第五話〜入学式〜
予想以上に筆が進んだので、明日を予定していましたが今日投稿します。
パルス魔法騎士学院の入学式は、他の学校と比べるとかなり異質だ。
まず会場が総勢で千人以上も入れる程に巨大で、音楽が鳴りダンスをして立食を楽しむという、まさに貴族たちが開くパーティーのような豪勢さである。
学院はパルス王国と貴族たちの支援金で運営されている。当然、そこには多くの貴族たちが通う訳であり、ただの入学式でも贅を凝らしたものになってしまうのだ。
会場には既に多くの生徒たちが集まっているが、さてレイルはというと、裏でおめかしの真っ最中であった。
「ええと、これって似合っているのかな?」
「はい、とてもお似合いです」
学院が雇っている、ぴょこぴょこと動く兎耳が生えている獣人族のメイドに言われても、レイル自身は似合っているかどうかあまり判別できなかった。
今のレイルは格式張った白の服で決めており、その上に赤い布やらマントやらを付けられて暑苦しい服装となっている。これが貴族の世界では礼装とされているのだが、お洒落などに全く興味を持ってなかったレイルにとっては、ただの暑苦しい服にしか思えなかった。
しかし、レイル自身の容姿やポテンシャルは十分なので、まあ貴族の令嬢たちを唸らせる事はできるだろう。レイルが同じ貴族であったらだが。
「だいたい、こんな面倒くさい格好とかって必要あるのか? 皆に挨拶してすぐ終わらせればいいのに」
「なりません。歴史あるパルス魔法騎士学院の誇りある魔法騎士科であるレイル様は、この学院に在籍する全生徒の憧れです。それに相応しい格好をしていただかなければなりません」
「ふーん、そんなもんかね?」
「そんなものです」
兎人族のメイド──セラスににべもなく返されて、渋々と唸りながらもレイルは納得した。
本来パルス魔法騎士学院には三つの学科しか存在しないのだが、その年の優れた入学生に限り特例として第四の学科が作られるのがこの学院の特徴だ。
その学科の名は、魔法騎士科。剣と魔法と知識の全てを最高レベルで持ち合わせている生徒しか所属を許されぬ学科である。そして魔法騎士科の生徒は全ての生徒の模範となるべき生徒であり、入学式にそのお披露目をするのが決まりとなっている。それが現在レイルが暑苦しい服装に身を包んでいる理由なのだ。
ボーン、ボーンと、時計が時刻を示す音が鳴った。
「そろそろ時間じゃぞ。準備はできているかの? レイル君や」
「学院長様」
部屋に入ってきたのは、長いローブを着て地面に届きそうな程の長いヒゲを蓄えた、耳の長い老人、パルス魔法騎士学院の最高責任者であるバルゲート学院長だ。
メイドが恭しく頭を下げるのを見て、レイルも目の前の老人が学院長だと気付いた。
「えっと……初めましてです、学院長さん」
「ほっほ、そう畏まらんでいいよ。きみは栄えある魔法騎士科の生徒なのじゃから。ふむ、どうやら準備は万端のようじゃの。会場に向かう間、少し話しでもしようかの」
部屋から出て、レイルはバルゲートと一緒に赤い絨毯が敷かれている渡り廊下を歩く。
これもバルゲートの謀なのか、それとも本質がそうなのか、好々爺としたバルゲートにレイルは警戒というものをしていなかった。
「──単刀直入に訊くがのレイル君、きみの親は人の形をしておったか?」
「ッ!?」
笑みを崩さずに問われた言葉、それを理解するやレイルは隼よりも速く全身を臨戦態勢に整え、目の前の老人を魔力で威圧する。瞳孔も、獣のような鋭いスリット状へと変わる。
穏やかな空気に突如として投下された爆弾。一触即発の空気になるが、それでもバルゲートは笑みを崩さず長いヒゲを撫でる。
「ほっほ、そう身構えんでくれると嬉しいのう。ヴリトラという竜の名に聞き覚えがあっての、もしかしたらきみが何か知っているのではと思って問うたんじゃ。もし違っていたら非礼を詫びよう」
「……………………わかりました。それで、父さんとはどういう関係なんですか?」
長い沈黙。バルゲートの真意を探ろうと睨みつけていたが、真意が読み取れず、言い逃れる事もできないと悟ったレイルは、張り詰めた魔力を霧散させて観念した。
「関係と言うても、昔にきみのお父上に挑んで、無様に負けただけじゃ。400年程前にの」
「400年……ああ! その時ですか。100歳くらいのエルフが、童のクセに中々に頑張っていたって父さんが言ってましたよ」
「ほっほっほ、それは嬉しいのう。あの時の事をまだ覚えていてくれてたとはのう」
バルゲートは、年甲斐もなく子供のように喜んでいた。たった一度しか会っていなかったが、それ程にヴリトラとの出会いは衝撃的であり、その隔絶された強さを憧れてすらいたのだ。その憧れのような存在に、400年前に会った事を覚えていてもらって、バルゲートは心が浮き立つような気分にいた。
歳を取れば取る程、誰かに子供扱いをされてもらいたいのだ。500歳を超えるバルゲートを童呼ばわりできるのは、今では殆んどいないだろう。
「それで訊きたいのじゃが、あの時どうして儂を殺さずに見逃したのか、それをきみのお父上にもう一度会って、尋ねようとずっと思っていたんじゃよ」
「……んー、そこまでは聞いてないですけど、父さんはずっと平穏を望んでいました。誰とも戦う事もなく、誰かに憎しみを向けられる事もない。だから父さんは、必要以上に誰かを殺したくないってずっと言ってました。人の想いで勝手に生み出されて、人の想いで勝手に憎まれてましたから。だから父さんは最期に、自由に生きろと俺に言ってくれてました」
ヴリトラの出生は、人間たちの身勝手な想いに塗れてあった。
神々が住んでいたとされる古代、未曾有の大雨に当時の人間たちは困窮を極め、人々は雨が止むように祈った。その祈りの果てに生まれたのがヴリトラである。
しかしヴリトラの力は絶大であり、大陸中は旱魃に見舞われて人々は飢饉で死に絶えそうになった。そこで人々は、ヴリトラを倒せれる存在が現れる事を祈った。
そうしてヴリトラは人々から忌み嫌われて、誰の想いに束縛される事もなくひっそりと生きる事を決めたのだった。
故に、ヴリトラは息子のレイルが学院を卒業したら自由に生きろと言ったのだ。
「最期……そうか、きみのお父上はもう……」
「はい、1年前に。老いでもう長くないからと」
「その肌や髪と瞳も、お父上の遺産かの?」
「……そうです」
流石は、この世の魔法と知識を知りつくしたとされているバルゲートだ。レイルの体に起こっている異変を、先の会話で瞬時に見抜いた。
特に隠す事でもないし、バルゲートは信頼できると判断したレイルも頷く。
「学院長、俺から一ついいですか?」
「何かの? 答えられる事ならなんでも答えるぞい」
「どうして俺を魔法騎士科に? あんたなら、俺が魔法を使える資質が無いって事ぐらい知ってるでしょ?」
魔法騎士科に分類される生徒が毎年現れる訳でもなく、魔法騎士科には専門の授業というものがない。三つの学科の授業を自由に受けたり、学院に専門の機材などを用意させて自習に励んだり、課外授業で魔物が棲むダンジョンを攻略するぐらいだ。
だが、レイルには魔法を扱う事ができない。魔法が扱えていたら森などには捨てられず、妹のレイラと一緒にクレイナル家の人間として学院に入学しているだろう。
魔法が使えない以上、三つの分野に秀でている魔法騎士科の条件にはそぐわない。それをレイルは不思議に思っていた。
だが、バルゲートの口から出てきた言葉はもっと不思議であった。
「面白そうじゃったからじゃ」
「は?」
面白そう。たったそれだけの、まるで子供のような理由に、思わずレイルは呆れた表情を浮かべる。
あまりに分かりやす過ぎて、幼稚な言葉。何か打算や計算でもしているのではないかと疑うが、バルゲートからは邪気のようなものが一切感じられなかった。
「嘘は言っておらんよレイル君。儂はのう、きみに期待しておるのじゃ。過去にいた魔法騎士科の生徒は、どれも有力貴族の御曹司や令嬢たちでのう、他の貴族たちが調子に乗って一般の生徒たちへの差別が露骨に強まるんじゃ。じゃが今年は、特に貴族でもないきみが魔法騎士科に入るんじゃ。しかも相手が貴族でも物怖じしないときた。当然、面白く思わない貴族たちが出てくるじゃろうし、今年の学院は荒れると思うんじゃ」
「荒れるって……。あんた学院長でしょ? 問題起こしちゃ駄目でしょうよ?」
「駄目じゃのう。じゃが儂ももう歳じゃし、そろそろ隠居でもしようかと考えておるのじゃ。それに国王も、最近は国内の膿を出そうと思っとるからの。利害は一致しとるんじゃよ。まあもう一人きみと同じ魔法騎士科の子がいるから、難儀するとは思うけどのう」
「もう一人……俺以外にも魔法騎士科の子が──」
「お喋りはここまでじゃ。儂が先に挨拶をしてくるから、きみは儂が合図するまで待っているのじゃぞ?」
朗らかな笑みを浮かべるバルゲートに会話を切られて、レイルはその場で止まってバルゲートの合図を待つ事にした。同じ魔法騎士科なら、すぐに顔を合わせる事になるだろう。
扉越しに聞こえていた騒音が、ピタリと止んだ。
***
そこには、騎士と魔法使いが集まっていた。
広大なホールに、並べられた一級品の料理の数々、弾き手もいないのに楽器たちは雅な調を奏でてくれる。そして騎士と魔法使いや魔女の格好をした者たちが集まり、まるで盛大な仮装パーティーだ。
しかし、これがパルス魔法騎士学院の例年の光景。入学式という名の晩餐会であった。
貴族は貴族たちで談笑をしたり貴族内で早くも派閥を作りあい、一般の生徒たちは楽しそうにお喋りをしたり料理に舌鼓を打っていた。
華やかな雰囲気であった晩餐会だが、急に音楽の音が鳴り止み扉の開く音が響き、パルス魔法騎士学院の学院長であるバルゲートが出てきた。
流石に学院長が出てもお喋りを続ける訳にもいかず、生徒たちは一切の音を出すのを止めて学院長に目を向ける。
「おほん。新入生諸君、音楽と食事は楽しんでいただけたかの? 折角の楽しい時間を遮ってしまって悪いがの、老人のつまらない長話に付き合っておくれ」
そして始まる、いつもと変わらぬ新入生への祝いの挨拶。多少は単語とかを変化させてはいるが、その内容は殆んど変わらない。
数百年も学院長をしてて毎年挨拶をしなければならないのだ。如何に大賢者と讃えられたバルゲートでさえ、流石に言の葉が尽きてしまう。
できるだけ簡潔に話をまとめたバルゲートは、漸く本題へと入る。
「さて本学院には、入学試験で優れた成績を修めた者にのみ特例として第四の学科を与えておる。本日はその生徒を諸君らに紹介しよう。彼らを目標にして、これからの学院生活を励んでもらいたい。では紹介しよう、レイル・ヴリトラ君じゃ」
演奏者のいない楽器たちが、一斉に華やかな音楽を奏でだした。そしてそれと同時に現れたのは、褐色の肌を持つ黄金の瞳を輝かせた少年、レイル。
礼装に身を包み、威風堂々たる歩き姿は立派なもの。元から顔立ちは整っているので、女子たちからは色々と声が漏れる。
「あら、あの方が魔法騎士科に選ばれたの? 平民の分際で」
「端整なお顔立ちをされているわ。お近づきになろうかしら?」
「おやめなさい。相手は平民ですよ? それにあの浅黒い肌……異種族との混血か、何か病気を持っているかもしれませんわ」
「ですが魔法騎士科に入るのであれば、卒業後は王宮で高い地位に就くに違いありません。ここで知己の間柄になっても損はなくて?」
「レイルの奴、魔法騎士科だったのね。だったら先に言いなさいよね、もう……」
「はわわ……凄い人なんですね、レイルさんは」
などなど、様々な声が聞こえてくるがレイルも一々反応はしない。ただ今さっき知り合ったメルネとクリーナだけには、笑顔で手を振っていた。
そしてもう一人、レイルとは浅からぬ因縁を結ぶ事になった者も、レイルに深い憎悪の感情を向けていた。
「あの平民が、貴族である僕を差し置いて魔法騎士科だと……ッ。そんなの、認められない……っ」
レイルによって大衆の面前で赤っ恥をかかされたカルナスは、怒りで飲み物が入っているグラス震わせる。割らなかっただけでも、彼からしたら自制できた方だろう。レイラに言われた貴族としての品格が、辛うじてカルナスの割れやすい自制心を繋ぎとめていた。
無駄に高いプライドを貶められ、相当な贅だけを凝らした自慢の剣を曲げられ、あまつさえ魔法騎士科という絶対的な実力を見せつけられたのだ。しかも相手はなんら家柄を持つ訳でもない平民。もしレイラの言葉が無ければここでも喚き散らして醜態を晒していただろう。
誰も知らない所で一人の憎悪が膨れ上がり、式は進む。
「しかも今年はそれだけではない。なんともう一人、魔法騎士科に選ばれたの生徒がいるのじゃ。その年に複数人の魔法騎士科が選ばれた事は、長い歴史を持つ本学院でも初じゃ。ご紹介しよう、レイラ・クレイナル公爵令嬢」
音楽の曲調が変わり、次は金管楽器の荘厳な重低音が響く。
そして現れたのは、まさしく貴族の体現者であり、絶対者であった。
照明に照らされて眩く輝く、遥か広がる大海を閉じ込めたような青のドレス。そのどれもが破格の価値を持つ装飾品でありながら、決して出張らず持ち主を引き立てる。
幼少期からの苛烈を極めた教育の賜物か、その所作には一切の非の打ち所がなく、歩くという行為のみで他者との品格の差を見せつける。
パルス王国で最高の貴族であるクレイナル家の登場に、会場の皆はシンと静まりかえった。この絶対者の前で雑談に興じようものなら、不興をかって何をされるか分かったものではない。
何せ相手は実質パルス王国でのNo.2なのだ。できる事が多いにあるからこそ、何をされるのか分からないのだ。
ある意味では憧れ、ある意味では恐ろしいクレイナル家の令嬢は、学院長の所まで歩み寄りレイルと並び立った。
片方は絶対的な権力を持つ公爵家の令嬢で、もう片方は魔法も使えない平民とされている少年。しかそ実際は、4年前に生き別れた双子の兄妹。見事に真逆でありながら血の繋がった双子という、世にも奇妙で数奇な光景であった。運命の神というのは、さぞ気まぐれで酔狂な性格に違いない。
実の妹に、生き別れた兄と同じ名を持つ男に、互いは互いを一瞥する。
「さてそれでは、栄えある魔法騎士科の二人には、それぞれ軽い挨拶をしてもらおうかの。まずは、クレイナル嬢から」
バルゲートに促され、レイラは一度だけ礼をすると一歩前に出た。かの高名なクレイナル家の令嬢、そこから出てくる言葉に、皆は固唾を飲んだ。
「私から言うことは一つ。貴族とは、常に上に立たねばならぬ存在だ。優雅に気品を持ち、他者に劣らぬように心がけろ」
……会場が、静まり返った。まさかそのような事を言うとは、誰しもが思わなかっただろう。
さっきの言葉は全生徒に向けたのではなく、貴族の生徒にのみ発した言葉だ。たしかにこの学院には貴族の家柄を持つ生徒が多くいるが、そうでない生徒も少なからずいるのだ。それを蔑ろにした発言、面白く思わない生徒もいるだろうに。
しかし次の瞬間、静まり返った会場には大きな拍手が鳴り響いた。勿論、貴族たちだ。それ以外の生徒は頑なとして拍手はせず、その怒りを腹の底に押し留める。
入学式から既に貴族と一般生徒たちの間に大きな軋轢が生じてしまった。その事に頭を悩ませる者が若干名いた。
「ほっほ、皆を刺激する素晴らしい挨拶じゃったなクレイナル嬢。次はレイル君、お願いしようかの」
「はい」
レイルもレイラに倣って、一度だけ礼をしてから一歩前に出る。
平民の出でありながらクレイナルの者と同じ魔法騎士科。何か貴族たちに言い返してやれと生徒たちは強く願うが、レイルが放った言葉もまた皆の想像より明々後日向こう側であった。
「俺は何故か魔法騎士科に選ばれたけど、俺は魔法を扱える資質が一切ない。だから、色々と皆に教えてもらう事もあるだろう。その時は宜しく頼む」
魔法が使えない。その言葉を聞き一般の生徒たちは愕然としたり落胆したり、逆に貴族たちはこれ見よがしに勝ち誇った笑みを浮かべたり嘲笑したり、狂気じみた喜びに震える者もいた。
やはり、貴族には勝てないのか。そう諦めていた時に、レイルは少ない狼煙を上げた。
「ただ、俺が魔法騎士科にいる事で面白くないと思う輩もいるだろう。そういう奴らがいるんなら、遠慮なく俺に決闘を申し込んでくれ。全生徒の半分が一斉に挑んでも俺は構わない。俺を倒した奴に、魔法騎士科に移る権利をやる」
小さい狼煙だが、それは間違いなく反撃の狼煙であった。
面白く思わない輩とは、つまり貴族だ。全生徒の半分とは、つまり貴族だ。レイルは貴族たちに、宣戦布告をしたのだ。
どんなに人数を集めても、それに勝つ自信はある。遠回しな言い方ではあるが、レイルは貴族たちにそう言い放ったのだ。
プライドだけは高い貴族たちにとって、その不遜な挑戦状はさぞや業腹で不愉快に感じたに違いない。そしてレイルはダメ押しとして、魔法騎士科の権利を譲渡するという餌まで放ったのだ。
過去在籍した魔法騎士科の全員は王宮に召し抱えられ、全員が高い地位を与えられた。魔法騎士科というのは、貴族の登竜門のような存在なのだ。
地位や権力を欲する貴族どもにとっては、さぞ魅力的な餌であろう。それが、魔法の使えない落ちこぼれと一緒にやってきたのだ。
侮辱された怒りと出世を約束された椅子。それをみすみす見過ごしたりはしないだろう。
そしてレイルもまた、自分が負けるなど欠片も思っていないのだ。貴族たちへの不敵な宣戦布告に、勝つと疑わぬ堂々たる自信。
怒り心頭といった貴族たちを見て溜飲を下げた一般の生徒からは、あらん限りの拍手が降り注いだ。上品さの欠片もないが、そんなものは気にせず盛大に、大きく、レイルの言葉に胸を躍らせていた。
「……すみませんね学院長、勝手な事を決めてしまって」
「ほっほっほ、構わぬよ。それにしても面白い事を考えたものじゃな。これなら明日からでも決闘を申し込まれそうじゃ。じゃが、大丈夫なのか? 大衆の面前で言った以上、負ければ本当に魔法騎士科を手放さねばならなくなるぞ?」
「まあ、負けなければいいんですよ」
「ほっほ、たしかにのう」
愉快そうに、バルゲートはヒゲと皺で覆われた顔で笑みを零す。これからの学院を想像して、子供のように無邪気に。
レイルもまた、これから挑んでくるであろう強者や猛者を想像して、餌を放られた肉食獣のように獰猛で鋭い笑みを浮かべているのだった。
ただ、隣ではレイラが探るような目つきでレイルを見ていた。同い年、兄と同じ名前、それと兄と同じで魔法は使えない体質。偶然にしてはあり得ない一致であり、同一人物と判断するにはあまりみ容姿が違っている。
「……まさか、本当に兄様なのか? いや違う、あんな奴なんて忘れろ。──私の約束を破って逃げた、あの男の事なんて……っ」
誰にも聞こえない声で呟き、レイラは首にかけている古びたロケットを、強く握り締めるのであった。
さて、森に捨てられた筈なのに、レイラは逃げたと言ってましたね。食い違いがあって、ん? と思う方もいらっしゃると思いますが、追い追い回収していきたいと思います。
明日投稿する予定だったのを今日投稿したので、もしかしたら明日は投稿できないかもしれません。
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