吉田の情報と作戦
エレンと松中博士が隣の部屋からやってきた。
「吉田じゃねぇ。AIがエネルギー補充に俺を狙ったようだ。AIは破壊してねぇ。吉田が戻ってこれなくなるからな」
吉田の抜けた偽人間は、復元が終わりかけている。
松中博士が偽人間の正面に立った。
「エレン、大きな布、プロファブをいくつか持ってきておくれ。バラバラにして、布で包めば、ナノマシンにAIの電波が届かないから、復元出来ないはずだ」
松中博士を無視して、再び藤原を襲おうとする偽人間。
強化したアンドロイドである松中博士が、左手で手刀を振るった。
首が切れる。右の中段回し蹴りで、胴体が真っ二つになった。
エレンは持ってきたプロファブで頭部を包むと、すぐに上半身も包んだ。下半身は松中博士が包み込んだ。
藤原は、柄を腰に戻して、
「俺じゃなかったら食われていたぜ」
エレンと松中博士を見て、
「猫臭いのと機械臭いのじゃ、こいつらの食欲はそそらねぇらしいな。どっちにしても、美味そうなのは俺だけだったか」
エレンが薄ら笑いを浮かべて、
「あんたも相当不味そうだから、スライムは鼻をつまみながら襲ったんじゃないのかい」
松中博士が、
「そんなことより、人間を執拗に狙うということは、Tokyoタイムが指定したメンテナンス場所で、偽人間やスライムに人間を食わせているんじゃないか」
「松中博士、俺もそう思う。まずはそこを潰そうぜ」
復讐のためか、剣士として戦いたいのか、藤原の目は殺気をはらみ、口元だけが笑っていた。
その日の朝、ルミが自宅から、エルグランドという古いワゴン車に乗ってやってきた。
一階の入口からルミの声が聞こえた。
「みんなー、買ってきたよ。取りに降りてきて」
ワゴンのゲートを開けると、処理後の大きなブタがまるまる一匹載っていた。
松中博士がエレンとルミ、藤原に、
「何が起こるかわからない。一階で待っていてくれないか」
松中博士が、大きなブタを軽々と担いで、二階に持っていった。三等分になっている、偽人間のロープをほどき、布を外した。
再生を始め、偽人間に戻っていく。
人間の形に戻り、豚を見つけ、スライムに戻り、豚を覆って溶かして食い始めた。
食事が終わると、人間の形に戻って、動かなくなった。
ドクは階段に歩いていき、一階に向って呼んだ。
「もう大丈夫だ。動かなくなった」
エレンは二階に上ったが、藤原はリフトがニ台設置されている工場の方へ歩いていった。ビルと工場の間の敷地で、日課のように思念の刃を出して、剣の型を始めた。
ルミは、横目で見ていたが、何もいわずに、二階へ行った。
エレンがドクに、
「上手く行ったのかい」
「ああ、思ったとおり、エネルギーを与えてやれば、スリープモードになった。エサはエネルギーを補充できれば何でもいいが、知識を蓄えるため、人間を食えというプログラムがされているのだろう」
ルミが、
「それって好き嫌いのある子供と一緒で、こっちのほうが美味しいよって教えれば、人間を食べなくなるんじゃない」
ドクは、考えながら、
「ルミはいいところに気がついたが、偽人間のAIに接続して、プログラムを書き換える方法がわからない」
二階の窓から、藤原が思念の剣を振り、トレーニングをしているのが見えた。
エレンはその様子を見て、
「あれは、剣のことしか考えてないバカじゃないのか。脳まで剣士だから、今度から脳剣て呼んでやるさね」
小休止している藤原に、ルミが近づいて話しかけた。
「ねぇ、藤原さん、歳はいくつなの」
「なんの関係がある」
「いいじゃないですか、教えてくださいよ」
「二十七だ」
「なんだ、いつも眉間にシワを寄せて、誰も近づけない雰囲気を出してるから、もっと年上だと思ってました」
「よく言うぜ。この剣を借りるときに、いきなり貸せとか、挙げ句の果に高飛車に話したのは誰だよ」
「それは、藤原さんが、その武器を貸してくれないからですよ。ところで、藤原さんの下の名前はなんて言うんです?」
「なぜ、そんなことを聞く」
「理由はないですよ。ただ知りたいだけです」
「理由がないなら教えん」
「私は山本ルミ。二十ニ歳。あたしの名前を聞いたんだから、教えるのが礼儀ですよ」
「自分で勝手に紹介してるんだ。俺が言う必要はない」
一瞬考えたが、
「だが、隠す必要もないな。剣真だ」
「藤原剣真ですか。カッコいい名前ですね」
「...」
「歳もあまり変わんないし、けんちゃんて呼んでいいですか」
「スライムどもを皆殺しにするまでの間だ、好きにしろ」
「ありがとう、けんちゃん」
ルミは、戻って行った。
「...」
藤原はふと口元が緩んだ。
その日の夕方、スリープモードだった偽人間が動き出した。
偽人間の周りに、半円を描くように、戦闘態勢のエレン、ドク、藤原がいた。
殺気立った三人に吉田が、
「どうかしましたか」
吉田が戻ってきたのだ。
松中博士が尋ねる。
「吉田さんですか」
「当たり前じゃないですか。なにがあったんですか」
ドクは、朝方にアバターが藤原を襲ったこと、豚を一匹食わせたことを吉田に説明した。
「そうでしたか。本当に申し訳なかったです」
松中博士が尋ねた。
「奴らは、メンテナンス工場でアバターに人間を食わせていたという情報はないですか」
「情報を得てもどってきましたよ。藤原さんの部隊が入っていった建設現場が、アバターのメンテナンス工場なのですが、地下で裏にある三階建の病院に通じているようです」
藤原の表情は眉間のシワが深くなったようだった。
松中博士が、
「身寄りのない人や、いなくなっても疑われない人を工場で食べさせていたってことですね」
「友人に販売されているアバターを探してもらったのです。その病院の医院長や医師、看護婦もカタログに出ていたようです。そのうちの一人の看護婦に入っている男性が知り合いだったようで、いつの間にか、人がいなくなるといってたようです」
エレンは笑いながら、
「男性の看護婦はいないさね。この時代では看護師っていうさね」
「女性のアバターに接続している男性もいるのですよ。女性になりたい願望の男性も多いのです。料金は高いですが、変わったとこでは女性のアイドル歌手に接続している男性もいます」
エレンは不思議そうに、
「人間ってほんとに理解できない動物さね」
作戦会議が開かれた。結果、松中博士が作った、地下からでも届く信号発信機を吉田が持って、メンテナンス工場へ入って行くことになった。
だが、その信号を追って、藤原が一人で建設現場から侵入するといいだした。
エレンは呆れたように、
「あんた、何も考えてないね。ほんとに脳剣だよ。一人で侵入したら、殺されるだけさよ。三人で入ったほうがいいさね」
藤原はバカにすように、エレンを見て、
「化け猫みたいに弱けりゃ、みんなでおてて繋いで入らなきゃ怖いだろうが、俺は一人でスライム共を殲滅できる」
「フン、好きにすればいいさね。あたしゃ、ドクと一緒に病院側から潜入するよ」
ルミが、
「いつ決行するの?」
松中博士とエレンが同時に、
『ルミは留守番!』
「待って。そんな危ないとこには入んないけど、車に乗ってついてくだけならいいでしょ。助手席に乗っておとなしくしているから」
藤原が真剣眼差しで、
「やめたほうがいい」
ルミは切れ始めた。
「あの車は私の車よ。私には乗る権利があるわ!」
エレンは、ルミの性格を理解するようになっていた。諦めさせるのは無理だと思い、
「ルミ、おとなしく車で待ってるって約束するさね」
嬉しそうに、声のトーンまで変わった。
「さすがエレン!おとなしく待ってるって約束する。それで、いつ出発?」
「病院への侵入は暗いほうがいい。四日後が新月だから、その夜がいいと思うさね」
「わかったわ。それまでに、車を完璧に整備しておくわ。変装は必要でしょう。えーと、ドクはお医者さんの格好ね。エレンは看護師さん。ケンちゃんはサムライが似合うかな」
三人揃った答えが返ってきた。
『変装はしない!』




