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幻影学園  作者: 音哉
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第13話 「戻らないシズカ」

 俺はわけもわからず、目の前にある半透明のパネルの隅にある指定された部分を両手で触れる。すると、頭の中の物が何かに引き出されていくような感覚がする。


「なっ……なんだよこれ! あ……頭が……」


「気にするな。お前を照合している途中、少しデータに揺らぎが出ているだけだ。しかしよく聞け、今の機体で時空震を使ったところで威力はたかが知れている。あの蟲の城を倒すには、その後にライフルで奴に穴を開け、中に飛び込んで自爆しろ」


 おっさんの言うとおり俺の酔ったような気分はすぐに晴れた。


「何言ってんだ。真下にはシズカがいるんだ。そんなことは出来ない! 巻き添えを食ってしまうだろ!」


「私は平気よ! 話は良くわからなかったけど、その人の言うとおりにして! ヨシト!」


 俺のコクピットにシズカの声が響いた。


「だから! 通信を切っとけって言ったろ! 感づかれるぞ!」


「その人は……ヨシトだけじゃなく、きっと私の事も考えてくれている。言うとおりにしてあげて!」


「……そうだ。俺はシズカが死んだところを二度も見る気は無い」


 おっさんの言葉は真剣そのものだ。……信用……してやる!


「どうやって撃つ?」


「武器は持ってない。だが、蟲の城のど真ん中に意識を手中させろ。ガーディアンボディ全体から攻撃を放つ」


「もう……いいのか? 撃てるのか?」


「まて……。よし、こっちは準備OKだ! いつでも撃っていいぞ!」


「こっちって……なんだよ! まあいい……。それじゃあ行くぜ……」


 俺は蟲の城を向いたままライフルを下ろした。こちらの攻撃がやんだとたん、あっという間に蟲が俺の周りに群がってくる。


「時空震!」


 その瞬間、音が消えた。まるで無声映画のように周りの映像が流れているかのようだ。蟲達は羽を動かして俺の周りにとどまっているが、襲ってくる気配がない。


「み……見て! ヨシト! 私の周りの……木が……」


 無音の中、シズカの声は聞こえてきた。俺が森を見ると、不思議な光景が目に入った。森の木に……変化が表れている。緑の葉を散らせ、裸の木になると、また葉をつけ生い茂らせる。そして……また葉の色が変わり、枝から落ちて落ち葉となった。まるで早送りの映像のようだ。


「……お……おお!」


 そして、次に俺の周りにいた蟲達がまるで砂像であったかのように崩れ落ち、粉となって消えた。それは伝染するかのように俺を中心に広がっていき、辺りの虫があっという間にいなくなっていく。


「すごいわ……。こんな武器が……すべてのガーディアンに積み込めたら……」


「残念だがシズカ、これはヨシトの機体にしか…いや、ヨシトしか使えないんだ。これが言っていた蟲への切り札になる攻撃だ」


「あなたと……ヨシトの関係に理由があるの?」


「そうだ。俺とヨシトが……一人ずつ、別の場所に存在することが重要なんだ。またそれはいつか……教える。とりあえずヨシト! あのイモムシを殺すんだ! 奴はアジア全域の蟲を支配する奴。ここでやっておけば、しばらく日本は安全だ!」


「……二人の話している内容がさっぱりわからないぜ。後で絶対教えてくれよ!」


 俺は蟲の城に向かってライフルを構える。もうエネルギーを節約する必要は無い。俺はライフルの威力を最大にまであげた。巨大なイモムシは崩れ落ちる事はないようだが、その表面は朽ちて、今にも風化する枯れ木のようだ。


[バシュッ]


 ライフルから大きな光の帯が伸びる。それはイモムシの眉間に吸い込まれると、小さな光を放った。


「いけるか?」


 俺はイモムシに向かって一直線に飛び、その眉間に何発ものライフルを打ち込む。その場所には黒い穴が開いた。


俺は次々とレーザーを打ち続けながらその穴に向かって突っ込む。イモムシを支えている上部の蟲達はすでに崩れ落ちていっている。


「シズカ! 出来たら回収してくれよ! おっさん! 本当にシズカは大丈夫なんだろうな! 頼むぞ!」


「ヨシト! どんなに完璧に回収できても……核爆発の近くでは必ずフィードバックダメージが発生するわ! あなたは……もう…長くは生きられなくなる!」


「十分だ! あと半年でけりをつけてみせる! だろ? おっさん!」


「おっさんおっさんと呼んでいるが……。俺はまだ34歳だ」


「なら……おっさんでいいんじゃないか?」


「それだと私もおばさんね……」


「ごめんなさい」


 俺のガーディアンはイモムシの内部に突っ込んだ。粘っこい物がまとわりついてくるようで機体はかなり振動するが構わずつきすすむ。そして、コンピューターが中心だと推定する位置にようやく俺はたどり着き、動きを止めた。


外側は硬そうに見えた蟲だったが……中はとても柔らかそうだぜ……。


「これで……ハルミ、お前と同じ条件だ。俺も半年後に死ぬ。……もう一度会えたら……告白でも……するかな?」


俺は非常脱出モードに切り替えてから、自爆をした。




(ヨシト……ヨシト……起きて……ヨシト……ヨシト……………)


「ハルミ! す…」


「ヨシト! 何?」


 すぐ目の前にハルミの顔があった。目を大きく開けて俺をじっと見ている。


「は……ハルミ……」


 一瞬夢かと思ったが、どうも現実っぽい。俺は恥ずかしさもあり、視線を泳がせる。ここは格納庫の医務室ではない。すべて真っ白い壁に物。ハルミ以外は白一色だ。


どうやら医療サーバーの一室のようだ。そのベッドで俺は横になっている。ハルミはそんな俺の横に座り、じっと呼びかけてくれていたようだ。……目に涙を貯めながら。


俺は上体を起こしてハルミを見た。


「起きて大丈夫?」


「……どうなった? 俺は……収容できたみたいだが……。シズカは?」


「ヨシト達の映像はずっと流れていた。基地はそのときスリープモードだったから……こちらの声は届かなかったけど……。ヨシトからの映像は自爆と共に途絶えて……シズカからの映像も……同時に……」


「同時に? そんな……バカな……」


 俺はベッドから立ち上がろうとするが、ひどい頭痛と眩暈がする。これが……ハルミにおきていた症状か……。良くこれで学校に来たな……。


「ダメよ! 寝てなくちゃ! それにシズカのところにはカズ先輩達が向かっているよ! 第9基地から連絡が来たの。被害は大きかったけど、何とか生き残った人がいたみたい。それで、辺りの蟲がいないって言うから、大垣さんは基地のスリープモードを解除して、カズ先輩達をシズカの元へ送ったの」


「そうか……それはいつの話だ?」


「えっと……2時間くらい前だけど……」


「2時間! 遅すぎる! あの場所までここからだと15分かからないはずだぞ!」


 俺はベッドから立ち上がった。しかし、まっすぐ立っているはずなのに床は斜めに見える。もちろん斜めなのは俺の体だ。


「危ない! ヨシト……ダメだって!」


 ハルミに支えられ、俺はその体にしがみつく。


「いつかの……逆だな……」


「あの時、私はヨシトの変な場所は触ってなかったけどね!」


「へっ?」


 見ると、なんと言うことでしょう。俺の右手がハルミの心臓の上あたりをぎゅっと掴んでいるじゃありませんか……。


「わっ……わわわわわわ……わざと……じゃない!」


 俺はバランスなど関係なく、とにかくすぐに右手をハルミの体から離した。


「次やったら……責任とってもらうよ!」


「わかった……。……って、責任ってなんだよ?」


「それはヨシトから言って!」


 ハルミは俺をベッドに座らせ、赤くなった顔を俺に見せないようにして背を向けて壁まで歩いていく。そして、青いパネルをなにやら操作している。すると、次の瞬間、俺はベッドと共に格納庫へ移動していた。


「どうせ……行くんでしょ? 私も行くから!」


「悪いな……。ハルミはなかなか気が利くな」


「えっ! ……今頃わかったの? ……実はすっごくお勧めだと思うんだけどなぁ……」


 ハルミは頬を両手で押さえながら体をくねらせている。その向こうにケンタロウとアキラが見えた。二人は俺たちに気がつくと、近づいて来る。


「大丈夫かよヨシト。言っておくけど、俺たちも見舞いに行ったんだぜ。だけど……」


「いいムードだったんですぐ帰ってきちゃいました!」


 ケンタロウもアキラはチラッとハルミをみて笑っている。


「んでよ、暇だから俺たちもシズカのところへ向かおうとしたんだけどよ、どういうわけか……あれなんだよ。今修理中」


「僕のなんて腕が取れてましたからね……。ひどい話です。誰がやったんだろう……」


 俺は当然犯人を知っているが、とにかく今は言わないほうが良さそうだ……。


「予備の機体を出してくれ。俺はそれに乗って行って来る」


「だろうと思ってもう出しておいた。そのせいで俺たちはたった今から修理を始めたってわけだけどな」


「なんだケンタロウ。お前も気が利くな」


 俺がケンタロウの背中を軽く叩くと、その次にハルミがやや強めに叩いた。


「ちょっと! せっかく私がポイントゲットしたのに! ケンタロウがそんなことしちゃ、ぼやけちゃうじゃない!」


「は…はぁ?」


 ハルミは頬を膨らましながら自分のガーディアンに乗り込んだ。俺もすぐにケンタロウの隣に置いてあるガーディアンに乗り込む。


「修理が終わったらすぐ行くから!」


 ケンタロウとアキラは俺とハルミを見上げながら手を振った。



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