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エレン 神怪山へ向かう

トラックは少し進んでから停車し、運転手が降りてきた。目が細く鋭い。体格はがっしりしていた。一見、典型的な反社会的勢力のように見える。


トラックの前を確認すると、バンパーとボディにへこみができていた。


何が起こったか理解できない様子の運転手だったが、何かにぶつかったことは理解しているようだ。


彼は周囲を見回し、九十度に傾いた白黒のパトカーのような車を見つけた。一瞬迷ったようだったが、車に向かって歩き出した。


シルエイティの助手席のドアが開き、フードを深くかぶったエレンがカゴを持って出た。


トラックの運転手に向かって歩み出した。


お互いが一メートルの距離になった時、エレンはカゴの中に手を入れ、何かを取り出した。


それは子供のグーくらいの大きさの金の塊だった。


「すまないさね、何も聞かずに、これで済ましてくれないかね。500万円ぐらいにはなるはずさね」


トラックの運転手は金の塊を手に取り、まじまじと見ながら、笑い混じりに、


「本物なのか?信じられねぇーな」


エレンは顔が見られないように、フードの先を抑えてより深くかぶりながら答えた。


「あたりまえさね」


運転手はエレンと金の塊とを交互に見ながら、


「警察のコスプレしている、あんたを信じろってのには、無理があるぜ。本物だっていう証拠はあるのかい?」


エレンが車の中のルミを呼んだ。


「ルミ!こっちに来ておくれ」


ルミがエレンの隣に来た。


「どうしたの猫さん」


エレンはルミに、


「運転免許を出しな」


ルミは運転免許をエレンに渡しながら尋ねた。


「何に使うの」


エレンは無視してトラックの運転手にルミの運転免許証を見せた。


「偽物なら、いつでもこの住所に来ればいいさね」


トラックの運転手は、


「こんなもの、いつでも偽造できるぜ」


ルミのシルエイティを指差しながら、


「心配なら、あの車のナンバープレートも控えておけば、保険は使えるさね」


トラックの運転手はじっとエレンを見て考えているようだ。


エレンはルミに、


「保険会社に、今すぐ電話するさね」


そして、トラック運転手に、


「彼女の保険を使って、トラックを直すことにしたさね。その金を返してほしいさね」


トラック運転手は急に態度を変えて、


「わかった。この金を貰っておくよ」


エレンは心のなかで、こう思っていた。


人間なんて、一度手にした大金は、戻さないものさね。


「わかったさね。あと、車がオーバーヒートしたんで、持ってるだけの水がほしいさね」


運転手は免許の写真をスマホで撮り、ナンバープレートも控えた。そしてエレンに向かって、


「予備のラジエーター液とペットボトル四リットルしかないよ。それでいいかい」


そう言って運転手は車に戻り、しばらくして、ラジエーター液と水を四リットルを、エレンとルミに渡した。


トラック運転手はフードで隠れているエレンの顔をじっと見つめながら、


「あんたの顔、動物みたいだが...」


エレンは周りを指差して言った。


「そんなことより、周りを見てみな」


運転手は四散した村人の手足の一部、内臓のようなものが、こちらに向かって動いているのが見えた。


恐怖を感じて、足がもつれそうになりながら後ずさりした


「う、うぁー!な、なんなんだよ!あんたら、何者だよ!」


運転手は慌ててトラックに向かい、走り去った。


ルミも周りを見て、不安そうに、


「気持ち悪い。生き返るつもりなのかしら」


エレンは肉片が動いていく方向を見た。その先のガードレールの下に、黄色いピンポン玉のような物が落ちていた。


エレンは脳内で松中博士に聞いた。


(ジジイ、あれが本体だね。持って帰ったら、危険だと思うかい?)


(エレン、布に包んで、肉片と一緒に持って帰ろう。何なのか調べたほうがいい)


エレンはルミに、


「ルミ、顔に巻いていた布を持ってきておくれ」


「わかったわ」


ルミが戻ってきて、布を渡した。


「これですよね」


布を受け取ったエレンは、それを持って黄色いピンポン玉に向かって歩き出した。


ルミも後ろをついて行った。


布で黄色いピンポン玉を掴み、ぐるぐるっと巻いた。


「この布はプロファブといって、超音波、液体、電気、衝撃、すべてのものを通さないのさ。マンドラゴラの声もさね」


布で包むと、肉片は動かなくなった。


「これが本体だね。何かの信号のようなものを出しているようさね」


エレンは肉片もつまみ上げて、布に一緒に包んだ。


買い物カゴに布で包んだ肉片と黄色いピンポン玉のような物を入れた。


エレンはルミに、


「あたしゃ、マンドラに水をやるから、ルミは車を直しておくれ」


二人は車に戻った。ルミはエンジンを掛け、車を道の端っこに寄せて止めた。


そして、外に出てエンジンルームを覗き込んだ。


助手席のエレンは、ポケットからマンドラゴラを取り出し、


「好きなだけお飲み」


そう言って、ニリットルのペットボトルから水をマンドラゴラの口に入れてあげた。


手を添えてゴクゴク飲みだすマンドラゴラ。


ルミが近寄ってきて、興味深く見ている。


エレンがマンドラゴラに水を飲ませながらルミに尋ねた。


「ルミ、走れそうかい」


「水漏れしてますね。応急処置してみますが、あまり持たないと思いますよ」


ルミはマンドラゴラを指差して、


「それって、何なのですか?」


エレンは面白そうに、マンドラゴラに視線を移して、


「この植物かい。マンドラゴラっていうのさ。ワクワクするかい?」


ルミは、開いてる窓から覗き込んで、


「植物ですか?手と足があるようですね。カッコよく無いですし、可愛くもないですね。ワクワクしないです」


エレンにはルミの基準がわからなかった。ただ、マンドラゴラには、なぜか悪いことをした気になった。


「そ、そうかい。応急処置が終わったら、あたしの家に出発しよう」


エレンはそっと小さな声で、マンドラゴラに、


「マンドラ、すまなかったね」


車は何とか走り出したが、ボロボロの状態である。


子供たちは布を外しているが、不安なのか、全く喋らない。


エレンがルミに、


「旧国道に入ってもらえるさね」


ルミは確認するように、


「旧国道に家はないですし、基本的に未舗装路ですよ。間違いないですよね?」


エレンはめんどくさそうに、


「いいから行くさね」


旧国道は、ところどころ舗装はされているが、アスファルトは荒く、場所によっては車一台分の幅しかないため、すれ違う時にはどちらかの車が道幅の広いところまで下がらなければならない。今では、ほとんど車が通らない道だ。


ルミは慎重にハンドルを握り、狭い未舗装の道を進んだ。


どこまでも、曲がりくねった道が続き、登りきったところから、ゆるいカーブになり、直線になったところでトンネルが見えた。


エレンがルミに、


「トンネルを抜けた所で止まってくれるさね」


車はトンネルを抜けた先、ガードレールが始まるところで止まった。


ルミがエレンの方を向いて聞いた。


「ここでいいですか?」


エレンは車から降りて、ガードレールの前に立ち、そこを触った。


すると、車一台分のガードレールが開いた。




作者より


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