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幻影学園  作者: 音哉
16/22

第16話 「アフリカへ」



「作戦概要を説明します」


 9月14日。司令室に集められたパイロットは10人。

9月になって一年生の男子がもう一人加わっていた。


「最終目標はアフリカ大陸中央に落ちた隕石。どういうことか、蟲が湧き出してくるといわれるそれを破壊します。エネルギーの重水素は地球各地にある基地から提供を受けます。ライフルに使われる武器エネルギー、反物質の補充もそう。反物質ミサイルは日本しか作る技術が無いので、輸送艦で運びます。


各基地の援助や輸送艦の補給を受けるためには確実に蟲を排除して人間のテリトリーを増やしていく必要があります。つまり、陣取り合戦。参加機体数は日本だけでガーディアンが約8000機。中国や韓国の物と合わせると一万を超える。それ以外に、外国の各地で独自に開発されているだろう対蟲兵器もどんどん戦力に加えていくわ。


だけれども、油断はしないで。蟲の城は世界各地にまだ10はあると推定されている。その一つに蟲が数十万。城以外にも知っての通り群れを作っている。コンピューターの予想では世界中に散らばる蟲は億を超えると考えられ、そして、まだまだ隕石から湧き出してくる…」


「つまり……一人当たり蟲を一万匹殺せばいいって事だよな!」


 ケンタロウがおどけた様子でそう言うと、みんなは苦笑する。その様子に言葉を切り、黙って俺たちを見ていたシズカだったが、ゆっくりと口を開く。


「その通りよ。頑張ってね」


 全員肩をすくめた。


「あなた達コールドスリープしている本体とマトリックス間のリンクは本来ならアフリカまで到底届かない。そのため、各基地を経由して接続を維持することになるから、そう言うわけでも蟲の駆除は丁寧にね。途中の基地を破壊されちゃうと、文字通り命綱を切られちゃうわよ。以上、説明は終了。各自、ガーディアンに積み込みをされる武器を格納庫にてチェックをよろしく。出発は明日、15日の朝7時。寝癖はOK、寝坊は厳禁。わかった?」


「ぷっ…」


 これはカズ先輩のつぼにはまったようだ。俺達は爆笑するカズ先輩と共にエレベーターに乗り、格納庫へ向かった。



「……あれ? ヨシト……。みんな?」


 エレベーターを降りたハルミはいつの間にか一人ぼっちになっていた。あたりは白一色。少しすると、その通路の向こうからシズカが姿を現した。


「ごめんなさい。ここは医療サーバー。あなただけ飛ばしちゃった……。少し話しがしたかったから」


「え……。何?」


 シズカはハルミの目を見ながらゆっくりと喋りだした。



 俺達は無人輸送車が慌しく行きかう格納庫に着いた。壁や天井に取り付けられているクレーンやロボットアームも猫の手が借りたいんじゃないかと言うくらい忙しそうに動いている。


俺達は二階部分に橋のように渡されている通路から各自、自分の機体を見上げる。俺のガーディランスもいったん武装がはずされ、重厚な鎧を装着している。必要以上に厚いと思われる装甲内部には反物質ミサイルがぎっしりと詰め込まれているのだろう。


その機体の背中に今、中世の騎士が持つような鋼鉄の槍が背負わされる。そして腰の両脇に、少しサブマシンガンに近い形の反粒子ガンを取り付けられている。


「間違いなく地球製なのに、ガーディアンとはまったく違う新設計の機体。細かい部品にいたるまで複製は困難。正体不明の広範囲にわたる時空震と言う超破壊武器を持つ……ロボット」


「脳波を100%忠実に再現、イメージどおりに動き、反応速度は3倍。パワーは5倍。現時点での科学力を遥かに上回る……ロボット」


 ケンタロウとアキラはそんなことを言いながら俺のそばに来て、ガーディランスを見上げた。


「いくらライフルとミサイルが完成したとは言え……。一人一万匹は厳しいぜ……。頼りになるのはヨシトのこの機体。あの訳のわからない蟲をあっという間に砂のように崩してしまう攻撃が無いとな」


「基本的に僕達はヨシト君の護衛だと考えています。近づく蟲を排除、時空震の後に残った蟲の後片付け……ってところでしょうか」


「ヨシト見ろよ。管理者もそんなことを考えて……俺達の機体にあれを取り付けたんだぜ……きっと」


 俺がケンタロウのガーディアンを見ると、左肩に少し短めで口径の大きい箱型ライフルのような物が取り付けてある。アキラの機体にも、他のガーディアンにも同じものが装備されているようだ。


「反粒子ランチャーです。ライフルよりは射程が短いですけど、散弾銃のように近距離に反粒子レーザーをばら撒きます。こんなものが無くても……ケンタロウ君と違って僕ならきちんとライフルで蟲を打ち落とせますけどね」


「なんだとぉ! ちょっと……射撃の腕がいいからって……。アキラのくせに……」


 歯をぎりぎりと鳴らしているケンタロウはとてもおかしかった……。



 医療サーバー。

シズカは話し終わると視線を下げた。


そんな彼女に向かってハルミは右手を振り上げる。

シズカは目をつぶり、少しあごを上げた。


「わぁ……。シズカもこうやるとブサイクになるんだぁ」


 ハルミはいつの間にかシズカの頬を両手で引っ張り、横に広げている。


「ふゎ……。あにふふへの?(わっ……。何しているの?)」


 ハルミは手を離すと、シズカに向かって笑っている。


「怒らないの?」


 シズカは両手で頬をさすりながらハルミの目を見る。


「怒らないよ! だって……。私もきっと……同じ事したもん! それに……好きな人が他の女の子と仲良くしているのを見るのって……つらいもん! 今回良くわかった! 私なら……毎日泣いちゃう……」


「ハルミは……そんな一年を何度も……何度も過ごしたのよ?」


「覚えてないもん! それに、今年はヨシトとシズカは付き合ってない! ちょっと元カノって聞いてジェラシーしちゃったけどねっ! だけど…ぐふふふふ」


 ハルミは両手を握って口元に当て、目を細めながらおかしな笑い声をあげる。


「ヨシトは……そうだったのか! 私にやっぱり惚れていたのか!」


「え……ええ。元々そう言う運命だし……。今も間違いないと思うけど……」


「明日から思わせぶりな態度を取って、からかってやろうかなぁ。相手の気持ちはわかっているのに、こっちの気持ちはばれてない! こんな楽しい状況って……ぐふふふふ」


「……がんばってね」


 その言葉を聞くと、ハルミは目を丸くした。


「シズカは……もう諦めちゃうの? ヨシトはシズカと良く二人っきりでいるし……シズカの話をしょっちゅうするし……。シズカの事を結構好きだと思うんだけどなぁ……」


 シズカは明るい顔になり、目を輝かせたが、すぐにため息と共にうつむく。


「ヨシトなら必ず命が尽きる前に蟲を駆逐すると思う。そうすれば……高校二年生のヨシトとハルミはコールドスリープから目覚めて……また17歳の人生を始めるわ。その時……私は……35歳。年齢が倍も違う女なんて……」


「そんなこと無いよ。18の差くらい…」


「彼が42歳の時、私は60歳よ?」


「か……還暦っすか……。赤いちゃんちゃんこだ……」


「元々は同じ歳だったのに……。蟲め……。蟲のせいだ!」


 シズカは「うーうー」と唸りながら両手のこぶしを振って怒り出した。それを見てハルミも同じように両手を振って笑う。


「でもさ、可能性ないわけじゃないよ! 勝負の行方は……ヨシトから告白をもらったときにつくのだ! 譲るとかの言い訳なんか聞かないよ!」


「ヨシトは未来から若返りの装置を送ってくれればよかったのに……」


「えっ? ヨシトが……未来からって……なぁに?」


 シズカはそれを聞き、少し考えた後、首を小さく横に振った。


「う…ううん。こっちの話。それじゃぁ…ハルミを格納庫に転送するわね」


「はぁーい。明日からヨシトと一緒に旅にでる私のほうがちょっと有利かなぁ。ぐふふ」


「うう……。それじゃあ……私は眠っている本物のヨシトと二人っきりに……」


「いやぁ! それずるい! ダメだよ!」


「わかってる。じゃあね、また明日」



 ハルミは次の瞬間、格納庫に立っていた。


「なっ……なんだよハルミ。急に出てくるなよ……。ビックリするだろ」


 俺は目の前に突然現れたハルミに目を白黒させた。


「お前どこいってたんだ? ケンタロウ達は整備を終わらしてもう休んでいるぞ」


 なぜかハルミは俺に向かって怪しい笑みを浮かべている。


「ぐふふ……。そんなに私がどこへ行っていたかが気になるかね? ヨシトさん」


「何……気持ち悪い笑い方しているんだよ……。それに、そんなに気にならないし……」


「わっはっは! 照れるな照れるな!」


 ハルミは俺の肩を強く数回叩くと、スキップをするように自分のガーディアンへと向かった。


「ケンタロウの病気が伝染したのか?」


 俺は一度首を捻ると、ガーディランスのマニュアルに視線を戻した。




 翌日、俺達は出発をした。

管理者20人に見送られるだけで、校内の誰一人として当然のように気がつかない。


 俺達は基地の上にいったん留まり、地中深くにあるサーバーに向けて全員で手を振った。そして西に向けて編隊を組んで飛び立つ。


 0番機、白と青の機体に乗る俺のガーディランスを頂点に、逆Vの字で並んで飛行をする。

1番機、グリーンのライン、二年生ケンタロウ。

2番機、イエローのライン、二年生アキラ。

3番機、ピンクのライン、二年生ハルミ。

4番機、ブラックのライン、三年生カズ。

5番機、オレンジのライン、三年生ヨウコ。

6番機、レッドのライン、一年生アカネ。

7番機、ベージュのライン、三年シンヤ。

8番期、グレーのライン、一年マユミ機。

9番機、ゴールドのライン、一年タカシ機。


総勢10機。最も小規模な俺たちの基地だが、反物質兵器を他の基地に伝えたという話は広まっていて、なにやら期待をされていると言うことだ。


「今までの借りを返してやるぜぇ! 特に姿を見たら逃げるしかなかったビートル型の蟲にはきつーい一発をお見舞いしてやる!」


 カズ先輩は俺たちに、ライフルを振りながら意気込みをアピールしている。


「左見ろよ! 他の基地のガーディアンだ!」


 ケンタロウの声で見てみると、俺たちの10倍近い数の編隊が見える。すべてのガーディアンがライフルを持ち、最も厚い装甲と沢山の弾薬を搭載できる重装攻撃武装で飛んでいる。


「何か……見られてません? 絶対見てますよ! ヨシト君のガーディランスが注目集めまくりですよ!」


 アキラの言うとおり、確かに俺を見ている。他の基地のガーディアンは時には指を指すようにして俺の存在を仲間に教えている。


 ガーディランスは白を基調としながらも、50%近い部分に青色が使われており、ガーディアンと比べたら派手な機体だ。何よりも、機体の大きさと同じくらいの巨大な槍を背負っている。


目立ちたがり屋のバカが乗っているんだと思われている事だろう……。そんなことを考えていた俺に通信が入った。


「やあ。俺は14番基地所属、アツシって言うんだ。君が隊長?」


「一応。22番基地のヨシトです」


「20番台基地かぁ、通りで少ないと思った……。んっ……? 22番基地って……この反粒子ライフルの技術を流してくれたところだよね? そうか……感謝しているよ。蟲に対してこのような作戦を展開できるのも君達の基地のおかげってことだ。ところで君のその機体……どうしたの? 訓練機? ガーディアンが足りないならうちの基地からあまっている機体を回してあげるけども……」


「……いえ。何とかこれでやってみせます」


「気をつけなよ。そんな槍で突っついても蟲の体は傷一つつかないからね! 武器はいいのを回してくれたけど……、後は俺たち大人に任せて後ろのほうに下がっておくんだよ!  交信終了」


 予想通りの展開だった。これから他の部隊に合うたびに同じようなことを言われ続けそうだ……。


「かんっ……ぜんに、舐められてるな!」


 静まり返っていた俺たちの部隊で、まずケンタロウが口を開いた。


「バカにしていますよね! ヨシト君、僕達の二倍以上出る最高速度で飛んで見せてやってくださいよ!」


「そうよぉ! ちょっとあのアツシって人、槍で突っついてきてよ!」


 騒ぐ仲間に俺は冷静な口調で言う。


「戦いが始まればすぐにわかる」


 しかし、俺もやはりまだ高校生。早くこのガーディランスの力を見せ付けて唖然とさせてやりたいという気持ちが湧き上がってきていた。



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