やってきた神怪山の友人たち
スカイタワーに到着すると、中継車と野次馬でごった返していた。
「ドク、どうするさね」
「ルミ、この車をどこかに駐車しておいてくれ。メールを送るから。ナンバープレートの細工もお願いする。追いかけられたくないからね。」
「メールは遅いので、SMSで送ってください。」
「電話番号はないんだよ」
「そうなんだ。私が後でスマホを用意しますよ」
「エレン、コンを助けに行こう」
エレンと松中博士は車を降り、スカイタワーへ向った。
「ドク、どうやるさね。下手すりゃ、テレビに映っちまうさね」
ドクが両目の焦点をスカイタワーの頂上付近から、ゆっくり降りてきている猿のコンに合わせながら、
「作戦はこうだ」
普通の猫になったエレンが、野次馬を横目に、スカイタワーの裏へ回り、見つからないように中へ入っていった。
それを確認した松中博士は、ルミにメールを送った。
〘十五分後にスカイタワーの、人のいない裏側のすぐ近くを通ってほしい〙
猫のエレンは、誰にも見つからないように、非常階段を探した。
見つけた非常階段の入り口は閉まっている。
周りに人がいないのを確認すると、両手両足だけを伸ばして、ノブを回し、ドアを開けた。
ぶつくさいいながら、非常階段を駆け上がるエレン。
あのジジイは、ほんとに猫使いが荒いよ。非常階段を使って、コンのいる高さまで行けって!何百メートルあると思ってんだい。
頂上付近の非常階段のドアを開けて、外に出た。
上を見ると、コンがすぐそばにいた。
「コン、あたしだよ。エレンだよ」
エレンを見つけたコンが、嬉しそうに、鉄塔から寄って来ようとした。
「来るんじゃないよ。あたしがそこにいくから」
鉄塔をよじ登って、エレンがコンに近づく。
「コン、あたしの後をついといで。離れるんじゃないよ」
エレンとコンは、野次馬からよく見える、表側を鉄塔の鉄骨を伝って降りていく。
野次馬がざわめいてるのが聞こえる。
ビルの三階相当の高さまで来たとき、エレンがコンにこういった。
「走れっていえば、あたしの後ろをついて走るんだよ。飛べっていえば、すぐに飛ぶんだよ」
コンは頭を上下に振った。
エレンの耳が動いた。
「来たようだね。コン、走れ!」
エレンとコンは、鉄骨の上を裏側に向かって走り出した。
野次馬が追いかけて来る。
ルミのエルグランドワゴンが走ってきた。
エレンが叫ぶ。
「飛べ!」
エレンとコンがスカイタワーの鉄骨から、エルグランドワゴンの屋根に向かって飛び乗った。
サンルーフが開いた。そこから、エレンとコンは、室内へと入った。
中継車が慌てて、エルグランドを追うために、車を動かしたとき、松中博士が突然前に出た。
ゴン!という音とともに、倒れる松中博士。
運転手が慌てて飛び出してきた。
「大丈夫ですか?」
起き上がり、体をパタパタとはたきながら、
「少しあたっただけですので、大丈夫です」
そういうと、歩きだした。
エルグランドの室内に入ってきた猫がルミに喋りかけた。
「エレンさね。人間型に変身するから、こっちを見ないでほしいさね」
「わかったわ。恥ずかしがらなくてもいいのに」
「これを見られるのは、裸を見られるよりも恥ずかしいさね。狼男だって、変身シーンを見られたくない筈さね」
人間型になったエレンが助手席に座る。
「コン、おとなしく座ってるさよ。詳しい話は後で聞くさね」
それから一時間後、ルミの店のドアが開いた。
エレン、ルミ、藤原、吉田、コンが一斉にそちらを見た。
松中博士が戻ってきたのだ。
「目立たないように、電車もタクシーも使わなかったから、遅くなったね」
「スカイタワーから、歩きで帰って来さね?」
「早足でね」
「コンに話を聞いたさね。防衛省の部隊が神怪山を焼いたそうだよ」
藤原が話を説明する。
「グレネードランチャーを使って、焼夷弾を撃ったんだ。井出は化け猫やを焼いて、化け猫とAIを捕まえると言っていた」
コンが怒っている。
「キーキキキー!キーキキキキー!」
通訳をするエレンは、悔しそうに、
「広場の前のニードルツリー(針葉樹の木)は、ほとんどが燃やされて、森の中まで軍が入って来たようさね。怒ったマンドラゴラが、出ていこうとするのをコンがとめたさね」
松中博士は沈痛な表情で、
「我々のせいだね。すまないコン」
「キキキ、キキキー」
「マンドラゴラがあたしに会いたいっていうから、コンが連れきたけど、都会の空気で弱っちまってるよ」
おしゃぶりを咥えているマンドラゴラが、土を敷き詰めた四角い透明な容器の中で、目を瞑り、座り込んで苦しそうにしてる。
ルミがエレンに聞く。
「都会の空気よりも綺麗なら元気になるってこと?それなら方法はあるよ」
「どうするさね?」
「スキューバダイビングのタンクの空気は、都会の空気よりも綺麗よ。近くに店があるから、レンタルしてくるね」
松中博士は感心したように、
「うん、すごくいい案だ。戻ってくるまでに、箱を探して、加工しておくよ」
藤原にも頼んだ。
「藤原さん、思念の剣でガラスは切れるかい?」
「何をすればいい」
「水槽のような入れ物をガラスで作るので、二階の窓ガラスを六枚分切って持ってきてほしい。後は、接着剤で組み立てればいい」
ルミが店に入ってきたときには、ガラスでできた水槽が出来上がっていた。中には湿った土とマンドラゴラが座っている。
水槽は二箇所に穴が空いており、一箇所は普通の穴で、もう一箇所には、ホースが繋がっている。
松中博士は、ホースを持って、
「ルミ、タンクの空気をここから入れておくれ」
レギュレータで空気圧を調整しながら、水槽に空気を入れていく。もう一つの穴から空気が出ていく仕組みだ。少しずつ、綺麗な空気が、水槽を満たしていく。
マンドラゴラが目を開けた。
心配していたエレンが涙声で、
「マンドラ、大丈夫かい」
マンドラゴラはコクリとうなずいた。
藤原にエレンが近づき、文句をいい始めた。
「あんたらは、やっていいことと悪いことの区別もつかないのかい!森を燃やすってことは、動物や植物に死ねってことだよ」
ルミがエレンに、
「ケンちゃんじゃないよ」
「わかってるさね。ただの八つ当たりだよ」
松中博士がエレンの肩に手を載せた。
「これで、マンドラは助かる。気持ちを切り替えて、南町の工場への対策のために、今から武器の製作に取り掛かろう」
水槽を藤原とルミが覗き込む。
藤原が不思議そうにルミに聞く。
「これは何なんだ?」
「よくは知らないけど、マンドラゴラっていう、知能のある植物なんだって。この子の声を直接聞くと死んじゃうってエレンがいってた。村で何十人もの偽人間に囲まれたとき、この子のおかげで逃げ切れたの」
「おい化け猫!村の幼稚園で倒れてた偽人間をやったのは、こいつなのか?すげー武器だな」
「脳剣、あたしゃいったはずだよ、友達に手伝ってもらったって。友人を武器呼ばわりするのはやめとくれ」
「まあいい。いつ南町の工場を襲撃する」
松中博士が藤原に聞いた。
「もっと情報がほしい。防衛省は、何も掴んでないのかい」
「少し時間をくれ。ツテはあるが、そいつが偽人間ではないという確証を取ってからだ」
「吉田さんは、何も聞いてませんか?」
「そこは、メンテナンス工場に指定されていない。もしも、いるなら、そいつらが快楽殺人犯たちだと思います」




