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 【 “17”と呼ばれし魔女  】  作者: お~とらいぶらり
 【 本編 (完結済) 】
14/21

 [ 14 無限 ]

 

 【“17”と呼ばれし魔女】――――≪コールド17≫(セヴンティーン)

 

 

★★★★★★★★★★★★★★★★★



 沙雪は、深い……深い眠りについていた。



『…………き………、………ゆき……、……沙雪…』


 うっすらと、聞こえてくる懐かしい声。


『……心の声に、耳を傾けて…』


「姉さん? 姉さんなの?」


 数百年振りでも、忘れるはずがない。



『そう、私は貴女の中に居るわ』


「姉さん! どうして、今まで……」


『貴女が、心を閉ざしていたから』




『無限の可能性に、目をそむけないで。……貴女は、自由なのよ』


「――解ったわ、姉さん――」



 広がっていく氷を、自在に操るイメージを思い描く。


『もう、時間が無いわ。私は、いつも、貴女のことを――』


 知っていた。


 心のどこかで、気づいていた。


 姉さんは、ずっと私のことを見守ってくれていること。



 暖かい感覚が、次第に離れていく。




   ◆  弐  ◆



小癪(こしゃく)な! その狼を捕らえろ!」



 意識が覚醒する。

 夢を、見ていたのね。

 いいえ、あれは夢ではなく……。




 あの研究者、クレイダスと言ったかしら。

 手こずっているようね。

 あの子は頭が良いから、こういう奇策は得意だもの。


 クレイダスが出て行った後、しばらくして、蒼影が戻ってくる。

 一瞬、こちらをチラリと見る。



(良い子ね)


 布を巻かれて喋ることができないけれど、口の中で呟く。



 

 刀を鞘から出し、叉門を縛る縄を斬る。


「お前、侍としてもやっていけるんじゃねぇか?」


 叉門の軽口。



「狼が消えたぞー!」


 ドタバタと走る足音、響く怒号。

 まさか元の部屋にすぐに戻っているとは思うまい。



「あれは幻だ! 本体を探せ!」


 足音が再び近づいてくる。


「いたぞ!」


 組織の構成員らしき者達が、入り口に殺到する。



「よし、後は自分でやる」


 右手首の戒めが解けた叉門は、刀を受け取る。



 それを確認すると、蒼影は構成員達に飛び掛った。

 細い通路に固まっていた為、将棋倒しになる。



「グワァオォゥ!」


 吼えると、半分が逃げ出す。

 非戦闘員が叶う相手ではない。



 叉門は自由になると、次は沙雪を解放する。


「蒼影、もういいぞ!」


 時間稼ぎをしていた蒼影に一声掛けると、別の通路から逃げ出す。



「出口が解らないわね」


 叉門は走りながら“雪風”を抜いた。

 感覚を研ぎ澄ませる。


「風の流れからすると……こっちだ!」


 しばらくして、やや広い空間に出る。


 床と天井が、岩盤剥き出しの風景に変わる。

 かろうじて人工物らしき数本の柱が設置されているのはこの部屋までだ。




「どこへ行くのかね。

 出口は近い。そう急ぐこともないだろう」


 立ち塞がったのは、白衣の研究者。


「ここは出入りに必ず通る場所でね。戦闘テストにも使っている」


 蒼影が全身の毛を逆立てている。



「時間稼ぎなら、させないぜ」


 叉門が“雪風”を構える。


「なに、彼らは雑魚さ。

 もっとも、僕の血肉として有効活用させて貰ったがね」


 拳を叩きつけると、柱が大きくえぐれ、地響きを立てて倒れる。

 尋常でない力を手に入れたと見える。

 既に、儀式を行っていたのだ。



「てめぇ……同胞(どうほう)を喰らったのかよ」


「その刀の、正しい運用方法だよ。

 しかも、先達者が使った影打と違い、吸収する生命力に劣化が無い」


 研究が全てに優先する考え方だ。



「手段で目的を正当化するんじゃねぇ!」


「独善的な思考に同意が得られるとでも思ったのかしら?

 自分が搾取される側になってみなさい」


「汝は生ける者全てに害を成す存在也……」


 クレイダスは肩を竦め、マジックパックを三つ開封した。



≪耐寒/コールドレジスト≫



≪魔法盾/マジックシールド≫



≪無痛/ペインレス≫



 以前の2つに、痛覚を緩和する魔法が追加されている。



「残念だよ。俗物には理解できないことがね」


 それが、開戦の合図だった。




   ◆  参  ◆



 蒼影自慢の爪で引っ掻くが、クレイダスは腕で受けつつ、カウンター気味に蹴りを見舞う。

 蒼影の巨躯が後ろに吹き飛ばされ、地面に四足を踏ん張った痕が残る。


 クレイダスについた傷は、みるみる内に治っていく。




 叉門が“雪風”で斬りつける。

 こちらは短剣で受け流す。



「持久戦に持ち込まれると、厳しいぞ!」


 叉門の言葉に蒼影が反応、左右から挟撃する。

 するとクレイダスは壁際の倒れた柱を持ち上げ、振り回す。


「うおっ、危ね!」


 距離を取る。


「筋力も増大しているのだよ。

 『生命力』以外の転移を否定するものではないのだ」


 あの柱は危険だ。

 一撃でも喰らえば致命的である。




≪幻狼/ファントムウルフ≫


 蒼影が黒き幻の狼を出現させ、クレイダスの顔に纏わりつかせる。



「このっ! こいつっ!」


 実体のない影ゆえに、掴むことはできない。

 両手で(あお)ぎ、転げ回って、ようやく影を霧散させる。

 その間、柱を手放している。



≪凍気滑走/フローズンスライド≫


 地面に氷の道を生み出し、滑ることで、

 落ちた柱に素早く肉薄し……



≪接触凍気/フローズンタッチ≫


 両手で触れると、柱の温度が急激に下がる。

 地面と氷漬けになり、一体化する。


 持ち上げようとしても叶わない。

 大きく飛び出た氷の角が、拒絶しているかのようだ。

 クレイダスは柱を武器として使うことを諦めた。



「貴様らぁ!! 許さんぞ! 捻り潰してやる」


 クレイダスが沙雪を蹴り飛ばす。


 かばう位置に構えながら、蒼影が沙雪に話しかける。



「主よ……覚えて居られるか。我と初めて(まみ)えし日の事を」


「ええ」



 忘れるはずがない。

 丁度、百年ばかり前。


 孤独の海を彷徨い、(むな)しさの毒に狂いそうになっていた時。

 それを救ってくれたのは、同じ孤独を抱える獣だった。


 出会い頭に襲われて、氷漬けにしたのも今は昔。



「拾って戴いた此の命、惜しからず」


 視線を向けてくる。

 百年も一緒にいるだけあって、目を見れば伝わる物がある。




(覚悟、受け取ったわ。


 そして、姉さん……見ていて。貰った命を無駄にはしないから)



 沙雪を中心とした辺り一帯に、(まばゆ)い光の結界が現れる。

 吹雪が発生する所までは今までと同じだが、すぐに収束する。


 それは ≪凍れる白銀の拾七/コールドセヴンティーン≫ ではなかった。



「あたしは……無限の可能性を、呼び覚ます!!」


 

≪煌く黄金の拾七/ゴールドセヴンティーン≫


 集まった光は、黄金に輝く狼の群れを成した。

 氷で形成された彫像、その数17匹。


 魔法等の構成にはイメージが強く影響する為「縁のある事象」が強く出る。

 沙雪にとっては、慣れている「17」の要素を含む方が扱い易いのだ。


 しかし、精神力を消耗している上、ぶっつけ本番の魔法に沙雪は膝をつく。




   ◆  肆  ◆



 黄金の狼達は、ジグザグに突進し、クレイダスを多方向から襲う。

 17体の動きを同時に制御するのは難しく、『沙雪が覚えている蒼影の行動パターン』を元にした自律意思を与えている。

 要は劣化コピーであるが、その総攻撃を受ける側はたまったものではない。

 牙や爪で少しずつ確実にダメージを重ねていく。



「うろちょろと目障りな……」


 クレイダスが滅多矢鱈(めったやたら)に腕を振り回すと、その度に彫像が割れる。

 そんな中、視界に映る影が一つ。

 彫像の動きと僅かに一致していない。


 この影に潜んでいるのは――。

 クレイダスは気づかない振りをしながら、彫像を減らしていく。


 彫像の数が残り五体になった時、クレイダスは背後に急に転換し、両拳を地面に叩きつける。


「どうだ!」


 地盤がへこみ、黒い影が潰れ……霧散していく。


「こいつは幻覚か!?」


 ならば、本体は一体どこに?


 小娘と侍が二人で刀を持っているが、間合いではない。

 それより狼を早く探し出さなくてはダメージが激しい。


 まず、五体の彫像を先に――。

 一匹、やや動きの鈍くなった彫像に狙いを定める。

 すんでの所でかわされ、視界の前方から消える。

 他の彫像は、直線的な動きをする。



「まさか、こいつは!」


 その魔獣はニヤリと(わら)った、気がした。


「丁度、拾七秒也」


「時間稼ぎ、だと……!?」


 クレイダスの身体能力、反応速度、動体視力が高いことは解っていた。

 幻影に気づかせたことで、彫像の破壊が疎かになった。

 攻撃の手数を減らさず、時間を稼ぎ切ったのだ。



「我が(とも)! 我が(あるじ)よ!」


 四体の彫像が、同時に殺到する。

 残る一匹を覆う黄金が消え、蒼影の姿が(あら)わになる。



 氷に包まれ、捨て身の攻防。


 それでも、蒼影は待った。

 二人が打開策を導き出してくれることを。




   ◆  伍  ◆



 当然、その間、二人が何もしていなかったわけではない。



≪凍結刃/フリージングエッジ≫


 沙雪が“雪風”を氷で覆うことで、リーチを長く。

 さらに、凍気を巡らせることで、物理・魔法両面での強化を施し――



≪鋭敏感覚/エクストラセンス≫


 人一倍繊細な感覚に加え――



≪拡張感覚/エクステンドセンス≫


 抜き身の“雪風”と同調し、その鋭さは平常時の倍以上。

 波一つ無き水面の如く集中することで、身体状況すら把握する。

 弱点を見つけ出すべく観察し――




「我が(とも)! 我が(あるじ)よ!」




≪凍気滑走/フローズンスライド≫


 出した結論は、強化・加速した突きによる、一点突破。



「やぁぁぁぁぁぁ!!」「おりゃぁぁぁぁ!!」



 狙い(あやま)たず、右腕の付け根に突き刺さる。




 ――さらに――



≪旋風/ワールウインド≫


“雪風”に秘められた風の力を解放。

 傷口から体内に暴風が駆け巡ると、クレイダスの右肩は切り裂かれる。



「あがっ……ぐはっ…」


 クレイダスの右腕が地に落ちる。

 いかに生命力が高くとも、切り離されれば使うことはできない。



「ごがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!!!」


 とうとう、蓄積したダメージが、吸収した生命力を上回った。




   ◆  陸  ◆



「やった、か……?」


 叉門がクレイダスにトドメを刺そうと近づくと、

 クレイダスは渾身の力を振り絞り、残った左手で叉門の喉笛を握り潰してくる。


「コロス……!!」


 叉門は、“雪風”でクレイダスの左手首を斬り落とす。

 蒼影が体当たりをすると、クレイダスはよろめく。


「叉門!」



≪凍気盾/フローズンシールド≫


 腕に張った氷を構え――

 先程の≪凍気滑走/フローズンスライド≫で造った氷の道を使い、突進する。

 押されたクレイダスは柱にできていた氷の角に突き刺さり、完全に動かなくなった。





「…………勝った、のね……?」


 しかし、沙雪達も満身創痍だ。

 沙雪自身は精神力の使い過ぎで朦朧としている。


 蒼影は捨て身の特攻を続けたダメージが相当残っている。

 それよりも、クレイダスの決死の反撃を受けた叉門の方が酷い。

 息も絶え絶えで、このままでは命も危うい。



 沙雪は、“雪風”を拾い上げた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★

 

 

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