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幻影学園  作者: 音哉
14/22

第14話 「新たな力」


 俺達はいつものダクトを抜け、基地の真上から出ると北へ向かって飛び立つ。念のため用心していたが、蟲の姿は皆無だった。



 15分後、見たことがある景色が広がった。森は俺の核爆発で燃えてしまったようだが、岩山の形に見覚えがある。


「おお! いいところに来た! ヨシト、ハルミ、手伝ってくれ!」


 カズ先輩の声が聞こえてきた。レーダーを確認すると、少し先、黒い焼けた岩がある付近にいるようだ。俺とハルミはモニター越しに視線を合わせると、そこへ向かった。


 岩は大きかった。高さはガーディアンの三倍、30mはあるだろう。幅は更に大きく、一番長いところで50mくらいだろうか、楕円形をしている。その周りにカズ先輩を含めて4体のガーディアンが集まっている。


「どうしたんですか? シズカは見つかったんですか?」


 俺とハルミはすぐそばに着地をした。


「ここだ。ここに金属反応がある。だが……こいつの下敷きになっているんだ……。今までいろんな角度から押してみたが……動く気配がない」


 カズ先輩はため息をついている。その思考に反応してか、ガーディアンまで腰に手を当ててうなだれるように下を向いている。


「金属反応か……。シズカがいた場所は良く覚えていたつもりなんですけど……。ここにあった森が……焼けちゃってて、ここだったかどうか……」


「うにゃぁ! ヨシト! これ……蟲だよ! ビートル型の蟲! ……死んじゃってるみたいだけど……」


「えぇ?」


 岩の周りを歩いていたハルミは突然声をあげた。俺もその場所へ行ってみると、確かに頭がついている。大きな楕円形の岩は、カナブンのような形をした巨大な蟲だった。


「ビートル型って……。これはいつもの奴の1.5倍はあるじゃないか……。でかいな……」


 俺達はその甲虫の死骸の横に集まり、6機のガーディアンで押してみた。しかし、20tもあるガーディアンを軽々と持ち上げるほどの推進力を使ってもピクリとも動かない。


もともとの重さもあるが、地面に深く食い込んでいるようだ。


「これはケンタロウとアキラが来て8機で押したとしても……動くかどうか……。9番基地に助け求めてみます?」


「それがさっき通信いれてみたんだけどよ、ほとんどガーディアンが残ってないらしく、わずかに動く奴も施設内を補修作業中だ。正直数千人死んだって言うあそこに無理言えないぜ……」


「そうですか……。まあこの下に埋まっているのがシズカだったとして、食べ物や飲み物は相当コクピットに詰め込んでいたから大丈夫だと思うんですけどね……」


「だっ……大丈夫じゃないわよ!」


「シズカ!」


 ガーディアンに入ってきた通信、その声はシズカだった。俺達は周りを見回した。しかし、近くや空中に飛んでいるガーディアンは見えない。


「どこだシズカ!」


「あっ……聞こえてる? 良かった……。ようやく通信が回復したわ! そちらの声はずっと聞こえていたんだけど……。それより! 早く……早く! この上に乗っているものをどかして! 大至急よ! 非常事態なの! 急いで!」


「やはりこの下かっ! ……しかし……。どうやって……」


 カズ先輩がそう言いながら蟲をまた押そうとしているので俺たちも手伝う。やはり……動かない。


「くそ……。反粒子ライフルがあれば……こんな蟲穴だらけにしてかき出してやれるのに……」


 俺は蟲の背をガーディアンのこぶしで強く殴った。


「ヨシトのガーディアン……自爆しちゃったもんね……。って……どうしたのヨシト? あれ……。あれれ……。カズ先輩! ヨシトのガーディアンが急に倒れてきたと思ったら……中に……中にヨシトが乗ってない!」


「な……なにぃ?」




 一瞬眩暈がしたような気がし、瞬きをしている間に辺りは真っ暗になっていた。通信もすべてOFFラインになっているようで、誰の声も聞こえてこない。


「なんだ……? ガーディアンが……故障か? 予備機体だったからかな……?」


 いつも目の前にあるはずの半透明のパネルも無い。この操作パネルが無いと言う事は、ホログラム装置も電源が入ってないということだが……、俺の体はある。最低限の動力は働いているのか……?


 俺は立ち上がってコクピット内を手探りで触ってみる。中は球体。いつもの通りだ。しかし、もう一度椅子に座りなおしてみると何か違う。この椅子は……さっきまで座っていた物と違うのだ。別に形がどうとかではない。椅子の材質なのか角度なのか……。妙に座りやすく感じる。


[ウゥゥン]


 何かが動き出すような機械的な音がした。すぐにコクピット内は明るくなり、すべてのモニターに電源が入ったようだ。しかし、映し出される映像は暗いままだ。


《認証完了だ。ようこそガーディランサーヘ》


 真っ黒いモニターに見慣れた俺の顔が映ってそう言った。……えっ?


「驚いたか?」


「おっさん……。なに俺の顔使ってんだよ……。どれだけ恥ずかしがり屋さんなんだ……」


「ふふ……。訳あって俺の顔を見せることが出来ないんだ。これで当分我慢してくれ。まあ、俺の本当の顔のほうが渋いけどな」


「言ってろよ……。ところでなんだよ、ガーディランサーって……。噛んだのか?」


「噛んでないわっ! この機体はガーディアンじゃなくて、ガーディランサーと呼ばれているんだよ!」


「えっ……。ひょっとして……新しい機体くれるって事か? そりゃあ……助かるけど……。でも今俺はシズカを助けるのに忙しくて……。後にしてくれないか?」


「わかってる。巨大なビートル型の蟲だろ? これは俺が置いたからな」


「おっさんがおいたのかよ! なっ……なんでだよ!」


「お前の核爆発からシズカを守るためだ。この甲虫のでかさは通常の1.5倍だ。それに伴い、外殻も普通の2倍。核爆発にも軽く耐えられる」


「それでかよ……。それは……助かった! だから……もうどかしてくれ!」


「どかすのはお前の役目だ。その機体で飛び上がってみろ。なんせお前は甲虫の中にいるからな。どうだ、驚いたか?」


「はぁ? 今……甲虫の中? じゃあ……シズカが苦しんでいるのは俺のせいでもあるって事か?」


「だからすぐ飛び上がれって!」


「おっ……俺が悪いみたいに言うなよ! ちきしょう!」


 俺は飛び上がるのをイメージする。すると、機体背面から凄まじい勢いで何かが噴射するのを感じた。そして、俺の正面に半透明のパネルが現れる。それは、いつもの大きさの二倍の広さがある。


「通信ONライン」


 すると、前面モニターに先ほどのメンバーにケンタロウとアキラを加えた全員の顔が表示された。みんな突然現れた俺の顔にあっと驚いている。


「ヨシト! もうっ! どこ行ってたのよ!」


 ハルミはいつものように頬を膨らまして怒っている。その後に、消え去りそうな声でシズカの声が聞こえる。


「ヨシト……。私……もう……ダメ……」


「大丈夫かシズカ! みんな離れていろ! ガーディランサー、フルバースト!」


 機体が揺れ、蟲の底が抜けた気がした。すると、徐々に……あがっていくのを感じる。


「動く! みんなが押してびくともしなかったこの甲虫ごと……浮き上がる! ……うわっ!」


 地面から甲虫が抜けたのか、突然抵抗が弱まり、俺はロケットのように上空へ向かって加速をしたようだった。


「な……なんだよ! 外が見えないから……。とりあえずこの蟲に穴を……。武器は?」


 俺が正面のパネルを操作すると、武装一覧が表示された。操作方法はガーディアンとほとんど変わらないようだ。


「反粒子ビームガン2丁だけ? いや……なんだこの…『時空ランス』って……? さっき起こした時空震と何か関係が……。まあそれは後だ! ビームガンでなんとか……。ガン? ガンってなんだよ。ライフルより弱くなってないか? 頼むぜおっさん!」


 俺は腰に装備されているガン二丁を両手に取り、上に向かって撃った。巨大なレーザーが二本、蟲の上部を貫通して二つの大穴を開けた。


「嘘……。威力はライフルと変わらないじゃないか……。それが両手に持てたら……。まったく! 最初からこのガーディランサーをよこせってんだよ! おっさん!」


 穴から外へ出ると、俺は雲の上まで上昇していたことに気がついた。みんなの上に蟲が落ちないように、俺はガーディランスでその巨体を蹴り飛ばす。すると、甲虫は軽く上昇するくらいの勢いで飛び出し、雲の中に消えた。


「ブースターのパワーだけじゃない……。機体全体がガーディアンの数倍の力が出るぞ……。おまけに時空ランスとやらで……あの時空震をまた起こせるとなると……こいつは……人類にとって……。あっ! シズカ!」


 俺は銃をしまい、すぐさま下降をする。地上が見えると、先ほど甲虫が埋まっていたところにガーディアンが膝を付き、シズカの機体を掘り起こそうとしているようだ。機体は確かに埋まっているが、ひどく損傷しているようではない。しかし、俺のガーディランスにもシズカの声が聞こえてくる。


「は……早く……。もう! 早くしてって! 急いで!」


 先ほど悲痛な声で「もう、ダメ」と言っていたシズカだったが……? 今度は怒りを帯びた声だ。一体……どのような怪我なのだろうか?


「動け……動けぇ!」


 まだ半分埋まっているというのに、シズカの機体は起き上がろうとしている。かなり急いでいるようだが……? それに、機体の操縦は出来るようだ。怪我……していないのか?


 ついには土を弾き飛ばしながらシズカのガーディアンは起き上がった。すると、すぐさま浮き上がり、辺りを見回すと、東の空へ向かって急発進した。


「シズカ……。基地は南だぞ? センサーが壊れているのか?」


 俺も空中で静止したままだったので、後を追おうと動きだすと、厳しいシズカの声が聞こえた。


「ついて来るな! ヨシトでも……ついてきたら許さないわよ!」


「は……はい?」


 俺はシズカを見送ると、地面に立ったまま首を捻りかねないガーディアン達のそばに着地をした。



 センサーで確認すると、ここから数km東に行ったところでシズカは静止したようだ。俺達がどうしようかと、話をしているところ、シズカの機体が動き出した。こちらに一直線に向かってくる。そして、通信が入ってきた。


「はぁー……。さあ……帰りましょう」


 妙に力が抜けたと言うか、リラックスした声だった。シズカは俺たちの真上に来ると、方向を南に変えた。


俺たちも飛び上がり、その後に続く。何も言わないシズカに、俺はみんなを代表して聞いてみた。


「シズカ……一体何だったんだ?」


「ヨシト……フィードバックダメージは……?」


「ああ、残念ながら……やはりあった。……ところで今のは一体なんだったんだ?」


「よ……ヨシト! その機体……何? 色はヨシトの好きな青色が入っているけど……まったく違うじゃない! それは……あの人からもらったの?」


「え……。ガーディランサーと言うらしい。だから、さっきのは……何だった…」


「ヨシト! しつこい!」


 ぴしゃりと言われた俺だったが、小さな声で聞いてみた。


「怪我は……無いのか?」


「けっ……怪我は……まったく無いの……。ありがとう……」


「そ……そうか……」


 そこで通信が切り替わり、シズカとの一対一、プライベート通信になった。


「ちょっと……死ぬよりも……大事故が起きそうになっちゃって……。出発前に……水飲み過ぎたから……」


「……?」


「まさか……何時間もコクピットから出られない状況が来るなんて……。言っておきますけど、ギリギリセーフだったんですからねっ!」


「………。あっ! ひょっとして……トイ…」


「言わないで! 絶対言わないでよ! 女性が……外で……なんて……。でも基地まではとても……」


 映像は出してくれないが、声からするとシズカはとても恥ずかしがっているようだ。顔色は真っ赤かもしれない。俺達ガーディアン正規パイロットは任務中にはトイレに行かない。だから、そう言う方面はまったく思いつかなかった。俺達仮想世界の人間と違ってシズカは実際に存在する人間。生理現象はどんなときにも襲ってくると言うことだ。


「気が付かなくて……悪かった」


「う……ううん。ヨシトだから言ったのよ」


 俺達は基地に着き、ダクトを降りて格納庫に入った。シズカの本当の姿を見られるかもと期待した俺だったが、ガーディアンをいつもの場所に置くと、すぐに仮想世界に飛ばされてしまった。




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