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松中博士

ルミがエレンに聞いた。


「この部屋のコンクリートは、どうやったの?」


「コンの友達が手伝ってくれたさね。ボス猿だからすごい数の猿たちが来てくれたさね」


エレンはルミに近寄り真剣な顔つきで、


「それよりも、あたしのことは誰にも言わないでおくれ。いいさね」


ルミの思考は動き出したようで、いたずらっ子のような顔をして、


「ん~そうですね。猫さんがお願いを聞いてくれたら誰にも言いません」


「何だいお願いって」


ルミは明るく、


「時々遊びに来てもいいですか?」


エレンは、脳内で松中博士に聞いてみた。


(どうするさね。他の人間にも知られちまう可能性が高くなるさね)


松中博士の答えは、


(国防省は、すでに偽人間のことを察知していると思う。我々は、屋外で偽人間たちと戦闘したんだ。まだ、やつらが我々を探していれば、すでに見つかった可能性は高いと思うよ)


(軍の部隊がここへやって来るさね)


(戦えばいいことだよ。エレンも強くなったし、この森なら、軍も入ってこれないだろう。それよりも、エレンは人間の友達が欲しいって思ってたじゃないか。彼女は少し変わっているが、いい子だと思うよ)


エレンは少し考えてルミに、


「わかったさね。時々なら、来てもいいさね」


ルミは飛んで喜んだ。


「やったー!化け猫妖怪の友達ができた!」


エレンは思った。


もう、妖怪でいいさね。


エレンが皆に、


「あたしゃ、スライムや偽人間を調べ始めるから、欲しい物があったら、コンにいいな。いいね」


ルミがエレンに、


「手伝ってもいいですか?正体を知っておきたいんです」


研究室は、コンクリートの打ちっぱなしで、テーブルの上には、ラップトップ、顕微鏡、無菌ベンチ、遠心分離機、DNA解析装置などが並んでいる。


研究や実験は、松中博士AIの趣味なのだ。プロファブもここで作られた。


研究室の中で、エレンが手袋をはめて、カゴからピンポン玉のような物と偽人間の体の一部を包んでいる布を取り出した。


布を広げると、黄色いピンポン玉のような物の周りをスライムが包み込んでいた。


エレンはそれを見ながら、冷静な声で、


「予想したとおり、この小さなボールが司令を出してるようだね」


ナイフでスライムを切り取り、顕微鏡で見た。


細胞が動いている。


エレンは脳内で松中博士に問いかけた。


(これは、粘性のものをまとった、ナノマシンの集合体のようさね。ジジイは、どう思うさね?)


返事はなかったが、松中博士が驚いていることが伝わってきた。


(どうしたさね?)


(これは、以前に私が研究していたものだ。すべてを破棄したはずなのに、なぜ今になって...)


松中博士の記憶を持つAIは、松中博士の人生を思い出していった。


それは、大きな屋敷での幼少期から始まる記憶だった。 両親は、不妊治療を諦めかけた43歳で母親が妊娠した。


しかし、その喜びもつかの間、妊娠発覚時に胃癌が見つかった。母は私の命を優先し、治療を後回しにした。そして私が3歳の時、母は他界した。


悲しみに暮れる幼い私を気遣い、父は政府の研究所に毎日連れて行ってくれた。そこでは医学、遺伝子工学、ロボット工学など、最先端の研究が行われていた。研究者たちは、わずか3歳の私に研究内容を説明してくれた。不思議なことに、私はその内容を完全に理解していた。小学生になるまでのこの3年間の経験が、後の研究者としての私の礎となった。


文字すら読めないはずの幼い私は、様々な研究論文を読みながら文字を覚えていった。父が早く帰宅した日は、夕食を共にしながら論文について質問したり感想を述べたりした。それは私にとって、最も幸せな時間だった。


8歳の誕生日に、父は屋敷の一室を改装して小さな研究室を作ってくれた。医学への興味が強かった私は、父に頼んでさまざまな研究器具を揃えてもらった。研究に必要なものは何でも与えてくれる父だったが、それは母を亡くした私を思ってのことだろう。


10歳になった私は、難病の薬を開発中に、偶然にも皮膚を若返らせる塗り薬を発見した。特許を取得し、研究費に困ることはなくなった。


13歳の時、盲腸で入院した経験が、私の人生を大きく変えた。病院で目にした多くの患者たちの姿が、困っている人々を助けたいという強い思いを芽生えさせた。


その思いは15歳で実を結び、人間の手足と同じように動く義手や義足を完成させた。多くの人々に届くよう、特許を取らずにすべてのノウハウを公開した。そして、多くの医師にメールで取り付け方法を説明し、患者に使ってもらった。


日々届く感謝のメールを読むことが、私の唯一の楽しみとなっていた。今思えば、それが社会との唯一の繋がりだったのかもしれない。もっと多くの人に喜んでもらいたい。その思いは、私の研究の原動力となった。


19歳で、これまでの義手や義足の技術を基に、人を支援するためのアンドロイドを試作した。この技術も皆に喜んでもらえると信じ、すべてを公開した。しかし、人を補助するためには高性能なAIが必要だと痛感し、AIの研究を始めることになった。


この頃、私は父の重大な秘密を知った。父が以前所長を務めていた研究所は、政府の兵器開発の秘密研究所だったのだ。地上の研究所は表向きのもので、地下には秘密の研究所があった。そこでは国防省の依頼を断った研究者が拉致され、無理やり研究をさせられているという噂があった。


父は何度も私に言い聞かせた。


「兵器に転用できる研究は絶対にするな。見つかれば必ず連れて行かれる。政府相手では逃げ切れない」


アンドロイドは製作したが、全てを公開している。問題はないだろう。


24歳になった私は、研究の第一段階としてAIに自分の記憶を学習させることに成功した。第二段階では、AIを頭蓋骨と頭皮の間に埋め込み、非常に細い特殊な金属の針を数十本頭蓋骨と頭皮の間に刺し、身体にも同様の処置を施してAIに接続した。この技術により、AIは私の言葉や脳の信号、身体からの信号を解析し、思考方法を学び、記憶していった。


30歳の時、ある出来事が私の研究の方向を変えた。事故で助手が最愛の人と死別するのを目の当たりにし、「なぜ人は死ぬのか」という根源的な疑問から、人間の寿命についての研究を始めたのだ。


35歳で、DNA修復タンパク質を活性化させる薬と人工修復タンパク質の開発に成功し、マウスの実験で良好な結果を得た。


40歳の時、ナノマシンを使って人間の細胞や記憶をスキャンし、その情報をAIに送る技術を開発した。この技術では、人間を一度骨まで溶かし、人工細胞と結合させ再構築することで、病気を治し、筋力を飛躍的に向上させることができた。しかし、AIがナノマシンを操作した結果、マウスの形が変わってしまうという予期せぬ事態が発生。人間が人間でなくなってしまうと判断し、この研究は完全に破棄することを決意した。


研究に没頭するあまり、40歳を過ぎても、友人と呼べる存在はいなかった。もちろんガールフレンドもいない。唯一親しい存在は、10年以上支えてくれた助手の小山だけだった。父はすでに5年前に他界していた。


そんな私の40歳の誕生日、助手の小山が一匹のメスの子猫をプレゼントしてくれた。


「猫は散歩の必要がないので飼いやすいですよ」


私は初めてペットを飼ってみることにした。


最初は単なるペットとして餌をやるだけだったが、膝の上に乗ってきたり、ベッドで一緒に寝たりするうちに、その存在が愛おしくなっていった。研究室に忍び込んで物を壊しては逃げ回る子猫を、いつしか私は溺愛するようになっていた。

名無しでは可哀想だと思い、その子猫に「エレン」と名付けた。






作者より


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