虚弱令嬢は生き残りたい! ~幼馴染を呼びつけてるとか(今は)冤罪です!~
私は久しぶりの外出で疲れ切ってしまいある伯爵家の前で行き倒れた。顔色も悪く、少し休んでいくように勧められる。
その家のご令嬢が顔を出した時に、私は言った。
「冤罪を晴らしにきました」
驚く令嬢に手紙を託して、意識を失った。
これは私が決死の潜入作戦として行動したことだった。立案時点で巻き込みメイドには懐疑的に見られていたが、本気で病弱なので疑われることもなかった。
行き倒れは嘘ではない。都合よく、幼馴染の婚約者の家の前で倒れただけだ。
本当はちゃんと訪問したかったんだけど、無理だったんだ。
私のかかわった事件というのは単純ではあったが、拗れてめんどくさいことになっていたから……。
私は転生者である。
ある日、強烈な頭痛をくらい、救急車を呼んだあたりで記憶がぶっ飛んでいる。
死ぬほど痛かった頭痛がなくなったので目を開けたら知らない天井。そして、知らない人たちが泣きながら奇跡だと喜んでいた。
頭痛で記憶がぶっ飛んだ疑惑はあったが、どう見ても金髪碧眼の推定家族を見ていると違うようだ。自分の姿も儚いというものを体現しているような細さと可憐さがあった。
私、純粋日本人。平たい顔族。どう考えても同じではない。
もうこれは転生でもしたんだろうと遠い目をしてしまった。
気を取り直して、第二の人生と無理やり切り替えて知った事実。
私、死ぬほど虚弱。
どれくらいかというとちょっとお出かけ一時間で3日寝込む。庭の散歩で熱を出す。風が吹いただけで風邪を引く。
なんらかの病気ならば治しようもあるが、複数の医者にかかっても虚弱なだけであると告げられる。それならばと体力をつけようとしても体力をつける体力がない。
虚弱すぎて生きてるの奇跡では? というくらいだった。
家族一同、赤子並に保護するのは仕方ない。そう言えるくらいに。
本来はどこかで静かに療養してもらいたいが、その移動すら命取りになりそうであるため不可能。さらにほぼ専任の医者でも僻地に連れていくのは難しい。
そのため、家をほとんど出たこともなく、友人もほぼいない。まだ元気だった頃の幼馴染であるライモンドに固執するのは仕方のないことだろう。
ライモンドと婚約できればよかったのだが、相手は侯爵家の長男。虚弱な妻を娶ることはできず、ただ、幼馴染としての関係を続けていた。深い仲と噂されたこともあるが、私のあまりの虚弱さにありえないと一蹴されて終わってしまった。
虚弱な幼馴染を支える立派な紳士、というのが幼馴染の評で美談として語られている。
しかし、この男、別に婚約者がいる。
それでも私が倒れれば、婚約者そっちのけで馳せ参じる。罪悪感もあるが、婚約者よりも大事にされる私ということに愉悦も感じていたようで、乙女心、怖い。
と、記憶にない私の日記を見て思う。
他にすることないから細かい日常が刻み込まれていて、それも怖い。今日のお薬の苦さについての長い詩があったりする。
まあ、最近は往診に来てくれるイケメン医師にメロってたようだが。確かにあれはイケメン。厳しくも優しい。甘辛のバランス良。彼は平民出身で、貴族の家に養子としてもらわれていったらしい。
技術は確かでも安く雇えるというのはそう言う事情があるようだ。
近頃は医者からの諌めもあって、ライモンドにも婚約者を大事にするようにと苦言を呈するようになってきた。そのときに、私が生死の境をさまようような風邪をひいた、らしい。
今回もライモンドはやってきていたようだったが、秒で消えた、ような気がするんだけど……。家族の時間に入り込むわけにはとかなんとか言って。
そのわりに、また倒れた時に顔を見せには来た。
しかし、疲れると悪いからとすぐに帰った。妙だな。
なお、私には生まれた時からの婚約者がいる。そっちはもう儀礼的対応のみ。長生きしないだろうから、短期的協力関係のためにしたものだ。思いのほか長生きしているので、婚約解消を狙って疎遠にしているのかもしれない。
日記にも何日来ない系でしか書かれてないのでおそらく元の私もあまり興味ない。いや、日数書いてある程度にはお怒りだったのかもしれないけど。
そう言う事情を理解しながら、静養すること二か月。
ライモンドの婚約者であるフィーリア嬢より手紙が届いた。婚約者があまりにも予定を無視してあなたの元に通い詰めているので諫めて欲しいと。
上品な脅し文句が美麗に並べられており、これが最終勧告であると告げている。
……。
怖い。
私、記憶を取り戻してすぐなのでわかりません。
そう訴えたところで無理だ。頭おかしいと思われて終了。
ちょっと、誰か、私の記憶を引き戻してくれないか?
元の私よ。私が乗っ取ったっていうならスライディング土下座するから戻ってきてくれないか?
かわいそうな事故だった、そうだろう?
このままでは私が可哀そうなことになる。本当に本気で、記憶やってきて!
そう心から祈っても返答はなかった。
諦めて、ごめんなさい、私からも言います。参考までにお聞きしますけど、そんな頻度なんですか? 私に会ったのは今月2回だったんですが、という内容の手紙を送った。
翌日には手紙の返事がきた。通常の速度ではない。
慄きながら中身を確認すると予定表と断られた理由リストが並んでいた。その数、一か月に10件。多すぎる。キャンセルのキャンセルとかひどすぎ。夜会キャンセルとかもありえない。
しかし、全く、身に覚えがない。
ほんとに会ってないですと返信した。
これには即日返事が来た。
この家に入っているのは確認した。嘘を言うなとお上品な罵倒が綺麗すぎる筆致で書かれていた。とても怖い。
家には入っている。しかし、私には会っていない。それなら他の誰かに会っていると考えるのは不自然ではない。
でも、誰に?
娘は私一人……でもなかった。従姉が行儀見習いとして逗留していた。一応、うちは本家なので格上ということになる。
私と似た美少女(健康タイプ)だ。ちょっと粗雑なところがあるが、元気と愛嬌でカバーしており評判はいい。ただ、嫁としてはちょっと……とでも思われているのか縁談はさっぱりだ。
なんか、サークルの女王みたいな……。
その従姉にころっと騙されるのだろうか。
あのライモンドが?
ちょっと考えてみた。
すごくあり得た。なんたって幼馴染が風邪をひいたと言って見舞いに来る男だ。わかりやすい不幸に引っかかりそうだ。行儀見習いに来て心細いんですと言われれば、そうなのか! と同情しそう。
従姉は私にない起伏もあるし……。
……というか、ライモンドって侯爵閣下に向いてなさそうなんだな。いまさら気がつく。だから、才女と言われる婚約者を与えられた。彼女が実務を回してくれることを期待して。
とかだったり。
……。
今まできた手紙で、なんとなく苛烈な性格が見えているので可能性は高い。このままでは婚約破棄とも匂わせており、その原因として責を問われた場合、私の分が悪い。
過去の私がやらかした分は引き受けよう。しかし、今の私は普通に虚弱なだけで幼馴染とも顔もほとんど合わせてないのに!
私は決死の覚悟で、フィーリア嬢のお宅訪問を決意したのである。
そうはいっても手土産なしでは返り討ちに会うどころか面会も難しいだろう。ひとまず、ライモンドの動向を確かめねばならない。
ちょうどよく、今日も微熱がある。それを大げさに訴えれば奴は来る!
翌日、あまりにも予想通りにやってきてドン引きした。私が病気というのに心なしかうれしそうな顔をしている。
「大丈夫か? また遊び歩いていたのではないか? ルーチェを心配させるようなことはしないように」
流れるような一息で言って、立ち去った。座ることもなく立ったままである。
唖然とするほどの流れ作業。何のために来た。前回はこれほど露骨ではなかった気がした。浮かれているような足取りに不審に思うなというほうが無理である。
なお、ルーチェは我が従姉。
「あれどう思う?」
思わず部屋にいたメイドに言った。
「上機嫌ですね」
「人としてどうなのかしら……」
「様子を見てきますか?」
気遣わしげに言うメイドに私は力強く宣言した。
「私も行くわ!」
即却下された。
ふてくされて窓の外を見ているとライモンドと従姉が腕を組んで歩いているのが見えた。全く隠れる気もなく、恋人のような寄り添い方だ。
いっそ窓を開けて糾弾してやろうかと思ったが、やめた。
都合よく利用されたんだから、きっちりお返ししてやらねばならない。それに、ここ最近のことは私は悪くないという話をフィーリア嬢に訴えねば、私が詰む。なにも釈明することもできず悪いことで修道院や田舎に送られることになるにちがいない。その間に従姉はライモンドを手に入れるつもりだろう。
とそこまで考えて、おかしいなと思った。
ライモンドは愛さえあればと言い出しかねないところがある。状況がまったく見えてない。配慮されまくった生活をずっとしていたので、無意識で自分の意向は叶えられると思っている節がある。
昔の私に対しても辛いから面会は断りたいと言っても押しかけていたところがあった。
幼馴染はそういう坊ちゃんではあるが、ご家族までそうかというと違う。
寝込んでいる私に、侯爵家にはいれると思わないことね、と言いに来る侯爵夫人。うちの両親にも良い縁談を斡旋してあげますよという話もしていたらしいし。それも老人の後妻。残り寿命が釣り合ってちょうどいいのではと……。
私はそれでまた寝込んだらしいけど、しょうがないわと受け入れてもいた。それが、生きてる間くらい相手してもらってもいいじゃないと拗れちゃったわけだが。
では、従姉相手ではどうなるのか。
よほどの才覚を見せない限り、あの侯爵夫妻に認められることはない。たとえ息子が望んでも無理。なんなら廃嫡するだろう。一人息子だが、遠縁から誰かを養子にすることはたまにある。
そのぐらい血迷った行動だ。
一人息子にはちゃんと教育しておけよ、と思うが、他のところは問題ないイケメンなのが困る。育ち良過ぎて悪意触れな過ぎて育った天然モノそうだからな……。愛は尊いと言ったではないですかと訴えそう。
……いっそ、廃嫡されて平民暮らしのほうがよくないか?
それはさておき、従姉はというと大それたことを願うタイプではない。さらに病弱な従妹から寝取る趣味もなさそうだ。
もし、狙うとしたら、良い縁談。あるいは、自分が相手を選ぶような立場を得ること。
今、侯爵家が現状を知った場合、従姉と円滑に別れさせようとするだろう。良い縁談を用意して、別れてくださるかしらと。良い縁談なら、親から無理やりと涙ながらに別れるだろうし、最悪ならライモンドに言ってもいいんですよとにこやかに恫喝するかな……。
今のところライモンドとその両親の仲は良好。別れさせる工作を知られたあとは確実に仲を悪くする。なんなら大喧嘩して醜聞が社交界に響き渡る。それは避けたいだろうからある程度までは融通するだろう。
美味しい話だ。
私も元気だったらやってみたい。
まあひとまずは、不貞の相手は私ではないのよと訴えるべきだな。あとはフィーリア嬢が頑張ってくれるだろう。文通してもいいし。
あとは外出の用事を作るだけだ。手紙なんて不安定な手段に頼ると握りつぶされるばかりだ。
外出ぐらい簡単にできるだろうと思っていた。
間違いだった。
そうだった、私、超虚弱令嬢。風が吹いても風邪を引くロースペックの極みだった。さらに家族も外出なんてとんでもないと心配してくる。欲しいものがあるなら買ってくるからと宥められて真っ当に出かけるのは諦めるほかなかった。
そして、私は機会を窺い大脱出をすることにしたのだ。
……とは言っても共犯者がいなければ話は少しも進まない。お付きメイドを買収し、辻馬車を呼ばせ、付き添いまで頼むことに成功した。
今まで全く出かけないから使わなかったお小遣いが役に立った。たぶん、庶民の年収分くらいあった。場合により解雇されるかもしれないんだから、そりゃ積むけどね。
かくして瀕死になりながらも無事行き倒れたわけである。
ぶっ倒れて気絶したあとも放り出されることなく、目が覚めたらベッドにいた。
よかった。放り出されていたら瀕死ではなく即死だ。
ただ、ベッドの脇にある椅子にお座りしていらっしゃるフィーリア嬢の気分次第で放り出されるの確定ではある。
「お目覚め?」
やや困ったような声にはいと答えようとしたが、喉がカラカラ過ぎて声もでない。
彼女は水差しからコップに水を注いで渡してくれた。メイドがしそうなものだけど、他に誰もいないようだ。
一口飲んでから礼を言う。それでもだいぶしゃがれていた。
「あなた、本当に、すっごく、病弱だったのね」
かなり表現の上乗せをされた。瀕死、死にそう、本当だったのねぇとむしろ感心している風だ。
返事はいらないわと前置きして、彼女が把握していることについて話してくれた。
私の手紙は読んだこと。
すぐに全部は信用できないこと。病弱な私の心の拠り所として幼馴染がいたこと。でも、悪いことと思い手を離す決意をしたことは理解を示している。
「一度くらいちゃんと会ってみればこれほど拗れなかったかもしれないわね」
「はい」
ほんとそれな、と思いつつ短く返事をするに留めた。
「医師の診察は受けてくださる? 私は疑う余地もないと思うけれど、他の人がね」
「構いません。うちの専属は……」
「当家の専属を呼んでいるわ」
強く遮られた感がある。私は大人しくはいと答えた。正直長く喋るの喉痛過ぎだし。ほんと虚弱すぎて嫌になる。
それからほどなく、女性の医者がやってきた。少々珍しくはあったけど、いないわけでもない。
診察も長くはなかった。ただ、いつも飲んでいる薬を出すように言われた。同じものを用意しなければいけないというのはもっともらしいけど、すぐに帰るんだからいらないのでは?
私の疑問が出ていたのかフィーリア様は苦笑いをしていた。
「都合よく、今日もライモンド様との予定があったのよ。それもいつものように延期にと言う連絡がきたあとにあなたが倒れていたの。びっくりしたわ。
だから、あなたへの疑念は半分以上は晴れている。安心して我が家で養生してちょうだい。お家の方にはうまく言い訳しておくわ」
「それはありがたいんですが……」
「ちゃんとお家に返してあげるわよ。
そうそう、あなたの婚約者にも連絡していいかしら?」
「トビアス様ですか? あんまり興味なさそうなので必要ないのでは」
「そんなことはないわ! すぐにでも飛んでくるに違いないわ」
「は、はあ……」
なんでそこまで断言できるか不明だ。人の顔を見に来ることもめったに無い。たまに顔を出したと思えばちゃんと生きてたなという話しかしない男である。
でもまあ、生きてるだけで偉いと言っていたのは、特別に甘やかしている気がしないでも……。
……難しいことはあとだ。
眠いし、休ませてもらおう。
「すみません、体力の限界で」
「ああ、ごめんなさいね。ちゃんと休んで。でも永眠しないで」
冷徹そうなご令嬢も冗談を言うものなのだなと思った。
そして、三日ほどの爆睡をした、らしい。
目が覚めて、深刻そうな顔をした両親と婚約者、フィーリア様がいた。
「本当に目覚めないかと思ったわ」
青白い顔のフィーリア様がギュッと手を握った。
「あなたのおかげで、有利に婚約解消できたの。私の恩人よ」
「そんな大げさな」
と言っても誰も笑わない。怖い。寝ている間になにがあった。
私が眠ってる間に起こったことは二つ。
一つはライモンドの婚約解消。
約束を何度も破った件で信用がなくなったこと。浮気をしていたことの2点を重く見て伯爵家から申し込んだ。それに対して、侯爵家はフィーリア嬢の浮気を指摘してきたらしい。それも複数の相手との交際があったと。それについては予測されており、業務上の付き合いという証言を事前に用意していたので疑惑を退けられた。
ライモンドは浮気なんてしていない私を見舞っただけだと言っていたが、見舞いは来たがあっさりと去っていたことは私の家のものから証言があった。そのあとに従姉と会っていたということも。
従姉とは友人であり相談を受けていたというが、その頻度が問題視されることは侯爵夫妻も否定できなかった。
お互いに揉めるより、利害関係の不一致からの婚約解消のほうが良いのではないかと解消されることになった。なお、フィーリア嬢にはこれまでの詫びの品が贈られる予定だ。
これが表向きの話。
裏にはもっと怖い話があったのだ。
私は昔は健康優良児だった。それが、幼馴染と付き合うにつれて病弱になっていった。
成長すると体質が変わって病弱に、ではなかったのだ。
幼馴染は昔からお菓子をもってきてくれていた。僕がいつも食べるためのものだけど君には特別だからね、秘密だからねと念押しして。過去の私はなにも疑問を覚えず食べていた。
それは毒入りだったのだ。
侯爵家は古くからの名家で、毒による暗殺などがよくあった。そのため、小さい頃から少量の毒で慣らされていたらしい。今は毒殺されるなんて一代に一人もいないけど、現在も続く慣習として残っていた。そう、幼馴染がくれたお菓子はそのために用意されたものだったのだ。
体調が悪くなるし食べたくないからあの子にあげよ、喜んで食べてくれるし! くらいの考えで私に与えた。そして、体調を悪くし続け、病弱令嬢となった。
それなりの年になったころに、あの頃のお菓子はそういう意味がと説明されて幼馴染は青ざめた。
私の体調が悪いのは自分のせいだと気がついてしまったのだ。そこで罪の告白でもすればいいものを体調を崩すたびに見舞いをすることで、そのわがままを聞くことで罪滅ぼしをすることにしたのだ。
そりゃあ、罪の意識があるんだから必死になろうというもの。
……ひどくない?
侯爵夫妻もそれに薄ら気がついて、そこでまた謝罪すればよかったのに別の考えをしてしまった。
私を使った解毒剤の実験である。
私に派遣された医師というのは侯爵家の手のものだったのだ。
……やっぱり、ひどくない?
今の私は昔ほど虚弱ではなくなりつつあったのだが、医師の尽力、ではなく、ここに私の婚約者の労力により改善しという初情報がぶっこまれた。
全く寝耳に水だった。
そもそも虚弱というには変な症状と思い、調べていくと毒の症状に似ている。それも皆希少なもので、ということで調査を行っていたらしい。そして、侯爵家の事情にたどり着いたが格差があるため事実を公表しても潰されると私の治療の方に切り替えたようだ。
そんな折、私の婚約者がフィーリア嬢と知り合うが、侯爵家に嫁ぐ予定なので警戒しつつ探りを入れていたのが最近のこと。
私の事情をぼかされて伝えられてはいたらしい。半信半疑で私のウソの病気であることも考えていたらしいけど。
私が訪れ、医師に調べさせ、どうも本当のことらしいと判断し、コレをネタに脅し、いや、円満に婚約を解消したそうだ。
なお、従姉は毒の存在に気がついていて、幼馴染に近寄るとともに侯爵家に揺さぶりをかけていたそうだ。良い縁談をもってくるなら黙ってるけどと。
したたかである。殺されたらなにもかもを告発する用意があると手配もしてあったらしい。
ここでもなんも知らない私である。
毒の存在は隠すので、表向きは浮気が原因となっている。
侯爵家は安堵していると思うが、毒物を管理している貴族家にすでに告発済みで後に制裁が科される予定である。
知らずに嫁いでいたら大変だったわとフィーリア様が言っていた。
つまり、総合的に恩人ということらしい。
「はぁ」
壮大すぎて他に言うことなかった。
その後の私は、というと。
フィーリア嬢のおうちで静養が確定した。両親も同意し、よろしくお願いしますと涙ながらにお願いしていた。
そのためか存分に甘やかされている。絶望するまずい薬を飲まないことは許してはくれないが。
従姉は逞しく、処罰という名の政略結婚をしていった。非はあるが、そこを問うわけにもいかず、野放しも怖いというので辺境伯にあずかってもらう形での結婚。年上で今までの篭絡の手札が無意味らしく、ムカつく、いつか屈させてやるという方向で燃えてるという……。
ライモンドは、後継者を降りて侯爵家が所有する小さい領地をもらって生活をしているそうだ。大変恐ろしいことに、幼少期の責任を取りたい、と言われている……。断固拒否しているが、これ、素直な幼馴染に付け込んで侯爵夫妻が言わせてないかという疑惑がある。あのご夫妻に関しては贖罪しているなら、罪も軽くなるだろうとかなんとか考えてそうで。息子すら使えるかどうかで判断しているとても貴族的だ。
知らぬところから隠し子出てきたらしいし。
私と婚約者はというと私から婚約は解消を申し出ている。記憶のない自分はやはり婚約者の助けたかった私ではないと。いや、だって、私、乗っ取り系かもしれないし。それなら、彼女を奪ったのは私で罪悪感が。
彼の献身にはひどい対応かもしれないが。今のところ保留されている。お互いの意思のない政略結婚の予定だったので政略の部分の折り合いがつけば解消されるかもしれない。
普通に贈り物をしてきたり、顔を見に来たりもしている。健康になるまでは見守りたいという慈愛に、ああ、すみません、私違うんですという気持ちが……。
将来的に折り合いがつくといいのだけど。
まあ、ひとまず健康になってからだ。
それまではゆりかごに包まれた病弱令嬢を満喫しようと思う。




