sweetsweet2
「あ、羅刹丸さんだー久しぶりー」
紅葉はその人ならざる者を見て臆したりはしなかった。羅刹丸と呼ばれたその不気味な何かは紅葉の笑顔の声に手を振って答える。
「よぉ嬢ちゃん。今日は一段と幸せそうな顔してんな」
「えへへーでしょでしょ」
「…何勝手にウチの親友と仲良くなってるのかしら?このストーカー亡霊」
仲良く話す羅刹丸と紅葉に対して美愛は心底嫌そうな顔でストーカー亡霊と呼ばれた羅刹丸を睨み付ける。
「ストーカー亡霊とは人聞きが悪ィな美愛。テメーの安心と安全を守ってる善良な付喪神だろぉが」
「妖刀から離れる事ができない無能亡霊でしょ」
「俺様がいねぇと何も出来ない小娘が何言ってんだよ」
お互いメンチを切りあって同じタイミングでチッと舌打ちをする。今にも喧嘩が始まりそうな雰囲気だが、紅葉は気にしていない。慣れっこだった。
この羅刹丸と呼ばれた人ならざる者は先程本人も言っていたが妖刀羅刹丸に取り憑いて美愛を守ってる付喪神である。正式にはちゃんとした名前があったらしいのだが長く現世に留まり過ぎて名前を忘れてしまったらしく、美愛と紅葉は妖刀の名前から拝借して、彼の事をそのまま羅刹丸、と呼んでいる。
「というか、私を守ってる神様なら私の命令なしで勝手に行動しないでくれないかしら?昨日も依頼主に怪しまれたし」
「美愛や嬢ちゃんみたいに霊感が強ェ人間じゃねぇと俺様の姿はおろか、俺様の声すら聞こえねぇから問題はねーだろうが」
まぁ昨日の奴は多少の霊感があったみてぇだがな、とケタケタ不気味に笑いながら言う。神経を逆撫でされたような笑い声で美愛はまた舌打ちをする。
美愛と羅刹丸は真逆の性質で合わない。簡単に言ってしまえば美愛は羅刹丸が苦手なのである。長い年月妖刀羅刹丸を使って仕事をしているがコイツとだけは永遠にわかりあう事はないな、と美愛は勝手に思っている。
「というか羅刹丸さんがこの事件の事を知ってるって事は今回の依頼主さんってもしかして」
「察しがいいな嬢ちゃん、その通りだ。その一家バラバラ殺人事件の生き残り、新里篤だよ」
「えー!みーちゃん遂にセレブから依頼が来たの!?凄い!有名人じゃん!」
紅葉に言われ、美愛は苦笑いを浮かべる。紅葉が美愛から目線を離した瞬間、美愛は羅刹丸をこれ以上ないくらいの殺意を込めた目付きで睨み付ける。
美愛としては、親友の紅葉を事件に巻き込みたくないから真実を隠していたのに、あっさりこの付喪神にバラされてしまった。
もし――――
もし、紅葉が事件に巻き込まれて怪我なんてしたら私はこの付喪神を殺してしまうかもしれない。
そんな美愛の殺意に気付いてるのかどうか、羅刹丸は美愛を見て、いつもの神経を逆撫でするような笑みを浮かべていた。