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防衛省内部にも偽人間が。

十階建ての何の変哲もないビルから出てきた、ジャケットにジーンズのラフな格好の男を尾行する藤原。朝の勤務が終わった、防衛省特殊情報部のハッカー山崎である。一時間前、彼にメールで件名だけ送っておいた。



山崎は家電量販店に入り、しばらくして出てきた。そのまま、混み合っているファーストフードのハンバーガー店に入った。ハンバーガーセットを購入すると、二階に行き空いてる席に座り、メッセージを打ち出した。


藤原も二階の空いてる別のテーブル席に座り、スマホを取り出す。フリーメールにメッセージの着信マークが表示された。


『メールの件名にタートルネック(仮)なんてバカげたことを書くやつはお前しかいない。藤原、生きてたなら、なぜ戻って来て報告しない』


『お前の秘密を知ってるのは俺だけだから、すぐにわかっただろ。まあいい、スライムの話は知ってるのか?』


『噂では聞いている』


『防衛省内部に、スライム人間が潜入している。俺の部隊の一人が、すでにスライム人間になっていて、罠にかけられ全滅した。もう、誰も信用できん。お前を尾行したのも、スライム人間じゃない確証が欲しかったからだ』


『スライム人間だと。本気でいってるのか?そんなやつがいれば、態度ですぐにわかるだろ』


『奴らは、全てをコピーする。記憶やクセまでもだ。普通の人間には、絶対に見分けはつかない』


『俺に接触してきた理由は?』


『イサギ市南町にある工場の全ての情報がほしい。詳しくはいえない』


『なぜいえない。そのスライム人間が関わっているのだろ』


『これを渡しておく。スライムレーダーだ。反応したら逃げろ。取り込まれたら、お前もスライム人間になる。これがいえない理由だ』


『信じられんが、それが本当なら大変なことになる。いくつかの部署でレーダーを試してみよう。南町の工場の情報は、バレないようにハッキングして送る』


『分かり次第送ってくれ』


藤原は立ち上がり、山崎の後ろを通りながら、スライムレーダーをジャケットのポケットに入れ、出口に向かって歩いていく。


男はスマホからシムを取り出し、二つに割って、ハンバーガーの空箱に入れ、ゴミ箱に捨てた。


ルミの店では、エレンが元気になったマンドラゴラを説得していた。


「マンドラ、コンと一緒に神怪山へお帰り。全部焼けたわけじゃないんだろ」


コンも心配そうに、


「キキキ、キキキ、キキキ」


横を向いて、


「嫌だ」


困ったエレンは説得を続ける。


「都会は空気が悪いんだ。死んじゃうさね。それとも、ずっと水槽に入っとくきかい?」


「エレンも帰る。僕も帰る。エレン帰らない。僕帰らない」


一緒にマンドラゴラを見ているルミが、


「ねえエレン、宇宙服みたいなのを作ってあげたら。それに、神怪山からここまで三時間として、一時間くらい外にいても大丈夫じゃないの?」


神怪山から持ってきた、偽人間の黄色いピンポン玉のようなAIを分析している松中博士が、見ていた顕微鏡からこちらを向き、


「インターネットで材料をそろえれば、宇宙服ぽいのは簡単に作れるぞ」


「マンドラ、そうするかい?」


マンドラゴラは、頭を上下に振った。


「ドク、作ってあげてほしいさね。あたしゃ、昨日作った、溶解弾のテストをするさね」


「エレン、一緒に見てもいい?」


「もしものために、ルミも撃てるようになっておいたほうがいいさね。試し撃ちできる鉄の板はあるかね?」


「車のドアぐらいしかないよ」


コンクリートブロックでできた壁にもたれかけさせたドアに、照準を合わせたエレンがトリガーを引いた。


二発の溶解弾が飛ぶ。


命中した途端、鉄のドアが一瞬で溶けていく。溶けた滴が、コンクリートの地面に落ち、そこも溶かして穴を開けた。


「濃度が高すぎたようさね」


「すごいけど、怖すぎるよエレン」


「十パーセント薄めたほうがよさそうさね」


店に戻ると、吉田が帰って来ていた。


「報告ですが、南町の工場は、周りの金網に防音シートを貼っていて、中が見えなくなってましたが、アバターがいることを感じました。殺人場所の可能性が高いです」


エレンは、トラックから持ってきた、頑丈そうな大きな箱の蓋を開けた。中には、いくつもの瓶が入っている。中身は、神怪山のウツボカズラに似た植物から採取した溶解液を濃縮したものだ。


溶けないように、テフロン加工を施した、空のペイントボール殻の穴から、大型ガラススポイトで溶解液を注入していく。そして、別のスポイトで水を注入する。最後に、穴をテフロンで埋めていく。この作業をひたすら繰り返す。


店のドアが開き、藤原が帰ってきた。


「南町の工場を、調べてもらうように頼んできた。偽人間レーダーを渡してきたが、防衛省内部がどうなってるかはまだわからん」


内側ポケットからスマホを取り出した。


「メッセージが来た」


お前のいうことを鵜呑みにするわけにいかないので、もう一度情報部のあるビルに戻った。レーダーの反応が一つあった。作戦本部のあるビルにも行ってみた。反応が二個あった。誰かは確認していない。俺は姿を消す。南町の工場の情報は、明日にでも送る。


藤原は、すぐに返信した。


迎えに行く。一緒に来い。


だが、返事はなかった。


四人の視線が、藤原に集まる。


「最低でも、三匹の偽人間が防衛省に潜り込んでるようだ。情報を頼んだやつは、姿をくらますといってる。情報は明日送ってきてくれるが、これで防衛省との接点は切れる」


松中博士が、


「吉田さんの偵察で、南町の工場には、偽人間がいる。ただし、なん匹いるかはわからない。藤原さんの情報が手に入ったら、作戦を立てよう」


次の日、店の机の上には、南町の工場衛星写真、図面、役員や従業員の名簿が置かれている。


「俺が入手できた情報だが、そこは、リサイクル工場だ。名簿から、従業員の住所がわかる。成りかわった偽人間を見つけ出し、一人一人排除していけば、リスクは少ないと思うが」


吉田が異を唱えた。


「それだと、快楽殺人を冒している証拠が掴めない。裁判で勝たないと、Tokyoタイムを止めることは出来ませんよ」


松中博士が加わる。


「スライムの流入を止めるのが先のようです」


藤原も、それに賛同した。


「それもそうだな。だが、衛星写真と図面だけだと、どこで殺人ショーをやってるのかわからねぇな」


エレンが口を開く。


「あたしが、探るしかないさね。猫なら襲われないはずさね」


藤原が、


「後は、奴らがいつショーを開催するかだな」


突如、松中博士が突飛なことをいいだした。


「従業員の人数分、探偵を雇って、見張ってもらいましょう。夜に役員や従業員が一斉に工場へやって来る日がその時です」


藤原は、何をいってるといいたげに、


「山で長年暮らしてたからわかってないようだが、探偵を二十人以上雇ったら、いくらかかると思ってる」


松中博士は笑いながら、


「一ヶ月で、大体五千万円ぐらいでしょ。その程度のお金はありますから。考えてもみてください、たった五千万円でこの時代が救えるのですよ。安いもんじゃないですか」


ルミがささやくようにエレに聞いた。


「ドクって凄いお金持ちなんだね」


エレンも耳元で、


「みーちゃんを覚えてないかい?大っきなミミズさね。トラックから持ってきてもらった、小さい方の箱二つに、現金と金やダイヤモンドなんかの宝石が入ってるさね」



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