相手との間合いを測る。

 ブレる輪郭でかろうじて大体の位置を捉え、足音と風を切る音で速度を知る。

 まずは互いに小手調べか。

 刀を左に倒し、胴の高さで振りぬく。


 タッ!



「――ッ!」


 影が刀を飛び越える。

 切っ先が足に触れるか触れないかの高さと速さ。


 こいつは――。

 わざとぎりぎりで避けやがった。

 先程とは逆、同じような距離で影は向き直る。



「今度はこっちから行くぜ」


 男は大上段に振りかぶり、跳躍した。

 斬るには程遠い間合い。しかし、獣はその距離を一瞬で詰めて交差する。

 着地するまでに、魔獣は男の後ろにぐるりと回り込み、反転している。



「我が速さを侮ったか?」


 大振りの後は、隙だらけだ。

 男は弾丸のような体当たりに飛ばされ――るわけではなかった。



 大振りというには浅い斬り込み、そして、一歩横に動いて突進を回避する。

 あまつさえ、刀を水平に残し……


 ザシュッ!!



「グウゥ。

 我が余力を残している事、見抜いて居たか。

 まるで後ろが見えているかのような動き……恐れ入る」


 跳び退り、再度向き直り。

 浅い傷口から、微かに血が流れる。



「風が、お前の位置を教えてくれるだけさ」


 柄を顔の高さに、切っ先は天に向け、男は八双に構える。



まがけだものである我よりも優れた聴覚を持つと申すか……。

 汝、名は何と?」



「――叉門しゃもん



☆☆★★★★★★★★★★★★★★★




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