第17話 「高校生ですが、何か?」
ガーディアンの飛行速度は時速1000km以上。2時間で中国に入った。このあたりの上海基地までは人間の勢力下と今はなっている。
俺たちの体とのリンクはこれからここを中継点として使われ、撃墜された時はその中継基地に戻ってくると言う。
簡単に言うと、セーブポイント、リターンポイントがここだと言うことだ。
更に日本から離れた基地を押さえ、協力してもらうことにより、そのリターンポイントをアフリカに近づけていくことが肝要。これが陣取り合戦の仕組みだ。
機体の予備機もその中継基地に集められ、すぐに戦線へ復帰できるように手はずが整えられるようになっている。
「きれー。中国ってまだかなり自然が残っているんだねー」
ハルミは深い森や大きな川に感動しているようだ。
俺達は中国でも奥地にある成都と言う都市を目指していた。ここで他の部隊と合流をする。
日本に存在するガーディアンは5つの大隊に分けられると言うことで、俺達はその最前線の部隊の一つに数えられる。血の気の多い高校生とあって、誰も日本防衛部隊に志願しようと思った奴はいなかった。
和気藹々と言ったムードで進んでいた俺たちだったが、突然コクピットのアラームがなり始めた。俺が半透明ディスプレイを見ると、正面に赤い点が多数光っている。
「蟲だ!」
俺がそう叫んでもモニター越しのケンタロウ達は首を捻っている。
「レーダーに反応ないけどな……? ヨシトのが故障していないか?」
俺はその時、シズカと二人っきりで蟲の城に挑んだときの事を思い出した。
「これは……レーダーに映らない蟲だ! ガーディアンのレーダーじゃダメだ! ガーディランスの性能を信じろ! 武器を装填! 近くに蟲の城があるぞ!」
「例の奴かよ! それに……いきなり城って……。もうちょっと俺たちに段階を踏ませてくれよ!」
俺達は全員武器を構え、スピードを落として進む。すぐに目の前に半透明の羽を持つ巨大な蛾のような蟲達が現れた。
「撃て!」
10体の機体からレーザーが放たれた。全てが正面にいた蟲を貫通、光と共に散り散りになった。
「うっそ……爽快!」
「今まで苦労してきたのはなんだったんだよ……」
「これならいけますよ!」
俺も笑みがこぼれていた。今まで一人でライフルをぶっ放していたが……、10人になると単純に火力が10倍。
一人なら攻撃をかわしつつ、何度かライフルを放って駆逐していたような数の蟲が……一瞬で消えた。
「いける! これならいけるぞっ! 10機でこれなら、100機、千機ならどうなるってんだよ!」
「ヨシト君! 城が……城が見えてきます!」
何度か目にした光景だった。空の向こうが黒く染まり、数十万の蟲の群れが見える。その中心にはイモムシ野郎が入っている巨大な球が浮かんでいる。
「見て! もう戦っている部隊がいるっ!」
ハルミの言うとおり、黒い点と白い点が蟲の城の手前で飛び交っている。白い点からは赤いレーザーは放たれているが、黒の点、蟲の数はすさまじく、苦戦を強いられているように見える。
「どこの部隊だ! 援軍を……援軍を呼んでくれ!」
音声のみの通信が入った。この声には聞き覚えがある……。基地を出てすぐに出会った14部隊の隊長の声だ。
「アツシって人の部隊だ!」
「マジかよ……。100体以上のガーディアンでも苦戦するのか……」
俺はすぐにパネルを操作しておっさんに連絡を取る。
ガーディランスで時空震を使用する際、どういうわけかおっさんに連絡を取らないと使えないらしいので、連絡を取る術がマニュアルに記載されていた。
「どうした! 今立て込んでいるんだよ!」
こちらから初めて連絡したからか、おっさんは何やら忙しそうな声を出す。戦闘音のようなものも少し聞こえてくる。
「おっさんも戦っているのか? まあ、とりあえずすぐに時空震使いたいんだけどいいか?」
「おっ! それは都合がいい。すぐに共振させる。こちらから連絡するときもあるからその時はお前も忙しくても共振させるんだぞ!」
「共振? 何を言っているか……?」
「マニュアル読んでおけ! じゃあな!」
通信は途絶えた。しかし、ガーディランスの背中の槍がチンチンという小さな音を発しだした。
「いける……のか?」
俺は背中から槍を抜いた。それを両腕で持って構える。それを見た仲間は俺の邪魔をしないように少し距離をとった。
「大丈夫なのか? 味方を巻き込むんじゃないのか?」
「大丈夫だケンタロウ。どういうわけか、これは蟲にしか破壊的効果は現れないんだ」
「ヨシトのぉ、ちょっとかっこいいとこみてみたいっ!」
ハルミはモニターの向こうで踊っている。最近妙に機嫌がいいようだ……?
「一気にいくぜ!」
俺のガーディランスは蟲の城に向かって飛び立つと、一気にトップスピードになる。
右手を引き、左手は添えるように槍を持って蟲の城めがけて突っ込む。
「消えろっ! 時空震!」
俺は右腕に持った槍を突き出すと、以前のように時が止まってしまったかのように何も音が聞こえなくなった。全てが無音でスローモーションのようにゆっくりと動いている。蟲の羽の動きも目で追えるほどだ。
次の瞬間、蟲達が崩れ始めた。細かな粒となり、風に溶け込むかのように流され消えた。
以前と違うのは、俺を中心に360度全方位に発生していたこの蟲を破壊する振動が、槍を向けている方向により強く、局所的に発生しているということだ。
次々と俺に近い蟲から消えていくと、それは蟲の城にも達した。あっという間に城を覆っていた黒い砂が流れ落ちると、そこに巨大なイモムシに似た蟲が現れる。全長数km、重さにいたっては想像がつかない大きさだ。
「撃てぇ! 全員撃て!」
奴は時空震でも崩れるような蟲じゃないことはこの間の戦いでわかっている。
俺は両手に反粒子ガンを持ち、蟲の城に向かってレーザーを乱射する。それと同時に体の各部から反物質ミサイルを放った。時空震で外殻がもろくなったのは前回と同じで、俺のレーザーとミサイルは奴に突き刺さる。
すぐにケンタロウ達の援護射撃が俺の後ろからイモムシめがけて飛んでいく。
第14番基地の部隊も急に蟲がいなくなったことに驚いて動きを停止していたが、俺達の攻撃をみて同じように山ほどの大きさがあるイモムシめがけて武器を放った。
外殻の無くなった蟲はもろく、目に見えてダメージを受けていく。イモムシを吊り下げていた蟲も時空震によって崩れ去ると、蟲の城は轟音を響かせて地面に落ちた。
地上に落ち、動かなくなったところを俺達の反物質ミサイルが襲う。ミサイルとの対消滅で体のあちこちを消滅させ、そしてその後の爆発によりイモムシは燃え上がった。ついには生命反応が消えた。
それを見下ろす俺に通信が入る。相手は14番基地ガーディアン隊リーダーのアツシさんだ。
「助けて……もらって感謝する。君の……その機体は……一体何だ? 訓練機などと言ってすまなかった……。新型機なのか? それにしてもあまりにも広範囲に広がる強力な武器を搭載しているんだな……。その……槍? それに運動性能も段違いのようだし…」
「高校生ですけどよろしくお願いします」
俺のその言葉に、モニターに映っている仲間達は口を必死に押さえて笑いを堪えている。
『最前線部隊の中に無敵の小隊がいる。規模たったの500人の東京東部第22基地高校生部隊』
俺達の名前はすぐに知れ渡ることになった。