エレン病院へ侵入。そして藤原は
五人を乗せたエルグランドワゴンを、藤原はビルの建設現場と病院の間にある四車線の国道沿いのコインパーキングに止めた。
四人はワゴンから出て、吉田と藤原は建設現場へ、エレンと松中博士は病院へと向かった。
車にいるのは、助手席に座っているルミだけとなった。
松中博士が作って渡した、偽人間を探知するレーダーを小さなショルダーバッグから出して、ダッシュボードの上へ置いた。ちょうどスマホぐらいの大きさだ。
「もしもレーダーが反応したら、あたしらを置いて、車で逃げるんだよ。約束しておくれ」
エレンと松中博士からこう言われていたのだ。
黒い野球帽に黒いTシャツ、デニム姿のエレンと濃い緑のスーツに緑のネクタイを着た松中博士は、夜の病院へやって来た。
病院内は室内灯が点き、表の駐車場は、ライトが煌々と照らしている。
「ドク、表は明るすぎるさね。裏へまわろう」
病院はブロック塀で囲われ、裏は細い路地を挟んで隣はビルの裏側だった。人影はなかった。
「あたしが先に行って、鍵を開けとくよ。ドクは一旦ここから離れて、五分後に入ってきておくれ」
周りを確認してからエレンが小さな猫の姿になり、服から出てきた。
「ドク、後で服を持ってきておくれ」
エレンは、三メートル程のブロック塀に飛びのり、上を歩きだした。
開いてる窓を見つけ、
「トイレか。あたしにゃちょうどいい窓の大きさだけど、ドクにはちょっと小さいね。まあ、ここから侵入するさね」
トイレにジャンプして入り、入り口のドアをそっと開け、音もなく歩いていく。
診察室と書いてあるプレートが目に入った。
横に開く扉を開けて中に入り、窓のロックを開けて顔を出した。
エレンが窓から顔を出すと、ちょうど松中博士が、病院の建物とブロック塀の間を歩いてきている。
エレンに気づいた松中博士は、その窓から病院へ侵入した。
明るい電灯の廊下を松中博士と小さな猫の姿のエレンが歩いている。
「エレン、ルミのいったとおり、変装したほうが良かったかもしれないね」
「あたしゃ、看護師の格好なんてしたかないさね」
「セクシー婦人警官の格好は似合ってたじゃないか」
「また、思い出して笑ってるさね。ドクがコスプレしたときは、倍にして笑ってやるさよ」
二人は非常階段のマークを見つけた。
「エレン、ここを見てみよう」
ドアを開けたが、地下へ続く階段はなかった。
「ドク、吉田の信号はどのあたりさね」
「こちらに近づいているが、もう少し時間が、掛かりそうだ」
「地下へは、どうやって降りるさね」
「隠れた階段かエレベーターがあるはずだよ。探すしかないだろうね」
非常階段の扉を閉めて、廊下を先に進む。その先にエレベーターが見えた。
「エレベーターの表示には地下がないね」
「ドク、乗ってみるさね」
松中博士がボタンを押そうとしたとき、エレベーターが下へ動き出した。
「エレン、あそこまで下がって、隠れよう」
だが、誰も降りてこない。
エレベーターに戻ると、一階のマークが光っているにも関わらず、一階には止まっていなかった。
「エレン、ここのようだね。戦闘になりそうだ。人間の姿になって、服を着ておくれ」
エレンは服を着ながら、
「どうやって、地下へ降りるんだい?」
「簡単なことさ」
松中博士は、エレベーターのドアを両手で開けた。
半分ぐらい開けたドアから見える、エレベーターを吊っているワイヤーを指差し、
「ここをつたって降りればいいのさ」
「服が汚れそうだね」
「エレン、先に降りておくれ。私はエレベーターのドアを閉めてから降りる」
両手でワイヤーを持ち、足をワイヤーに絡ませて、エレンが降りていった。
松中博士博士は、片手を水平にしてワイヤーを持ち、反対の手でエレベーターのドアを閉めた。
そして、片手でワイヤーを持ったまま降りていく。
松中博士がエレベーターの上に到着した頃には、エレンは天井を開けて、エレベーター内に降りていた。
松中博士もエレベーター内に降りると、ドアは開いた状態で止まっている。
エレンがドアの外で待っていた。地下道はトンネルのようにコンクリートでできている。
「ドク、吉田はどのあたりさね」
「この少し先を歩いている。行ってみよう」
ーその頃ー
吉田の後を追っていた藤原の前に現れたのは、弟のように可愛がっていた三島だった。
あの頃の笑顔で近づいてきて、懐かしい声で話しかけてきた。
「隊長、お元気でしたか?」
藤原もニコッとした笑顔で近づき、思念の剣を三島のAIがある場所めがけて一気に突き刺した。
三島の体は、糸を切られた操り人形のように、崩れて動かなくなった。
元藤原部隊の残り八人が姿を現した。
副隊長だった木村が非難するように、
「三島を殺すなんてひどいですよ。我々は仲間だったじゃないですか」
北島が藤原に近づきながら、
「隊長も我々の仲間になってください」
藤原は無言で、機関銃をAIめがけて連射した。銃弾は確かにAIに命中しているようだが、偽人間が死ぬことはなかった。
木村は笑いながら、
「隊長、機関銃程度じゃ我々は殺せませんよ。でも、隊長は機関銃程度で死にますよね。死ぬ寸前に我々が取り込んであげます。永遠に仲間として生きれますよ」
狭い通路は二人が横に並ぶ幅しかない。二人の隊員が前に出て、機関銃を構えた。
藤原は、思念増幅装置の柄を右手で握ると、二人に向って走り出した。
隊員の指が引き金にかかる前に、居合の要領で思念増幅装置を抜きながら、鍔を親指で押し上げた。スイッチである。
思念の刃が、一気に三倍に伸び、AIのあるあたりを二人まとめて、右手で横になぎ払った。
その間、左手をベルトの後ろに吊っている、ディバイスポケットに入れ、思念の刃を警戒している元隊員たちに気づかれぬように、使い捨てライターほどの大きさのものを、元隊員の方へ転がした。
「てめぇらスライムは皆殺しだ」
二人の隊員は、AIを破壊され、崩れ落ちた。
後ろにいた隊員二人が、機関銃を藤原めがけて撃った。と同時に、使い捨てライターほどの大きさの小型手榴弾が足元で爆発し、二人の元隊員の足が吹き飛んだ。
藤原は、頭部と顔を銃弾から守るため、腕を交差させた。と同時に、もう一度、二発の小型手榴弾を投げこんだ。
銃弾を数発胸に受けたが、ダメージはない。
「お互い、防弾防刃スーツでは、決着が着きにくいが...」
後にいた四人の隊員の足元で、小型手榴弾が爆発した。
「教えたはずだぜ、相手の両手両足の動きを見逃さないように気配で感じろと!」
四人の内、二人の隊員の足も吹き飛んだ。
走り出した藤原は、思念増幅装置の鉾を上に押し、もう一度スイッチを入れ、刃を三倍に伸ばし、両手で立っている副隊長の木村と山田を横薙ぎ一閃、二人まとめて、AIごと両断。
二人の隊員は、足の再生が終わろうとしている。前に立った藤原は、二人のAIを思念の刃で突き刺して潰した。倒れて、再生中の二人の部下のAIも破壊した。
倒れている隊員たちに頭を下げた。
「何もできなかったな。済まない」
最後のレクイエムを告げた。
ポケットから取り出した、大型の手榴弾を投げ込み、藤原は来た方向に向って走り出した。
藤原の息が上がる。
「ハァハァ、クソ!たった二回の三倍剣で体力の限界かよ!」
地下道が激しい爆発で揺れた。
吉田の信号を追っていたエレンと松中博士は驚いた。
「なんだこの爆発は!地下道が崩れるぞ!」
「きっと脳剣がなにかやったさね。崩れる前に逃げるさよ!」
急いでエレベーターに引き返すことにした。そこに地下道を吉田が走って戻ってきた。
「エレン、松中博士、何が起こったんですか?」
「話はあとです。崩れる前に脱出しましょう」
三人はエレベーターに乗り込み、松中博士が上昇スイッチを押した。
「偽人間の吉田さんが乗っているからだろう、エレベーターが普通に動きましたね」
「何をのんびりと言ってるさね!」
上昇中に、また、爆発音がして、左右にエレベーターが揺れた。
藤原は息を切らしながら走り、出口で大型手榴弾をポケットから抜いて、地下道へ投げ込み爆破した。
地下道が崩れ始める。
エレン、松中博士、吉田の乗ったエレベーターは一階に到着したが、ドアは開かない。松中博士がスイッチを何度も押すが、反応はなく、ドアは開かない。
「緊急装置が働いて、電源が切れたんじゃないかい。ドク、力ずくで、開けるさね!」
松中博士がドアを開けると、十人ほどの元特殊部隊と思われる偽人間を含んだセキュリティが、エレベーターの前で待ち構えていた。
エレンは口に出さなかったが、こう思っていた。
やばい状況だね。さて、どうするさね。




