2.平和
ぼくはちょっと考えさせて欲しいと言った。
考えることなんかないじゃないと〈平和〉はぼくを責めるように言い返した。
「じゃあ、私が消えてもいいの?」
「う……ううん」
ぼくは気迫に押されるように首を振った。
「じゃあ、手伝って。このままじゃ私が消えて、大変なことが起こっちゃう」
「て、手伝うのはいいけど……でも?」
「でも?」
「〈平和〉ってさ、もっとおっとりして笑ってるものだと思ってた。いや、その……きみはとてもかわいいよ。でも、きみの顔、無表情だよ。怒ってるのか、悲しんでるのか、わかりにくいし……。どうして笑わないの?」
無表情な顔に『だから何で分からないの』と言わんばかりのイラつきっぽいものがよぎる。ぼくは身をこわばらせた。
「当然でしょ。明日にも戦争が起きそうなのに、私が笑うことなんかできるわけないじゃない。だから、こんな仏頂面しかできないの。だから、戦争を防がなきゃいけないの」
「でも、どうやって戦争を止めるの?」
「わからない……だから手伝って欲しいの……戦争を止めて欲しいの」
戦争を止める。ぼくは喧嘩の仲裁すら出来ず、巻き込まれては殴られる損な役回りなのだ。
そんなぼくに戦争を止める手伝いなんかできるだろうか?
「悪いけど。ぼく、自信が……」
ない、と言い切れなかった。
少女の目がじわっと涙で潤んでいた。
「な、泣かないでよ……」
少女の涙がひどく心を締め付ける。
「私、このままさびしく消えちゃうんだ……誰も助けてくれない……」
本当に消えてしまいそうな声だった。
「わ、わかったよ……」
あんまりかわいそうなので、ぼくは折れてしまった。
「ほんと?」
「うん」
我ながら自信のない声だ。
「じゃあ、さっそく行きましょ!」
〈平和〉はぼくの手をぐいっと引っ張った。
「ちょっと待って! 行くって? どこへ?」
思いのほか強い力にぼくは驚かされる。
「戦争を止められるところよ」
「それってどこなの?」
「それをあなたに考えて欲しいの。はやく。戦争が始まっちゃうわ」
「そ、そんなこといわれても……急に思いつかないよ」
ぼくは必死に考えた。そもそも戦争って何なんだろう? 人と人が戦ったら、それは喧嘩になる。国と国が喧嘩するのが戦争だ。でも、国を説得するなんて、どうやればいいんだろう? 国は人じゃないし……。でも、待てよ。ぼくの国で一番偉い人は……
ぼくは試しに言ってみた。
「王様にお願いすればいいんじゃないかな。戦争をやめてくださいって」
「それよ!」
〈平和〉は手をポンと打った。
「早速、王様に会いに行きましょ」
「無理だよ。王様がいる宮殿はここからずっと離れたところにあるし、それに王様はぼくらに会ってくれっこないよ」
ぼくは〈平和〉に現実的な判断を要求した。
「大丈夫。宮殿なんて、すぐよ。それに私、みんなに好かれてるもの。王様もきっと私のことが好きなはずよ」
「そうかなあ……」
ぼくは半信半疑だった。
「だって私は〈平和〉だもの」
〈平和〉は自信満々だった。
妙な説得力があるなあ。ぼくは〈平和〉の言葉を考えてみた。
「さあ、手をつないで」
〈平和〉はぼくに手を差し出した。とてもきれいな手だ。ぼくがどぎまぎしていると、
「いいから早く!」
〈平和〉がぷりぷりしてぼくの手をつかんだ。きれいだけど、思いのほか強引でもある。
「じゃあ、いくわよ」
「行くって……」
そのとき、突然目の前が白く光った。ぼくは何がなんだか分からない。とにかく〈平和〉とつないでる手だけしかぼくには感じ取れない。
光がひいていく。
気がつくとぼくは、宮殿の応接間にいた。




