── 挿話 ──『泣いた子と砂の王国』
── 挿話 ──
泣いた子と砂の王国
むかし、砂でできた王国がありました。
雨は少なく、風は強く、城も街も砂色でした。
国の真ん中には、大きな砂時計がありました。
その下には、底の見えない井戸がありました。
砂はいつも同じ速さで流れ、人々はそれを平和と呼んでいました。
その王国に、ひとりの子どもがいました。
宝石の名で呼ばれていました。
王国にとって、大切な宝物だったからです。
その子は、よく泣きました。
ころんだとき。
小さな鳥が動かなくなったとき。
理由もなく、胸がいっぱいになった夜。
ある日、その子どもが泣いたとき、砂時計の砂は止まりました。
最初に倒れたのは、子どものそばにいた人でした。
次の日、起きてこなくなりました。
その人を看病した人も、なにもしていない人も、順番に寝込んでいきました。
人々は、その子どものせいではないと考えました。
水を疑い、風を疑い、砂を疑いました。
倒れた人のそばにあったものを、何度も調べました。
それでも、その子どもが泣いた日には、かならず誰かが倒れていました。
王国は、こわくなりました。
この子どもが泣くたびに、人が減っていく。
だから、王国は決めなければなりませんでした。
この子どもを、どうすればいいのか。
遠くへやるのも、こわい。
殺すのも、こわい。
その子どもが、泣くかもしれないからです。
どちらも、王国には選べませんでした。
だから、その子どもを閉じこめて、泣かないことを、教えることにしました。
泣くかわりに、祈ることを覚えさせました。
泣くかわりに、数えることを覚えさせました。
一年に一度だけ、外に出てもいいと約束しました。
子どもは、泣かなくなりました。
病は、止まりました。
王国は救われました。
その日から、砂時計を流れる砂は、赤くなりました。
人々は、それを平和と呼びました。




