Meme(ミーム)
1年前ーー
「本日をもって、《早瀬隊》は解散よ。私は多分どこかの班長になって、颯良は昇進して新しい隊のメンバーになるかな?」
「僕、澪が……いや、私は早瀬隊長がいないとやっていける自信がないのですが」
「だから敬語はいいって……でも、大丈夫よ。私がいなくてもあなたは強い」
ーーこの時の言葉の意味、『僕が自分を見失わない自信がない』を澪が理解することはなかった。……違う、その不安から目を背けていたんだろう。
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「ほ本日から、この班の副班長を務めさせてもらう『穂月茜』三尉です。よよ、よろしくお願い申し上げます!」
事件現場のすぐ近くの集合場所で1人の少女を慣れない敬礼を僕にする。緊張してるのか僕の顔を見ないように目まで瞑っている。
「だから敬語はいいって……」
こんな事、前もあったような気がするな。
《Meme対策局》特殊班《白夜班》の欠番だった副班長はとても真面目な性格でおどおどしており、とても不安にさせられる少女だった。笑顔を浮かべているつもりなのだろうが、表情はガチガチで……
「だ…大丈夫でっか!? キンチョーしてませんか?」
「いや、君が大丈夫?」
という感じだが……対策局の中で下位の階級の《員》《曹》ではなく上位階級《尉》《佐》《将》の中でも《尉》の階級を名乗る彼女は相当の実力の持ち主なのだろう。僕の階級は一尉、階級だけなら僕が上だが入隊して1年もせず上位階級に達した事は凄いとしか言いようがない。
そして、この隊に派遣されたということは彼女も………………
「彼女がコレに溺れませんように」
彼女にも聞こえないほどの声で、僕は静かに神に祈った。
「ところで他の班員は?」
「君を含めて4人の中で来ているのは、僕と君2人だけ」
「……人望なくてすみません」
と、地面に座り込んでしまう僕の上司。だが、仕方がないことだと思う。『今のところ』彼女を除いた僕たち3人は『異常』なのだから。
「穂月副班長、司令です。至急、班員を連れて事件現場に向かってください」
「あ……了解です! 行きましょうか?」
「え? う…うん」
僕は一瞬、呆気にとられてしまった。彼女の目は真剣そのもの、先ほどまでの緊張はどこにいったのかと思わされる表情だったからだ。
『今回の事件は銀行強盗を行っていた男に異常が発生。金も取らずに出て行ったが、出動したパトカーを片手で銀行に投げ飛ばし逃走中。死者12人、重軽傷者20人を超える大事故』
Memeの典型的な症状だ。パトカーを片手で投げ飛ばす、身体能力の異常ともいえる強化をミームは簡単にやってのける。
こうなってしまった感染者は『モンスター』と例えても間違いではない力を持つ。
「犯人はこのビルの屋上に逃げ込んだそうです」
「捕まえなきゃ!」
この時、僕はまだ自分の身に起きる事件を知ることもなく走り続けていた。