触れてわかる確かな愛情
ぬくぬくと暖房の効いた一室に、一組の男女。
外は雪でも降りそうなくらい冷えている。厚着をしても、外へ出れば凍えるのは必至だ。
昼下がり、キョウとナタは何をするでもなく、暖まった床に座っている。
「ほらよ」
キョウはナタにミルクティーで満たされたマグカップを渡す。
「ありがとう」
ナタは受けとり、ふぅふぅと冷ましながらミルクティーを口にした。さすが、キョウ、とナタは感心した。ナタの好きな味をよく分かっている。やや甘めが好みなナタのために入れられたそれは、キョウだから作ることのできる味なのか。
「……そと」
「あ?」
「雪が、降ってる」
ナタの言葉に、キョウは一度立ち上がって窓のカーテンを開ける。
「どーりで少し寒いわけだ」
暖房の効いた部屋であっても、まだ微かな冷気は感じていた。
「部屋の温度、上げる?」
「や、そこまで寒くないからいーよ」
キョウはカーテンを閉める。
「それになあ……」
何かいたずらでも企んでいるかのような笑みでこちらを見つめている恋人に、ナタは小首をかしげた。
「うりゃっ」
どうやら、いたずらは成功したらしい。 恋人は隙を与えることもせず、ナタにぎゅうっと抱きついてきた。
「こーすりゃあったかいだろ。暖房も設定温度はそのまま。しかも二人してあったかい。んでオレが嬉しい」
ほんとだ、とナタは胸中で同意した。
キョウのしなやかな腕にすっぽりと収まるくらい、ナタは華奢で細い。要は、体型に女らしさが目立たないのだ。
わたしも嬉しい、と言葉に出したかったが、ナタにはいかんせんハードルが高過ぎた。キョウの胸に顔を埋めていたのもあるが、照れ屋で引っ込み思案なナタにとって、明るく快活なキョウのように恥ずかしがらずに感情を表に出すのは難題だった。
ナタは代わりに、もぞもぞとキョウの腕の中に進んで入り、キョウの胸に頬を押し付けた。
かすかに、しかし確かに、ナタはキョウの鼓動を聞いた。
とくん、とくん、と静かに鳴る心臓の音。心なしか、早い。
そっと視線だけを上に移すと、ナタの頭にこつんと頬を乗っけているキョウが確認できた。その頬は、心なしか、ぼんやりと紅潮している。
「……キョウ?」
「あん?」
「暑い?」
「ちっげーよ!」
天然な少女で助かったような拍子抜けしたような。キョウは充分照れくさくて恥ずかしくて仕方がなかった。でも格好つけたいから、ナタがキョウの心中に鈍くてある意味助かったと言えるだろう。
「キョウ」
「なんだ?」
「キョウの言う通り、あったかい」
ナタは貧相な腕で、精一杯、キョウを抱き締め返す。
「おうよ」
キョウはナタの切り揃えられた前髪を軽くかき分け、そこにやさしくキスをした。 ナタはくすぐったそうに片目を閉じる。
このまま、暑くなるまでずっとこうしていられるなら、寒いのも嫌いじゃないな。
ナタは、自分の頬がぽっと紅潮しついるのを感じた。
雪はまだやまない。
でも、寒さに凍えることはない。
こんな風にふれ合い抱き合って、愛情を感じられるなら、雪も寒さも捨てたもんじゃない。
どちらも心の中ではそう同じことを考えていたが、言葉となって出てくることはなかった。
のんびりと、恋人と過ごした、雪の日。
恋人のぬくもりを、確かに感じた。
あたたかい。
二人は、そうしてやさしく抱きしめ合った。
珍しく、そして久しぶりにノーマルラブを書いた気がします。甘いのは初めてかも?