エレン スライムの正体を知る
松中博士が尋ねるように、藤原に聞いた。
「こちらの吉田さんに、我々が何者かを話してくれないか。そのうえで吉田さんは何者か聞かせてほしいのだが」
藤原は吉田が未来から来たことは言わず、元弁護士で偽人間だが危害は加えないとだけ説明した。
お互いのことは理解していないが、偽人間になっていない藤原を信じ、松中博士は吉田に聞いた。
「それで吉田さんは、他の偽人間たちが集まっている場所を知っているということですね」
「ええ、調べられた場所へは案内できます」
エレンの方を向いた松中博士は、
「エレン、あとはゲンさんにも、人が突然に増えた場所を聞いておこう」
松中博士はゲンさんに酒とつまみを渡した。
「私は探偵をやっている松中と申します。川に住んでるヨシさんに紹介されて来ました。ゲンさんは顔が広くて情報がすごいとお聞きしたのですが、突然人が増えた場所やおかしな噂を聞いたとか教えていただけないですか?」
ゲンさんは酒をみんなに配り始めた。
手を止めて、松中博士の方を向き、
「ヨシさん、元気だったかい?ここにいる奴らにも聞いてやるから、飲みながら話そうや」
松中博士は、「はい」とだけいって、偽人間のことはいわず、言葉を濁した。
吉田はビールを飲みながら、ゲンさんらと話をして情報を聞いている。松中博士はビールを開けず持っているだけだ。
少し離れたベンチでは、藤原に背中を向けて、エレンはただ飲んでいる。
反対のベンチの端で、藤原もエレンに背を向けて飲んでいる。
ルミは二人の間に座り、藤原の腰のあたりを見ている。刀の柄が気になって仕方がないのだ。
ルミは藤原に声をかけた。
「あのー、その腰にあるのって、武器か何かですか?」
藤原は無愛想に返事をした。
「ああそうだよ」
ルミは目を輝かせ始めた。
「ど、どんな武器ですか?映画でよく見るレーザーの剣ですか?」
「詳細は言えない」
「かっこいい武器ですね。ワクワクします。触ってもいいですか?」
「ダメに決まってるだろ!」
「ちょっとだけですから」
ルミが触ろうとすると、藤原はよけた。もう一度触ろうとしたが、また避けられた。
ルミは立ち上がり、藤原に手を差し出して、
「それをちょっとだけ貸してください。コスプレサイトに投稿するための、カッコイイ写真を撮るだけですから」
「ダメだって言ってるだろ」
ルミはナメられたらダメだと思い、腰に手をのせて、急に高飛車に、
「あなた、この公園で寝泊まりしてるのでしょ?それをほんの少し貸してくれたら、私のところに泊めてあげてもいいわよ」
それを聞いたエレンが慌てて、
「あたしゃ、こいつと同じ屋根の下で泊まりたくないさね」
藤原は少し考えた。
「条件は二つ。俺と吉田を泊めてくれること。もう一つは、ネットに投稿しないこと。この武器は俺専用だから、誰かに見られると、アンタまで危害が及ぶ」
「わかった。それでいいわ。じゃあ貸して」
藤原は腰につけてた柄をルミに渡した。
ルミはそれを持って、スイッチを探したが、見つからない。
藤原に尋ねた。
「ねえ、これってどうやったら、レーザーの剣になるの?」
「それは、俺の思念を増幅する装置だ。俺以外はだせねーよ」
ルミは怒って、
「それって詐欺じゃん!」
「わかったよ。一瞬だけだしてやるからそれでいいだろ」
ルミはニコッとして、
「エレン、お願い。あなたのジャケット貸して。いいでしょ?あと写真も撮って」
そう言って、エレンにカメラ付きのスマホを渡した。
エレンはジャケットを脱いで、イヤイヤ付き合うことにした。
ルミがフードを被って顔を隠し、足を開いて、両手で青眼の構えをした。
藤原は柄を持って、念を込めてやった。
白っぽい透明の刃が出た。
「エレン、今撮って!」
カシャカシャとスマホから音がした。
ルミはスマホで自分の写真を見て、
「カッコいい~」
エレンは思った。
これはコスプレではないさね。
そして、奇妙な共同生活がはじまった。
ルミの父親のチューニングショップは、二階建ての鉄筋でできた小さなビルだった。一階は当時は、受付と部品のショールームだったようだ。二階は更衣室と部屋になっている。
隣にある工場に、リフトが二脚、隣に当時使っていたであろう、エルグランドというワゴンが止まっている。
二階の部屋では、テーブルを挟んで、エレンと松中博士、吉田と藤原が座っている。
ルミはテーブルのもう一方に一人で座っている。
松中博士は吉田と藤原に説明を求めた。
「ここだと誰にも聞かれない。吉田さんのことを詳しく教えてもらえますか?」
吉田は未来から来たこと、未来でのブレインテック(脳にチップを埋め込むこと)、妻の敵討ちをしたいこと、そして、スライムや偽人間の正体を話した。
松中博士が確認するように、
「整理すると、未来の会社 Tokyoタイムはこの時代にAIがコントロールするナノマシンスライムを送り込み、AIの指令でスライムが人間を食べて、ナノマシンと人工細胞でできたアバターに改造する。そして、そのアバターをTokyoタイムが主に富裕層たちへ販売しているということですね。売れていない、もしくは未来人の脳波がつながっていない状態では、TokyoタイムのAIがアバターの脳を操っている。
アバターが人間を襲う理由は、多くの人間の記憶を取り込み、AIが学習すること、そしてエネルギーの補充ですね」
吉田が補足するように、
「アバターサービスを提供するTokyoタイム社に登録してアバターを購入、もしくはレンタルすると、特殊な装置を使ってアバターのAIと自分の精神を一体化させることができるのです。AIにはその人の記憶があり、それが流れ込んでくるので、歌手にでも、格闘家でも、医者でも、男でも女でもなれるのです」
ルミが怒った様に、
「かんたんに言うと、私達のこの世界が、未来の人にとっては、ゲームの世界と同じってことでしょ。許せないよ。恵子も犠牲になってるのよ。私たち生きてんだよ!」
エレンは、
「ルミだけだよ普通の人間は。あたしゃ猫だし、ドクは、自分の研究を悪用されたことが許せない。脳に剣技のことしか詰まってないやつは、部下の敵討ち。吉田って言ったかね、妻の復讐のためさね」
松中博士が、
「エレン、動機は人それぞれさ。だからみんなこうして集まって来たんじゃないか」
松中博士が吉田に聞いた。
「なぜ、Tokyoタイムは、この時代を選んだのですか?」
「調べたところでは、タイムマシンの実験で、時間の通路ができたのがこの時代だっただけで、偶然のようです。時間の通路にはものすごい重力がかかっているので、何も通過できなかったらしいです。やがて、重力にも負けない合金を作り出し、ボール状の合金の中にこの時代でいうカメラドローンを入れて送り込み、この世界を映したのが始まりのようです」
松中博士は一番聞きたかったことを尋ねた。
「誰が、どうやってスライムの技術を作ったのです?」
吉田は首を横に振って、
「それについては、わかりません。だれも知らないようです。未来でこのアバターを購入した人は、アバターが人間を変貌させたものとは知らないのです」
松中博士とエレンは、目を合わせた。
ドクの技術が、なぜ二百年も未来で使われたさね?
今まで聞いていたエレンが、口を開いた。
「吉田の入っているこのアバターも、あんたが一旦接続を切れば、あたしたちを食おうとするのかね?」
「このアバターの場合は、記憶を消してあるので、そんなことは起こらないはずです。ただ、Tokyoタイムの説明では、接続を切る場合、エネルギー充電のために、指定している場所に預けるようにいわれてます」
藤原が、
「その指定されてるとこを叩けば、大量にアバターを排除できるじゃねーか」
吉田は、
「それでは、Tokyoタイムは大量のスライムを送り込んでくるだけです。Tokyoタイムを潰すか、アバターに接続できないようにするかしか方法はありません。アバターに接続できなければ、自然と客は来なくなります」
松中博士が吉田に尋ねた。
「具体的な作戦はあるのですか?」
「証拠を集め、裁判所に提出してみようと思います」
その夜、吉田は接続を切り、一旦未来へ戻ることを皆に告げて寝た。
寝静まった朝方、一緒の部屋で寝ていた藤原を、吉田が襲う。
スライム化して、包み込む寸前に、藤原は避けた。
転がりながら、腰の柄を抜き、吉田を横に斬り真っ二つにした。




