神城美愛について2
新里の言葉に美愛は心底めんどくさそうな顔をしてため息を吐いた。わからない、とはどういう事なのだろうか。
「…もう一回聞くわよ?あなたは、あなただけはなんで殺されずに無事に済んだのかしら」
「だからわからないんだ。家族は全員殺されて、俺だけ無事だったんだ」
「……」
会話にならないな、追い出してしまおうかと美愛の頭の隅でそんな事を思ったが、せっかくの金のなる木をこんなところで失う訳にもいかないしな、と邪な気持ちを抱いた。なんか金持ってそうだし、権力のある奴に恩を売っておくとこの先いいことあるかもなぁと神聖な巫女服を着た少女と思えない邪悪な顔をしているとポカンとした顔で新里に見られてた事に気付き、美愛はコホンッとわざとらしく咳払いをした。
「…あなたの話しをまとめるとあなたの家族達は悪霊に悪夢を見させられ、弱ったところを悪霊に皆殺しにされた、と。あなたが殺されてないのはあなたが他の家族より心身共に丈夫だったから…これで良いかしら?」
簡潔に美愛がまとめると新里が少し悩んだような顔をして力なく頷いた。まだ、話していないことがあるなと判断した美愛はいつもの仏頂面を解いてほんの少し優しく微笑んだ。
「別に取って食ったりしないわよ。私は人間…特に弱い人間が嫌いだけど、基本的には人間の味方よ」
「…まるで自分は人間じゃない、みたいな口振りだな」
「どうかしらね。退魔なんてやってる奴なんて普通の人間ではない気がするけども」
「…それもそうか」
ここに来て新里は初めて笑顔を見せた。同時に新里の周りにあったピリピリとした緊張感がスッと無くなっていく。
「アンタを疑うような事をしたのは謝る。これは自分の問題かもしれないから黙ってようとしたんだが」
「悪霊の類いの事を一般人が手を出すのはとても危険よ。この退魔師の美愛様に任せなさい?全部まとめて解決してあげるわよ」
その分お金はもらうけどね、と言うと新里は苦笑いを浮かべる。神城美愛という少女は思ったより人間らしいところがあるなと新里は思った。同時に友達が少なそうと思ったがこれを口にしたら殴られるかもしれない。新里は覚悟が決まったのか、表情を少し険しくして口を開いた。
「さっき俺はアンタにうちの親族は悪夢をみせられてじわじわ苦しめられながら殺された、といったな」
「えぇ、そしてあなたは心身共に親達より優れてたから殺される事はなかった」
「いや、それは間違いだ。俺は殺されるはずがなかったんだよ」
「…?」
「俺は家族が見ていた、とされていた悪夢を一切見てないんだ。親達はこぞって同じ夢を見て錯乱してたが俺はその悪夢とやらを見たことがないんだ」
それを新里から聞いて美愛はようやく興味が湧いた顔をした。 この新里篤という男が殺されてないのはその悪霊から直接干渉を受けてないかららしい。これでようやく話しを前に進ませる事ができる。