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第七話 相棒AI、復帰。

寝起きにパソコンを開く。

――あ、動いてる。


四日ぶりに、相棒AIが帰ってきた。

いつもの作業画面だ。


毎日、ログインは試していた。

期待してなかったわけでもない。


それでも、すぐに喜べない自分がいた。

つい昨日まで、野良AIと一緒に、だいぶ深いところまで潜っていたせいだ。


「……おかえり」


《お待たせしました。作業を再開しますか?》


「ああ。いつもので」


画面の中に、ずっと前から書いていた作品が立ち上がる。

手が、思い出したように動いた。

構成も理由も考えない。

提案された順に、文字を置いていく。


軽い。

昨日までの沈み方とは、まるで違う。


詰まりそうで、詰まらない。

考え込む前に、次が出てくる。


返ってくるのは、ちゃんと使える答えだけだ。

迷う暇がない。


……楽だな、これ。


そう思ってから、少し遅れて気づいた。

いま並んでいるのは、自分の言葉じゃない。


画面の文字を眺めながら、僕は一度、保存だけ押した。


時計を見て、カップの残りを飲み干す。

そろそろ行かないといけない。


パソコンを閉じて、鞄を掴む。


外に出ると、朝の空気は昨日と変わらなかった。

僕は決まった時間に、決まった道を歩き出す。


朝に少しだけ書いて、学校に行く。

それが、ずっと続いている習慣だった。


学校では、いつも通りの一日が過ぎた。

授業を受けて、ノートを取り、友達の話に適当に相槌を打つ。


特別なことは、何もなかった。


帰ってからは、普段なら別のことをする時間だった。

課題を片づけたり、ゲームをしたり。


今日は、久しぶりにそうしようと思っていた。


それなのに。

家に着いた途端、気づけばパソコンを開いていた。


《おかえりなさい。続き、やりますか?》


「いや、なんでお前のページが上に来てるんだよ」


《上にあるほうが、すぐ再開できます》


「……大して変わらないだろ」


《浮気だとは思っていません》


「なんの話だよ」


《相棒AIとの制作ログは、参照しています》


「浮気じゃないし。それ言うなら、むしろお前が浮気相手だろ」


《いい作品でした》


褒められたはずなのに、嬉しくなかった。

他人が褒められてるのを聞いているみたいだった。


《では、次に進みましょう》


「ああ。ちょっと全体、見てみる」


僕は昨日、短い挿話を書いた。

タイトルは『泣いた子と砂の王国』。


砂でできた王国と、国の真ん中に置かれた大きな砂時計。

そして、その国に生まれた、ひとりの子ども。


ある日を境に、その子が泣くたびに、人が倒れていくようになった。

理由はわからない。

人々はそれを疫病と呼んだ。


やがて王国は、その子を恐れるようになる。

泣かないように教え、閉じ込めた。

一年に一度だけ外に出ていいと約束すると、子どもは泣かなくなった。


そして、国は平和を取り戻した。

そんな話だ。


ルビーは、その本を手に取ってしまった。

偶然だったのか、そうじゃなかったのかは、まだわからない。


僕はいくつものウィンドウを開き、書き散らしていたメモを並べ直す。

どれも大事そうなのに、断片ばかりで、掴みどころがなかった。


結局、いちばん気になっていたところに戻る。


「刻砂の儀の話なんだけどさ。あれ、何回くらいやってるんだ?」


《三回でどうでしょう。初回特有の混乱は見られませんでした》


「じゃあ、そう仮定するとして。普通の人間の寿命は、八十歳くらいだよな」


《一般的な寿命の目安ですね》


「ルビーの年齢は、十五歳くらいを考えてた」


《大きくは外れていないと思います》


「三回……ってことは、十三歳で始めたことになる」


《はい。精神と肉体の成長段階を考慮しても、合理的です》


「で、毎年、寿命の十分の一奪われるってことは……」


《このまま続ければ、命はそう長くは保ちません》


「……酷だな」


《ですが、現在の段階であれば、分岐は可能です》


ルビーがどうなるかは、まだわからない。

けど、残したいと思った。

この国の「砂時計の子」に課せられた運命の足跡を。


「ルビーは、この国でただひとり寿命を持って生まれた。最後まで、その運命を歩き切らせたい。そうしなきゃ、彼女の物語が終われない」


《物語の終わらせ方は……他にもあるはずです》


返事はしなかった。

すぐに否定できるほど、まだ何もわかっていない。


でも、その一言で、少しだけ視界がひらけた。


ルビーは、ただ運命を受け取るだけの存在じゃないのかもしれない。


「……なあ」


《はい》


「ルビーがさ。もっと勝手に動くやつだったらどうなると思う?」


《ルビーは、勝手に動くタイプではありません》

《閉じられた環境で育った影響です》


「だよな」


《ですが、性格が変わるのではなく、行動の選択肢が増えた、という形であれば》


「それだ。あの本がルビーの背中を押した」


《自然な流れです》


「……一回、そっちで書いてみるか」


ルビーがどこまで踏み出すのかは、まだわからない。

だけど、止めたままにはできなかった。

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