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エレン 都会で偽人間に会う

エレンとアンドロイドになった松中博士は、ビルが立ち並ぶ都会を歩いていた。


松中博士のAIを移したアンドロイドは、戦闘力を上げるため、主に腕力と脚力のパワーをあげ、スライムのナノマシンに侵入されるのを防ぐため、シールドを施し、新しい動力で動くように変更された。


人工皮膚で覆われ、表情を得たアンドロイドは、街を歩いていても、ロボットだと気づかれることはなかった。


エレンはリュックを背負い、より人間に近い姿になっていた。

普通の猫の大きさから、人間大の猫、そして耳は多少尖ったままだが、人間の姿まで、自在に変身できるのだ。


人間の姿の時は、二十歳より少し若く見える。出発前にルミが、隣町まで行って変装するのに必要な物を買って来てくれた。エレンを目立たないようにするためだ。


髪の毛は顔の近くまで寄せて、前髪は目のすぐ上まで垂らした。野球帽を被り、ダボっとしたジャンパーのフードで顔を隠し、シンプルなデザインで、膝まで隠れる大きめのワンピースを着て体型がわからなくしている。


モデルのような体型と容姿なので、普通の格好では目立ってしまうのだ。


ルミがアンドロイドの服も買ってきてくれたのだが、若者向けのデザインで、松中博士は気に入らなかったようだ。


監視カメラを避けながら歩き、やっと見つけたスーツ専門店に入った。


高級ブランドだ。オシャレに無知な松中博士は、飾ってあるスーツを上下で購入し、顔を隠すために中折ハットと眼鏡を買った。見た目は、まるで海外の俳優のようだ。


店から出て、エレンは歩きながら、独り言のように文句を言い始めた。


「都会は空気も臭いし、人間も臭いさね。香水って言うのかい。すれ違うたびに息を止めないと匂いで死にそうになるさね。この姿だからあまり鼻がきかず助かっているけど、猫のままだと死んでたさね」


松中博士も、横を見ずに会話をしている。


「私はアンドロイドなので匂いはわからないが、マンドラゴラも他の植物や動物を連れてこなくて正解だったようだね」


「あの子たちが来てたら、この空気じゃ一日生きてられないさね」


「ところで、私は何度か都会に来たことがあるだけで、文化的なことは、インターネットで得た知識だけなんだ。研究ばかりしていたからね」


「どうやってスライムの偽人間どもを探す気だい。 ジジイが作ったスライムレーダーだって、やつらが近くに来ないと反応しないさね」


松中博士は、少しエレンの方を向いて、


「エレン、ジジイはやめてくれないか。ドクターと呼んでおくれ」


「何がドクターだい。マッドサイエンティストには、ジジイで十分さね!」


「ドラ猫」


「何かいったさね?」


「いや、何も」


「あたしゃ猫だけど、人様のものを盗んで食べたりしないさね!ホームドラマのアニメじゃあるまいし。それに野良猫でもないさね!」


「私達には家がない。ホームレスだから、野良アンドロイドと野良猫は、あたってると思うよ」


「それは、そうさね...」


「エレン、こんなのはどうだい。突然、人が多くなった地域を、ホームレスの人たちに聞くていうのは」


「防衛省と繋がってないだろうから、いい考えだと思うさね。どうやってホームレスが集まってるところを見つけるさね。ジジイのAIをインターネットに繋げたら、やつらに見つかるかもしれないさね」


松中博士は歩くのをやめて立ち止まった。


「エレン。僕はエレンと呼んでいるのにジジイは失礼じゃないか!」


「あんたがあたしの脳内にいるときは、なあ、とか、おい、とか思うだけでよかったのに、ほんとにめんどくさいことになったよ。それならドクターのドクでどうさね?」


松中博士は、何度か『ドク』と呟いてから、


「いいね。ドクでいこう」


ポケットから携帯電話を取り出した。


「私の服を購入する時に、店員さんに売ってもらったのさ。あとは、データーのみのプリペイドのシムを買えば、インターネットが使えるようになる。これでインターネットに接続できるし、ルミにもメールが送れるようになるよ」


松中博士が量販店でシムを購入し、インターネットに繋げた。


松中博士が検索をして見つけた。


「30分ほど歩いた河川敷に集まっているようだね。少し地域の問題になってるようだ」


エレンが嬉しそうにいう。


「ルミにもメールを送っておくのがいいさね」


河川敷に続く道で、松中博士とエレンは写真を撮ってルミにメールで送った。


ホームレスの二人が川で釣りをしていた。


周りにブルーシートの小屋がいくつもある。


松中博士は声を掛けた。


「釣れますか?」


釣り人は、何も言わずバケツを指差した。


松中博士はバケツを覗いて、


「 鯉ですね」


ホームレスからの返事はない。

もう一度話しかけてみた。


「 今夜のおかずですか?」


松中博士を見たホームレスの男が、


「 あんた、いい服着てるね。 私らみたいなのに 何か用があるのかい」


「 お忙しいところすいません 。少しお聞きしたいことがあるのですが、 最近、人が増えたような場所に心当たりはないですか?」


「あんた何者だい。 探偵かい」


「 そんなところです」


「仕事なら、情報料ぐらい払ってもいいんじゃないかい。酒とつまみも欲しいね」


「わかりました。買ってきます」


松中博士がエレンに小さな声で、


「買い物にいってくるから、仲良くなってておくれ」


エレンは、頷いて、ホームレスの一人に尋ねた。


「あんた、魚がほしいかね?あたしゃ捕まえられるさね」


「竿もないのにどうやって取るんだい」


ホームレスの男がエレンの顔を見て、


「帽子とフードでハッキリわからないけどよ、ねえちゃんは若いのに、ばあさんみたいな喋り方だな」


「あたしゃ、今年100歳さね」


エレンは歩き出した。

ホームレスの男が首をかしげて、エレンの後ろ姿を見てる。


五十メートルほど向こうで、エレンは大きめの釘が何本か刺さった板が落ちていたのを見つけていた。


そこまで歩いていき、男たちに見つからないように、指で大きな釘をはさみ抜いた。


川沿いを歩き、葦の茂っているとこを探し、じっとしていた。突然葦に向かってニ本の釘を投げた。


エレンが、ワンピースの裾を捲りあげて、ニ匹の浮いてきた鯉を取りに、川へ入って行く。


鯉を両手に持って、男たちのところに戻った。


男たちは驚いた。


エレンは鯉を両手に持ちながら、ワンピースを捲くり上げたままだったので、無防備にパンツが見えてしまっている。


釣りをしているホームレスがそれを見ながら。


「ねえちゃん、パンツ丸見えだよ」


エレンは不思議そうに答えた。


「パンツは、見せちゃいけないのかね」


猫であるエレンには、全く理解ができない。松中博士も教えてくれなかった。


「い、いや俺たちゃ嬉しいが、見せないほうがいいとおもうよ」


「そうかね」


エレンは鯉を地面において、捲くりあげてたワンピースを戻し思った。


(パンツとスカートの二重にしないといけないって、人間はいろいろ面倒さね。警官のコスプレしたときは、パンツなんか履いてなかったさね)


エレンは腕まくりして、


「さあ、鯉を料理するから、みんなで食べるさね。調味料とかフライパンとか持ってるかい?」


釣りをしていたホームレスが、竿を置いて立ち上がり、


「ねえちゃん、料理もできるのかい。鍋やフライパン、まな板をもって来るよ」


男は、ブルーシートの小屋の中に入って行っていき、ベニヤ板と調理器具を持ってきてエレンに渡した。


「これが俺たちのまな板さ」


エレンが持ってきたリュックから、尖そうなペティナイフを取り出した。


鯉をベニヤ板の上に置き、捌いていく。


男たちは、木を拾って火をおこし始めた。


エレンは、十年間の旅を思い出していた。


(最初の頃は、ドクのAIと意思疎通ができなくて、猫の姿でご飯を探してたさね。ホームレスのおっちゃんたちにも、ご飯をもらったことがあったな。ありがたかったさね)


遠くから、声が聞こえた。


「おーい!いっぱい持ってきたぞ」


男たち二人が、四つのレジ袋を持ってこちらに歩いてきた。


「ヨシさん、この嬢ちゃんは、誰だい?」


「今さ、酒を買いに行ってる探偵の助手さ。でもよ、すげーんだぜ、このねえちゃん。鯉を二匹も捕まえてくれたんだ」


「探偵?」


「聞きたいことがあるらしい。情報が欲しかったら、酒でも買ってこいって言ったのさ」


エレンが、今来た男たちの手に油があるのを見つけた。


「それは油だね。調味料はあるのかい」


二人とも、四つのレジ袋をエレンの前に置いた。


「ああ。今夜は鯉を食べると言ってたから、友達を回っていろいろ分けてもらったのさ。何を作るんだい」


「美味いのを作ってやるから、 黙って座っときな」


エレンは、大きな鍋に油を入れて熱し始めた。もう一つの鍋でも料理を始めた。


向こうから、松中博士が戻ってきた。大量のお酒とおつまみを男たちに渡した。


エレンがちらりと松中博士を見て、


「ドク、ちょうどいいところに帰ってきたよ。みんなで食べるところさね」


エレンはウロコと皮を剥いだ鯉を丸揚げにして、欠けた大きな皿二枚に載せた。そして鯉の上に、もう一つの鍋の中身を掛けた。


「鯉の甘酢あんかけ、野草のせ。野草も揚げてあるから、おいしさね」


男たちが酒をコップに注ぎ、乾杯しては飲んだ。


釣りをしていた男が鯉を食べた。


「お嬢ちゃん美味いよ。天才だよ。探偵さんもお嬢ちゃんも飲みなよ。俺のことは、ヨシって読んでくれ」


松中博士は手を振って、


「ヨシさん、すいません。私はアルコールアレルギーで、飲むと呼吸困難になって最悪死ぬって医者に言われてまして。申し訳ないです」


それを聞いたエレンは、下手な言い訳だと思ったが、アンドロイドなので飲めないとはいえない。


「俺はジョージ。缶コーヒーが好きなのでそう呼ばれてる。お嬢ちゃんも飲むかい?」


松中博士が庇うように、


「この子は、お酒を飲んだことがないので、今日のところは...」


エレンが言葉を遮った。


「ドク、飲む飲まないはあたしが決めるさね」


別のホームレスも話に加わった。


「俺はかまくら。お嬢ちゃんは、未成年かい」


エレン自慢げに、


「あたしゃ今年100歳さね」


男たちは、皆吹き出した。


「面白いお嬢ちゃんだ。未成年じゃなければ、一杯だけ飲んでみたらどうだい」


コップ半分に入った日本酒を渡した。


エレンは、いっきに飲み干した。


「まずくはないさね。もう一杯」


次は、コップにたっぷりと注いで渡された。エレンは、鯉を食べながら飲んだ。


「うまいさね。日本酒は魚の臭みを消すさね」


エレンは、三杯めだ。


松中博士がエレンの背中をトントンと叩いた。


「エレン、そろそろ話を聞こう」


「ドクが聞いておくさね。あたしゃ、このおっちゃんたちと、もう少し楽しく飲むさね」


松中博士は諦めたように、


「はぁー。酔っぱらいが」


松中博士は、みんなを見ながら、


「最近、急に見かけない人が増えた地域ってありますか。詳しくは言えないですが、いくつかの集落や村の人々が全員都会に出ていったようなんです」


一人の男が、


「最近、新顔が増えた気がするな。今はいないけど、そこの小屋に住んでるやつも、仕事がないって最近ここに来たよ」


「そういえば、特にあそこの南町の工場のこと、妙だと思わないか?いつも住み込みの従業員を十五人も募集してたのに、募集の張り紙がなくなってたな」


「確かに増えてると思う。いろいろなところのバイトや従業員の募集の張り紙がなくなってるからな」


「長年ホームレスやってる、ゲンさんに聞きなよ。ここから一時間ぐらいのところに繁華街がある。そこでゲンさんを探してみな。この辺りだけじゃなく、他の県のことまで知ってるよ。すごい情報網だからさ。川に住んでるヨシの紹介って言えば会ってくれるよ。酒とツマミは、忘れずに持っていきなよ」


「ありがとうございます。あと、先程いっていた、工場の場所を教えてくれませんか」


「地図を書いてやるよ」


書いた紙を渡した時、ヨシは向こう側に手を上げた。


「あいつが、新しく入ったやつでキヨってやつさ」


松中博士は、キヨを見て顔色がかわった。


「エレン、行こう。やつは人間じゃない。偽人間だ!」







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