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スライムの正体、そしてルミがやってきた。

SFチックですが、雰囲気は変わりませんよ。


特殊部隊が入って行ったビルの建築現場 を見張っている男がいる。


しばらくたって、そこから藤原一人だけが出てきた。


ワゴン車のハイエースへ戻る藤原の後ろから、車が近づいてきている。


車の窓を開き、男が藤原に声をかけた。


「すいません、スライムについて知りたいんじゃありませんか」


藤原は訝しげに聞いた。


「あんた、偽人間だろ」


男は車を止め、


「他の隊員の方はどうしました?」


藤原は近づき、思念の刃をいつでも出せるように、ドア越しに思念増幅装置の柄を男へ向けた。思念を込めるだけで、弱点の司令塔を突き刺し、殺せる体勢だ。


殺気を放つ藤原を見て

男が笑う。


「あなたみたいなのを探してました。スライムについて教えますので、乗りませんか?」


藤原は柄を男に向けながら、車に乗り込むと、男は自己紹介を始めた。


「私の名前は吉田です。職業は弁護士。あなたのお名前をお聞きしてもいいですか?」


「名無しでいい」


「わかりました。名無しさん、どこで聞かれているかわからないので、車を走らせながら説明します」


車を走らせ、吉田は話し始めた。


「正直、どこから話せば信じてもらえるのかわかりませんが、私の意識は未来から来ました」


藤原の思念の刃は、常に吉田の急所を狙っている。


「信じる信じないは俺が決める。お前はただ話せ。いつでも殺せることを忘れるな」


吉田の運転で高速道路に入った。夜の都会の光が室内を照らしている。

「この時代からみて二百年後の未来は、ブレインテックのおかげで犯罪がほとんどありません。犯罪を考えただけで、犯罪防止システムに信号が送られるのです。殺人は百年近く起こっていませんでした。なのに、私の妻は通り魔殺人で殺されたのです。しかし、犯人は精神異常として罪になりませんでした」

藤原は眉間にシワをよせ、鋭い眼光で柄を吉田に向けたままだ。

「話は長くなりますよ。今年に入って、殺人事件が、三件起こりましたが、まだ増えるでしょう。裁判では、犯人全員が精神に異常をきたしているとして無罪になりました。犯人は富裕層の人たちです。この時代ほど貧富の差はありませんがね。犯人たちの共通点は、Tokyoタイムという会社を利用していたことです。この会社のサービスは、アバターに接続することで、昔の生活を楽しむことができるのです。あなたの時代でいうVR、AR(拡張現実)のような技術。アバターシステムというのは、この時代の人間になり、その人として生活できる技術です。VRの究極版だと思ってください」


吉田はちらりと藤原を見た。


「ここまでは理解していただけましたか?」


「偽人間の正体はアバターということだな」


「そうです。タイムマシンができたのは、十年以上前ですが、時空を歪めるのに、ブラックホールに近い重力をかけなければなりません。その重力に耐えられる金属を開発できたのが、四年ほど前だと聞いています。その金属のカプセルにカメラを入れて、過去に送ることに成功しました。しかし、生き物を過去に送ることはできなかったのです。Tokyoタイムの創始者は、この金属の中にスライムとAIを仕込み、過去の人間をアバターに変えることで、このサービスを可能にしたのです」

「スライムとAIは、人間をアバターに改造するための機械ってわけだ」


「そうです」


「Tokyoタイムって会社は、過去の時間と人間を商品として販売してるってわけだ。殺人で商売か」


「この時代も、殺し合うための道具を売って商売にしてるでしょ」


防衛省の特殊部隊であった藤原は、何も言うことができなかった。


「しかし、このサービスが、過去の人々を変貌させてアバターにしていることは誰も知りません。過去にいた人物そっくりの人造人間を、過去に送っていると思っています。私も調べるまで、この真実を知りませんでした」


「未来の奴らも、Tokyoタイムって会社に騙されてるんだな」

「そのとおりです。もう少し聞いてください。調査を進める中で、アバターシステムが利用者の精神状態に影響を与えていることを突き止めたのです。スライムは人間を包み込むことですべての細胞、神経、記憶までをスキャンすることができます。未来のシステムから、アバターのAIに接続すると元の人間の記憶が自分に流れ込み、精神が融合したような感覚になるのです。例えば、殺人犯もしくは潜在的快楽殺人者の精神が流れ込んだとしたらどうなると思います」


「続けろ」


「未来での殺人者は、衝動を抑えきれずに、この時代に来ては、どこかで快楽殺人を楽しんでいるはずです。もう一度裁判を起こし、妻の仇を取るため、証拠を探しにきました。手伝って頂けませんか?」


藤原は、話のほころびを見つけるため、執拗に質問をする。


「なぜ、アバターは人を襲う」


「たぶんですが、一つにはエネルギー補充。もう一つは、高額で販売できる人間になり変わることだと思います。有名な歌手や俳優は高額で取引されてますからね。アバターシステムは、仮想ではなく、現実の歌手として舞台に立つことができますからね」 

「俺たち特殊部隊は、なぜエネルギーではなくアバターにされた」


「あくまでも予想ですが、メンテナンス場所を守るための兵士に使われるのでは。接続されていないアバターのAIを制御しているのは、Tokyoタイムですからね」

「お前は、なぜ、あの現場にいた」

「あなた達が入っていったビルの建築現場が、メンテナンスの場所の一つだからです」


話を聞いた藤原は、信じられないと呟きながら、怒りを堪えていました。


「あんたの話を信じるなら、この時代の人間は、未来人のおもちゃってことだな」


吉田は黙っていた。


藤原は、無表情で


「イッパツ殴らせろ。そしたら、手伝わねぇが、ついてくることに文句は言わねぇ」


吉田は、ただ静かに。


「わかりました」


夜の公園にある野球場に忍び込み、藤原は吉田をボコボコ殴った。しかし、アバターである吉田には、全くきいていない。気の晴れない藤原は、柄を掴んで思念で首を切った。首はボトっと落ちたが、吉田は首を拾ってくっつけた。


藤原は、苦い顔で、


「ケッ!この辺で勘弁しといてやるよ!」


吉田は、ケロリとした顔で、


「気が済んで良かったです。それで、今後どうしますか?」


藤原は、柄を腰のベルトに戻して、


「自分で何とかするしかあるめぇ。防衛省にアバターが入り込んでるとなると、他の部隊もアバターが隊員になってる筈だからな」


藤原が吉田に聞いた。


「あんたの寝ぐらはどこだい」


吉田が、頭を掻きながら、


「家はないんですよ。誰かに見つかる可能性があるでしょ。でも、自分がいる所を仕切ってる人を知っているので、寝る場所は、確保できますよ」


藤原は真顔で、


「そいつは、アバターではないんだな」


吉田は、笑いながら、


「そんなわけ無いでしょう。私も殺人アバターを探しているのですから。ゲンさんていう、ホームレスの親分みたいな人ですよ」


「お前を信じたわけじゃねぇが、俺は藤原だ。いいか忘れるな、俺はいつでもお前を殺すことができる」


― その頃 ―


エレンと松中博士は、ゲンさんを探すため、昼間の繁華街を歩いていた。監視カメラに映るのは避けたかったが、これだけたくさんの監視カメラを避けていたのでは、ゲンさんを探すのは難しい。エレンは、フードを目一杯深くかぶっていた。松中博士も帽子を深くかぶって顔が見えないようにしている。


エレンは初めての繁華街で、人の多さに酔いそうになっていた。松中博士は何度か繁華街を歩いたことがあった。しかし、人の多いところは苦手だ。


「ドク、人間ってこんなにいるんだね。あたしゃ気分が悪くなってきたさね」


「私も精神的に疲れてきたよ」


エレンは松中博士の方を見て、


「すぐにゲンさんっていう人が見つかると思ってたさね。どうする?」


「もしかすると、ホームレスの方々は朝か夜に来るんじゃないかな?」


「昨日みたいに、インターネットで、このあたりのホームレスが集まってる場所をサーチするさね。そこで聞いてみるさね」


近くの公園で、炊き出しをやっている事がわかった。


エレンがお腹を押さえながら、


「公園に行く前に何か食べたいさね」


松中博士は、頭を軽く横に振りながら、


「ハァーいつものね」


チラッと松中博士を見て、


「寿司」


「わかったよ。どこかのコンビニで買おう」


エレンは恐る恐る、


「有名な店の寿司が食べたいな...」


「エレン、遊びに来たんじゃないよ」


エレンはがらりと態度を変え、ニヤっとして、横目で松中博士を見た。


「そうかいドク、幼稚園で子供たちを助けるときに、あたしゃ一つ貸しだよと言ったさね。言うことをきいてもらうよ」


松中博士は苦い顔つきで、


「わかったよ」


エレンは、カウンターしかない寿司屋に入った。


「これが、高級寿司屋か。感動さね」


カウンターに座ったエレンは、早速注文した。


「とりあえず、大トロ四貫と中トロ四貫、鯛ニ貫、ブリニ貫」


大将から威勢のいい声が返ってきた。


「はいよ!」


エレンの眼の前に、大トロ四貫が運ばれてきた。寿司をつまんで口に入れれ、心の中で叫んだ。


うまい!うますぎるさね!コンビニの寿司には戻れないさね!


高級寿司屋から、お腹がいっぱいになったエレンが出てきた。


松中博士は少し離れた場所で、電柱にもたれながら、スマホを弄っていた。


松中博士に向って歩きかけたとき、後ろから、聞いたことのある足音に振り返った。


「ルミ!」










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