エレン 偽人間に追いかけられる
吉田が前に出た。
「猫の変種とアンドロイドだ。食う必要はない。通らせてくれ」
偽人間たちは、海が左右に分かれるように、一本の道を作った。
エレンの耳元で、偽人間には聞こえないように、
「君は捕まったら溶かされる。アンドロイドの私は大丈夫だから...」
だが、吉田が歩きだしたため、作戦を最後まで伝えることができなかった。
吉田を先頭に、エレン、次が松中博士だ。
迷彩服姿、プロレスラーのような巨体、隙のない眼光の者、戦闘、格闘に長けた偽人間たちの間を歩いて行く。
迷彩服の偽人間が、吉田に声をかけた。
「爆発音と大きな揺れが何度もあった。それを確かめに降りるところだった。地下から上ってきたんだろ。何があったのか知らないか」
「何も知りません。私はアバターを預けに来たのですが、爆発音を聞いて、無我夢中で走ったら、エレベーターがあったので、乗っただけです」
眼光の鋭い偽人間も加わってきた。
「なぜ、アンドロイドと、人間のような猫がいる」
プロレスラーのような偽人間が、エレンの手を捕まえようと手を伸ばしてきた。
「爆発音の原因はお前たちだろ!」
松中博士が、その手を手刀で切り落とした。
「エレン逃げろ!」
エレンは走りだした。
追いかけようとする偽人間の前に、吉田が立ち塞がった。
松中博士も偽人間たちに腕と胴を捕まえられたが、パワーで引きちぎった。
エレンに向かって走り出そうとする偽人間の鳩尾あたりへ、背中から手刀で貫き、AIを掴んで握りつぶした。
四人の偽人間が、一斉に松中博士へ襲いかかる。
前の二人を、右腕で払うように吹っ飛ばした。
腰に一人、背中に一人、偽人間が組みいてきた。
「吉田さん
!走るぞ!」
松中博士は、まるでラグビーの最強選手が二人の相手選手を引きずって進むように走り出した。
藤原はエルグランドにたどり着き、ドアを開け
運転席に座った。
ルミが不安な顔で、偽人間レーダーを藤原に見せた。
「ケンちゃん、たくさんの反応がでてるみたいなんだけど...」
十ほどの点が、エルグランドワゴンに近づいてくる。
それを見た藤原は、慌ててエンジンを掛け、駐車場から出し、路上に動かした。
後ろを見ていたルミが悲鳴を上げた。
「ケンちゃん!エレンの後ろ!」
エレンが走ってくる。その後ろに、偽人間を背中と腰につけたままの松中博士。その横に吉田。二人の後ろから、八人の偽人間が追ってきている。
藤原がルミに指示する。
「テールゲートを開けるんだ!」
慌てて、ルミが助手席から飛び出て、テールゲートを開け、助手席に戻った。
エルグランドワゴンが、少しずつ進みだす。
エレンが追いついて、後ろから乗り込んだ。
松中博士は止まって振り向き、背中の偽人間の腕を掴んで投げ飛ばした。腰の偽人間は、吉田が腕を蹴り飛ばして外した。
エルグランドワゴンは、人間の駆け足ぐらいの速度で走っているので、かなり離れてしまった。
「吉田さん、私の背中に掴まってください」
「え!」
「早く!」
いわれるまま、吉田は掴まった。
偽人間の手が届きそうなところまで追いつかれたが、松中博士は背中に吉田を乗せて走り出した。
「全速モードで走ります。落とされないように!」
偽人間を離して、エルグランドワゴンに近づいて来る。
ルミが偽人間レーダーを見て、また不安そうに、
「ケンちゃん、二つの点が、すごい速さで追ってくるよ」
「乗り物に乗ってるんだ!」
松中博士と吉田が、エルグランドワゴンに追いつき、乗り込んだ。
だが、後ろからバイクが二台追いかけてきた。
パワー不足のエルグランドワゴンと、偽人間のバイクとの距離が、じりじりと縮まってくる。
ルミが軽い感じで藤原に、
「ケンちゃん、追いつかれるよ」
「パワーがねぇんだ!」
後ろを見たエレンが、
「ニ匹だけさね。止まって排除すればいいさね」
ルミが偽人間レーダーをエレンに見せた。
八個の点が、まだ追ってきている。
「あいつら、疲れを知らないから、走り続けてるさね。止まって排除してたら、追いつかれるかもしれないね」
ルミが藤原に、
「けんちゃん、運転を代わって」
「ガキの出る幕じゃねぇ!」
後ろに座っているエレンが加わった。
「脳剣、ルミに代わんな。あんたの運転より確かさ」
「そんなわけねぇーだろ!だいいち、どうやって助手席のルミと入れかるんだ、化け猫」
ルミが藤原の方を向いて、
「大丈夫、少しシートを下げといて。ベンチシート風に改造してるから、けんちゃんの上に、あたしが乗る。それで、ケンちゃんは、真ん中に移動してから助手席に移動すればいいのよ」
「そんなことしてる間に、追いつかれちまう!」
「アクセルは全開のまま踏んでてね。シートを下げて。行くわよ」
ルミは、藤原の上に、体重をなるべくのせないように、藤原の上に座った。エレンは、藤原の顔が少し赤らんだように見えた。
ルミが藤原の足の上から、アクセルを踏んだ、
「アクセルから、足を抜いて」
一瞬、ルミは、アクセルから足を離した。その隙に藤原は足をアクセルから外した。
すぐさま、ルミがアクセルを踏んだ。
「いまよ、助手席に移動して!」
真ん中のシートに座った藤原は、そのまま助手席へ移動した。
ハンドルを握ったルミは、オートマチックギアを2という数字に入れた。途端にエンジンの唸り音が変わる。
ルミが松中博士に話しかけた。
「ドク、このあたりにある、長めの直線道路を教えて。出来れば高速道路がいいわ」
ルミが独り言を始めた。
「このエンジンは、もっと高回転まで回したほうが喜ぶのよ」
アクセルを踏んだ。
スロットルが全開になる!
五人を乗せた大きなワゴン車なのに、強烈な加速を始めた。
エレンはルミに、
「あんた、またこのクルマも改造したのかい!」
「当たり前でしょ、スライムや偽人間相手に、普通のワゴンで戦えるわけないわよ!」
松中博士が、
「そこを右に曲がって左に行けば、短いがほとんど直線の道路だ。そのまま走れば、高速道路が見えるはず」
タイヤを軋ませながら、右に曲がった。偽人間のバイクが追いついた。
次を左に曲がると、バイクも一緒に曲がってきた。
だが、すでに直線の道路だ。
アクセルペダルを踏み込むと、スロットルが全開となった。ブースト計の針がニキロを指している。
タコメーターが七千回転を示したとき、ルミは、オートマチックのギアを3に入れた。
シートに張り付きそうな加速だ!
「オイオイ、速すぎるんじゃねーか!」
藤原の焦りの声に、ルミは何を勘違いしたのか明るい声で、
「大丈夫よ、車が壊れると思ってるんでしょ」
スピードメーターは、百五十キロを指している。
そんなスピードの中、彼女は車の説明を始めた。
「この車に付いてたVQってエンジンは、ターボ付けるのに向かないから、VGって頑丈なエンジンに載せ替えたの。パパの友達のチューニングショップに電話したら、すごいエンジンがあったのよ。三千四百四CCまで排気量を上げて、九百馬力以上あるんじゃないかって言ってたわ」
そのまま高速道路に乗った。スピードメーターは百七十キロを指していた。
ルミは、よほど聞いてほしかったのか、助手席の藤原の方を向いて喋りだした。
「ケンちゃん聞いてよ、でね、強化したレース用のオートマチックも付いてたの。おじさんが、古いエンジンだからって、すっごい安い...」
藤原は叫んだ。
「前見て運転しろよ!!」
エレンが、
「ルミ、とっくに奴らは見えなくなってるよ」
ルミはスピードを落として、明るく、
「OK! 助かったね」
藤原はハアハア言いながらルミに、
「あんたのチューニングも運転も確かだったが、前は見るもんだぜ」
後ろからエレンが
「脳剣、あんたさっきルミが上に乗った時、ドキッとして、照れただろ。あたしゃ匂いでわかるんだよ。いいかい、ルミには手を出すんじゃないよ」
藤原は冷静を装いながら、
「ば、化け猫、何を言いやがる。テメェの鼻はバカ鼻なのか」
「フン、猫の嗅覚を舐めんじゃないよ」




