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殺人


松中博士が、椅子に座ってスマホを打っている。使い捨てのシムを使い、四十件の探偵事務所へメールを送った。

返信の内容から三十件に絞り込み、正体を隠したまま、松中博士はホテルで面接をした。偽人間に尾行が悟られないよう、ローテーションのきく、人数の多い二十の探偵事務所を採用した。

浮気調査として依頼。夜、工場から帰宅しない、及び工場への再出勤時に連絡をしてもらう。浮気現場の確認は必要ない、という内容だった。

二週間後に、探偵たちから一斉に連絡が来た。

帰宅時間になっても、誰も出てこない。

松中博士が、店にいる全員に伝えた。

「今日のようです。今すぐ出発しますので、用意してください」

エレンは、コンとマンドラに声をかけた。

「おとなしく待っとくんだよ!」

工場に着くと、メールをすべての探偵事務所に送り、帰ってもらった。

バンパーの代わりに大きなカンガルーバンパーを付けたエルグランドのドアが開き、ルミの運転席から、リュックを背負った松中博士、藤原、吉田が降りて工場に向かって歩いていく。少ししてから、最後に猫が出てきた。エレンだ。

猫のエレンが松中博士たち三人を追い抜いていく。

エレンたちが到着するまでに、探偵たちから、二組のカップルが車に乗せられ工場に入っていったと連絡があった。

猫のエレンは、防音シートが貼られている大きなフェンスのドアを駆け上り、工場内に侵入した。

耳をすましたが、工場内の機械は動いており、騒音が邪魔をする。

猫の耳をもってしても、他の音が聞き取りにくい。

人工衛星からの写真と、建物の設計図を思い出す。

「事務所はこっちのはずさね!」

走りだすエレン。

事務所の窓に飛び乗り、中を覗いたが誰もいない。

エレンは首輪のマイクに話しかける。

「事務所には誰もいないさね。機械の動いている工場に入ってみるさね」

工場にも誰もいない。

「あとは食堂だけさね」

食堂の中は、高級感のあるレストランのようだ。

「食事も飲み物も残ってるさね。今まで居たような気配があるけど、誰もいないさね」

松中博士が、鍵のかかっている入り口のフェンスを力で壊して開けた。

エレンの首輪に取り付けたカメラから、松中博士は工場に違和感を感じていた。

「エレン、工場の高さと、設計図の高さが違うようだ」

工場に入り、周りを見て、天井を見上げた松中博士は理解した。

機械は動いているが、何も送られていない。レールがない。作業はしていないのだ。

松中博士は床を蹴った。

「仕掛けがあるようだね。リサイクルを送るレールを地下に下げ、部屋になっている天井を下ろして、そこで何かをしている」

藤原が上を向きながら言った。

「あそこが秘密の部屋ってわけか」

エレンは工場に行き、松中博士の持ってきたバッグを咥えて食堂へ向かった。

中に入っているズボンとシャツに着替え、ベルトに溶解弾の入ったバッグを着けた。最後にプロファブでできたマントを着けて、ペイントガンを装着したベルトを背中に回した。

化け猫呼ばわりされる大きな猫に変身したエレンが工場に戻ってきた。

ロープを腰にぶら下げたエレンが藤原の方を向いて言った。

「脳剣、あんたにゃこんなことできないだろ」

エレンは後ろに下がり、勢いをつけて走り、一気に真ん中までジャンプして、四本足で壁をもう一回蹴り、屋根まで登った。

そこからロープを下ろした。藤原が登ってくる。

「俺たちは、もっと近代的な方法で登るのさ」

「フン!防衛省の武器が使えないあんたにゃ、何もできないだろ」

「登ったぐらいでいい気になるな!」

次は吉田が登ってきた。最後の松中博士は重量級だ。三人でロープを持ち、松中博士が登ってきた。

「気づかれないように穴を開けられませんか。証拠を録画したいのです」

「脳剣、小さな穴を開けられるかい?小さな穴だよ」

「当たり前だろ、舐めるんじゃねぇ!」

思念増幅装置を手に持ち、短く細い思念の刃を作り、小さな穴を穿った。

もう一箇所開け、最初に開けた穴から吉田が覗く。

もう一つの穴にカメラを差し込み、エレン、松中博士、藤原でモニターを見る。

下からくぐもった声が聞こえる。

「離せ……ゴゲェ……グググ」

吉田と藤原は見た。

丸い舞台の上で、男の偽人間が、連れて来られた青年を裸にし、上に乗って首を絞めている。

「この、指に伝わるピクピクする感触が最高だ」

舞台の周りに二十人以上の偽人間がいる。一人の偽人間が声を飛ばす。

「俺の順番まで、殺すんじゃないぞ」

舞台から、首を締めていた男が降りてきた。

舞台を見ていた男が舞台に登った。

「次は俺の番だ。死ぬんじゃないぞ」

人間の男がまた上に乗られ、首を絞められる。男が失禁し、垂れた尿が偽人間の靴にかかった。

「テメェー汚ねぇーな!」

偽人間は男の顔を殴りつけた。

青年は頭蓋骨が陥没して動かなくなった。

舞台の四人の偽人間が駆け上がり、殴った偽人間を取り押さえた。

小学校の高学年と思しき偽人間が、両手に矢のようなものを持って舞台に登ぼってくる。

取り押さえた偽人間に向かって冷めた声で告げた。

「殺すなといったはずだ。規約に基づき処分する」

暴れる偽人間。

「やめてくれ、俺はまだこの時代を楽しみたい。頼む!」

両手の矢をAI部分に刺した。

矢の後ろの十五センチ四方の箱は、線で繋がっている。

「やめてくれ!」

スイッチを入れると、糸が切れたようになった。

これを見ていた松中博士。

「偽人間のAIへ直接高電圧を流して、焼き切る方法もあるのか」

藤原が吉田に聞く。

「証拠は十分だろ」

「もう少し待ってください。あの子供の正体を知りたい」

子供の偽人間が冷酷に言う。

「次を舞台に上げろ。続きだ」

松中博士が屋根を左右の腕で殴って大きな穴を開けた。

「吉田さん、待てないよ」

その穴に藤原が飛び降りた。軍で冷静さを保つ訓練を受けていたにも関わらず、藤原は怒りが止められなかった。

次に降りてきた吉田がその光景を見ている。スイッチをAI内で押しているので、すべてが未来のAIへ送られ、録画されている。

エレン、松中博士が降りた時には、偽人間と藤原が戦っていた。

子供の偽人間が吉田を見つけ、指差し叫ぶ。

「あいつはアバターだ!録画させるな!」

吉田を狙って集まってくる偽人間たち。

エレンは、吉田を狙う偽人間へペイントガンを連射する。

溶解弾が当たって破裂する。溶けていく偽人間たち。

松中博士は、急所のAIを狙って手刀で貫き、AIを握り壊す。

だが、圧倒的に偽人間の数が多い。二十四体いるうちの十体が松中博士を囲む。残りの十四体が吉田を狙う。

藤原が何体かの偽人間のAIを破壊するが、完全に不利な状況だ。

八体の偽人間が、一斉に松中博士へ飛びかかった。



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