神城美愛について4
刀を鞘から抜いて刀身を新里に見せた。
見る者を惹き付けて離さない銀色、命までも吸い込まれそうな危うさ。鞘から抜いても刀の美しさは褪せる事はなかった。
「妖刀羅刹丸…私はそういう風に言ってるけど正式な名前はないしなんて言っても構わないわよ」
「正式な名前がない?」
「妖刀の類いなんてどれもそんなもんよ。あの有名な草薙の剣とかも複数の名前が存在するし、そのくらいの認識の方が良いのよ」
「そんな曖昧な」
「だって妖の力が眠った刀なのよ?」
美愛が刀身を新里の首元に近づけてそう言った。新里の少し困惑した表情が面白かったのか、美愛はクスクスと笑って口を開いた。
「現にあなた、この刀にずっと釘付けじゃない」
「あ…えっ?」
図星だった。
何故だかわからないが新里は羅刹丸と呼ばれた刀から目を話せなかった。
「刀に魅入られる。簡単に言えばあなた、この羅刹丸に呪われちゃったのよ」
「の、呪い…!?」
「あぁそんなに慌てなくても大丈夫よ。その呪いは私の意のまま。簡単に解けるから」
そんな事を美愛はけろっと言ってみせる。同時に新里の身体が軽くなるのを感じた。
しかし、しかしだ。
現に新里の意識は半分以上、あの羅刹丸に持っていかれていた。もし、あのまま意識が羅刹丸に飲み込まれていたらと思うと――――
「ゾッとするな…」
思わず新里は口から言葉が漏れた。
言葉が漏れている事に気付いていない様子の新里を見て美愛はまたクスクスと笑った。
「まぁ一から説明するととてもとても長くなるからとりあえずこの世では認知されてない、人ならざる者を切る刀…という認識をしてくれれば大丈夫よ」
美愛はシャンッと軽く羅刹丸を振って鞘に戻した。
鞘に収めた瞬間、新里は身体がスッと軽くなるのを感じた。緊張もあったんだろうが、これがさっき美愛が言ってた呪いと言うものなんだろうか?
妖刀の力。
こんなものは序の口なんだろうが、その力を確認出来た瞬間であった。
「…妖刀なんてこの世にあるんだな。おとぎ話や夢幻の物と思っていたのだが」
「この世に証されていない秘密なんて探したらいくらでもある。あなた世界で証されていない秘密のひとつを知る事ができたのよ?」
感謝なさい?とフフンと鼻で得意気に笑いながら美愛は言う。やっぱこいつ嫌な女だなっと新里は思う。今度は口から言葉が漏れる事はなかったが新里は何故か口を押さえてしまう。
「――――ま、妖の類いの事は妖に任せろっつー事だなァ。嫌いな食べ物をいきなり好きになれっつーのはできねぇからナ」
――――ふと。
この個室から新里と美愛以外の誰かの声が聞こえてきた。ヘラヘラしてるような口調だがいやに存在感があるそんな感じの男の声だった。
美愛はチッと舌打ちをして手に持っていた羅刹丸をブンッと床に叩きつけた。ガシャァッと強い音がした。
「なんでもないわ」
美愛がそう言う。
まだ何も言ってないんだが、と新里は続けたが何故か、ギロッと美愛にかなりキツイ目付きで睨み付けられたので新里は黙ってしまった。
「…とにかく私の力は見せた。これであなたの依頼を解決してあげるから今日は依頼の前払金置いて帰ってくれないかしら」
「なんか煮え切らないが…ま、まぁ依頼の件、よろしくお願いする」
「前払金は四十万よ」
「よっ…四十万…!?」
やはりコイツ、嫌な女だと。
新里は渋々前払金美愛に渡して名も知らぬ神社を後にした。