神城美愛について3
「悪夢を見なかったのならあなたが弱って殺される事はないわね。その悪霊が何故あなたにだけ悪夢を見せなかったのかは気になるけど」
「それは俺もわからない」
「あなたがこの仕事を私に任す、というなら私はこの仕事を受けるけど…いいの?」
「いいのって何が」
「私と関わる事であなたは必然的に霊と関わる事になる。今、あなたは霊の干渉を受けていないけど私と関わる事で霊に命を狙われる可能性もなきにしもあらず、と言うことよ」
こういった発言をしたのは美愛なりの優しさであった。自分のせいで命が狙われる――――美愛は退魔師でこの世ならざる者には圧倒的な強さを誇るが生身の人間を守る、となるとまた話しが変わってくる。万が一新里が巻き込まれて命を落とした、なんて事になったら後味が悪すぎる。
美愛の不器用な優しさに新里は一切表情を変えずに真っ直ぐと美愛を見据え
「それでも、構わない」
と美愛に告げた。
「理由もわからぬまま命を狙われて、親族だけ殺されて俺だけ現実から目を背け逃げる、というのは違う気がする」
「…大した心意気ね。自分が殺されてもいいというの?」
「アンタに頼めばすべてがわかるんだろ。何故俺だけ生き残ったのか、それか逃したのか…俺は現実から逃げるんじゃなく、悪霊が俺に何がしたかったのか、すべてを知っておきたい」
新里が告げる。
一切、自分の意見を曲げる気はない、という決意が美愛に伝わる。美愛は口元をほんの少し上げて笑顔を作った。久々に強い人間と会えた気がするな、と、気分がこんなに高揚したのは荒汐紅葉の一件以来の久々の出来事で美愛は嬉しさを隠しきれなかった。
「…いいわ、あなたの事、すっごく気に入った。この仕事依頼、この退魔師の神城美愛が責任を持って引き受けるわ」
美愛はそういうと新里に背中を見せてスタスタと歩く。
「着いていらっしゃい。あなたには私の力、見せないといけないから」
言われるがまま、新里は美愛の後ろを二、三歩遅れて着いていく。案内されたのはさっきの部屋より狭い個室だった。
個室の割には異様な雰囲気に包まれた個室。その異様な雰囲気を醸し出している正体に新里は直ぐ気付いた。
「刀…」
――――そう、刀。
神聖な神社には不釣り合いな物騒なものが壁に張り付けてあった。
新里は気付く。その刀から禍々しい雰囲気を放っているのを。見続けていたら全てが、いや命までも吸い込まれそうな。
新里は訳もわからない禍々しさに一歩後退る。この刀はとても危険だ、と身体が危険信号を激しく点滅させる。
「あなたの行動は正しいわ。その刀は妖刀だもの」
美愛が妖刀と言った刀の柄を掴んで言った。