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第四話〜別人として〜

なんとか書き上げれました。もう寝ちゃうます。おやすみなさい。

 レイルが生まれたクレイナル家は、パルス王国でも一二を争う程の大貴族の家である。その歴史はパルス王国建国時まで遡り、初代当主が当時パルス王国で暴れていた竜を討ち倒した事によって公爵の地位を授かったという、パルス王国で最も古い公爵家である。

 歴代当主たちは皆歴史に名を連ねており、過去には王家に婿や嫁を出している最高品質の血統を持つサラブレッドだ。その力は国王に次ぐ程であり、その一言は全貴族を動かす程である。


 だが歴史を重ねれば重ねる程に、クレイナル家には"歴史"という重責がのしかかり、全貴族の模範とクレイナル家の血を継ぐに相応くあらんとして執拗に"力"を求めるようになった。それは、時を重ねる程に強まる呪いであった。

 その一つとして挙げられるのが、幼少期に行われる苛烈を極めた教育である。

 文字の読み書きに数字の計算、帝王学から剣と魔法の熾烈な訓練。出来なければ出来るまでやらせ、場合によっては体罰も辞さない、必要最低限の休息と食事しか与えぬ拷問であった。

 魔法の資質が無いとされ世間から存在しない事にされたレイルに代わって、双子の妹であるレイラがその全ての苦行を引き受ける事になったのだが、当然その凄惨な仕打ちに子供が耐えられる訳などなく、レイラは毎日のように泣いていた。


「ひっく、にいさまぁ、なんでみんな、わたしにこんなひどい事をするの? おべんきょうなんて、もう嫌だよぉ」

「ごめんねレイラ、ぼくが役立たずだから、レイラにこんなひどい事をさせちゃって」

「ううん! にいさまはわるくないです! こうして、わたしと一緒にいてくれるだけでわたしは満足なんです」


 当時の二人の扱いは熾烈であった。常軌を逸した習い事と毎日のように怒鳴られて精神を擦り減らすレイラに、両親だけでなく使用人たちにまで毎日殴る蹴るなどの虐待を受けていたレイル。

 レイルの虐待に至っては両親が容認していたのだから、また度し難い。主人に叱られ鬱憤の溜まっていたメイドに蹴られ、給料が低いからと執事には殴られた。(ひとえ)にレイルを殺さなかったのは、殺せば幼いレイラの心が壊れて使い物にならなくなってしまうからだ。だから虐待の箇所も顔以外と目立つ場所以外と限定されていた。

 幼いながらにそれを察していたレイルは、どのような事をされようと決して妹のレイラの前だけでは泣かなかった。それと同時に、妹の心だけは守ってやらねばという決意も生まれていた。

 それに甘えて心の拠り所にしている妹のレイラ、それを守ろうと必死に生きようと決意するレイル。二人が固い絆で結ばれるのは必然であった。


「おねがいですにいさま、ずっと、ずっとわたしのそばにいてくれますか?」

「うん、ずっとそばにいるよ。ずっと、ぼくがレイラを守るから」


 幼き日に交わした、固い約束。しかし、それはすぐに両親によって破られる事になった。

 ある程度厳しい仕打ちにも耐えられるようになり、これ以上兄のレイルに甘えられて依存されては後々の婚約者を決めるのに不都合だと判断され、レイルは森に捨てられたのだった。

 それが、幼き二人の兄妹の別れとなったのだった。


 ──だが、運命というのは時に粋な計らいをしてくれるものだ。まさか学院で4年前に別れた兄妹を再会させるとは。

 久し振りの妹との再会に、レイルの頭は上手く働いてくれなかった。


「それで、カルナス・ファルナー伯爵、この醜態はどういう事か説明してくれるか?」

「レイラ公爵様! そ、それがですね、この無学な平民の娘が、私がローブを踏んで破ったと言いがかりをつけてきて、それで私が躾けてやろうとしたら、この粗暴な平民が私に暴力を振るってきたのです!」

「なっ!?」


 その言葉は負けん気の強い魔女っ娘の声だった。

 事の始終を見ている者なら、カルナスの言葉がいかに歪曲されたものか分かっているが、相手は貴族、それも片方はパルス王国で国王に次ぐ権力を持っているクレイナル公爵家だ。家柄を持たぬ者が千の言葉を言おうと、たった一の言葉で覆されれてしまう。

 カルナスの虚偽の説明を聞いて頷いていたレイルだったが、飛び出した言葉はカルナスですら予想していなかった。


「──言葉が悪かったようだな、カルナス・ファルナー伯爵。私は、貴様が晒した醜態にどう責任をとってくれると問うたのだが?」

「へ?」


 冷気すら帯びた冷たい視線。予想もしていなかった言葉にカルナスは理解できず、間の抜けた返事をするしかできなかった。

 まるで出来の悪い子供でも見るかのように、レイラは嘆息を漏らし肩を竦めた。


「貴族とは、常に優雅であるべきだ。そうだろう? カルナス・ファルナー伯爵。それを情けなくも平民なんかに嘲笑され、あまつさえ我を忘れて口汚く喚き散らして……まるで犬畜生以下ではないか」

「あ、あぁ……」

「自らを貴族と呼称する以上、貴族に相応しいき立ち居振る舞いをしろ。また醜態を晒すようであれば、次は貴族と名乗れなくなるかもな」


 そう言って、レイラは上等そうな革袋を魔女っ娘たちの方に投げた。

 地面に当たった際にカチャっと音が鳴り、袋からは金貨が出てきた。それも一枚や二枚ではない。


「そのローブでは使い物にならないだろう、新しい物を買え。金はそれで足りるだろうし、余ったら自由に使え。これで、この稚拙な騒動は終わりだ」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよあんた! いきなり横から入ってきて、金を出してそれで終わらせるつもりなわけ!?」

「そうだが? 私が折角この騒動を穏便に済ませてやろうとしたんだ。それをわざわざ蒸し返すのか? 図に乗るなよ平民」


 再び、冷気を帯びた鋭い視線に、次は魔力も上乗せさせて威圧する。物理的な圧力を持った視線に、流石の勝ち気な魔女っ娘もたじろぐ。

 と、そこで、レイラの魔力で漸く過去の回想から戻ってきたレイルは、二人の間に入ってレイラの魔力を受け止める。


「……平民、貴様も私に歯向かうのか?」

「この子たちは別に金が欲しい訳でも制服を弁償してほしい訳でもない。そこのカルパスだのファスナーなんたらに誠意を見せてほしいだけなのさ」

「僕はカルナス・ファルナー伯爵だ!」

「やかましいぞファルナー伯爵。誠意? 誠意ならば穏便に事を済ませて金を出して十分に見せたではないか」

「そんな上っ面でご大層なモンはいらねぇよ。ただ一言、たった一言でいいから謝ってほしいだけさ。それならあんたらも金貨なんて払う必要は無いだろ?」

「やはり平民というのは無知だな。お前たちに一つ教えてやろう。我々貴族は、決してお前たちに謝罪をする事はないし、頭を下げる事は絶対にない。何故ならば我々は貴族であり、お前たちは平民だからだ。金貨で済むのなら、いくらでも払ってやるさ。それでも気に入らないというのであれば、力づくで私を跪かせてみせるんだな」

「…………」


 4年の歳月は人をここまで変えてしまうものなのか。もう立派なクレイナル家の人間になってしまった妹を見て、優しかったあの時の妹の記憶が塗り潰され、レイルは一瞬だけ沈痛な面持ちを浮かべた。妹の変化は、自分が一緒にいるという約束を破ってしまったからなのかという、そんな罪悪感を抱えていた。

 だがそれも一瞬。レイルはすぐに、レイラの"兄"としてではなく、"レイル・ヴリトラ"としてレイラと対峙する。


「いや、やめておく。ここでお前を負かしちまったら、折角の俺の学院生活が台無しだ」

「……平民でありながらその不遜なる物言い、気に入らぬな。決めたぞ平民、貴様はこの私が屈服させてやろう。特別だ、名乗る事を許す」

「レイル・ヴリトラだ」

「ッ!? その名は……」


 レイルが名乗った瞬間、レイラもまた驚愕して目を見開いた。幼き日に別れた兄と同じ名前。レイラの胸中にはどのような感情が渦巻いているかは窺い知れぬが、動揺するだけの気持ちがあったのだろう。


「……にぃ、さま──くっ! 嫌な名前を思い出させる。貴様の名は不快だヴリトラ。必ずや貴様を地面につけ情けなく許しを請わせてやろう」


 一瞬だけ見せて優しげな感情から、深い憎悪の感情が押し寄せて、レイラは踵を返してその場から去り、カルナスもそそくさとその場から退散した。

 もう騒動が終わったのだと確認して、野次馬たちも次々に散っていく。


「ふぅ、人の事は言えんが、ああも人って変わってしまうもんかね。っと、大丈夫かお前たち?」

「大丈夫か、じゃないわよ! いきなり横から入ってきて本物の剣なんて掴んじゃて、大怪我でもしたらどうするのよ!?」

「まあまあ落ち着けよ、こうして怪我もしなかったんだしさ。あいつの剣が鈍で助かった」

「まったくもう……。とりあえず、助けてくれた事にはお礼を言うわ。助けてくれてありがと。私はメルネ・スタッシュ。この子は私の友達のクリーナ・ベルネイトよ」

「あ、あの、クリーナ・ベルネイトです。助けけてくれて、ありがとうございます」


 二人は被っていたとんがり帽子を脱いで、レイルにお礼を言った。

 メルネの髪は夕焼け空に映ったかのような赤毛をしており、意思が強うそうで自信に溢れている綺麗な茜色の瞳をしている。

 対してクリーナはというと、その挙動から気弱そうな雰囲気を漂わせており、無理な頼み事でもつい引き受けてしまいそうな危うさがある。クリーム色の頭髪にまんまるな若草色の瞳。そして目が悪いのか眼鏡をかけており、その気弱そうな雰囲気からなんだか小動物のようで保護欲を掻き立てられそうな容姿である。

 二人は美少女と呼ぶに差し支えない容姿をしており、何より注目すべきは二人の間にある無情な胸囲の差。なんの障害物もないまな板なメルネに対し、クリーナはローブの上からでも分かる豊満さ。きっと大人になればさぞ立派な果実を実らせてくれるに違いない。

 体型から性格に至るまで、正反対の二人であった。


「宜しく二人とも。俺はレイル・ヴリトラだ。これからも授業で一緒になると思うけど──って、やっべ! もうあまり時間がねぇや。時間があればまたゆっくり話そうな!」


 巨大な時計塔が指し示す時刻を見て、レイルは慌てた。所定の時間までもうあまり時間が無いのだ。

 入学式から遅れてしまうなど、まず間違いなくこれからの学院生活に支障をきたしてしまう。

 レイルは急いで二人に別れを告げて、そのまま一目散に会場へと向かうのであった。

次回も筆が進めば、明日にが投稿できます。

そしていつになったら主人公は戦えるのだろうか?


誤字とかありましたらご報告お願いします。

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