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エレンとの別れ

第一部完結

次回から第二部


エレンはトンネルの方を見ながら、


「これで連中が死んでくれたら嬉しいさね。まあ、崖から落ちたくらいじゃ無理だろうさ。でも、これに懲りて、軍の連中は当分は来ないはずさね。明日はガードレールの修理とアンドロイドにジジイを移そうかね」


大ミミズが戻ってきた。


「ありがとうさね。明日、穴からアンドロイドを出すから手伝っておくれ」


大ミミズは首を縦に振って、出てきた穴から地中に戻っていった。


エレンは家に向かって歩き出した。


子供たちにどう言えばいいさね...


家に戻ったエレンは、リビングのドアを開けた。


駆け回っていた子供たちが一斉にエレンの方を向き、寄ってきた。


剛がエレンに聞いた。


「悪い奴らはやっつけたのか?」


レイコは心配そうに、


「大丈夫だった。叩かれなかった?」


悟はエレンの顔を見て、


「何か言いたいことがあるんでしょ」


エレンは子供たちの泣き顔を見たくなかったので、何も言えず黙っていた。


悟がエレンを見透かしたように、


「村の様子がわかったんだね。みんな化け物に変わってた?」


エレンは静かに、剛を見て、


「剛、村には、もう誰もいないさね。防衛省の連中が村をみたさね」


悟が慌てて、剛とレイコに、


「剛君、レイちゃん、僕たちは助かったんだよ!喜ぼうよ!」


剛もレイコも黙って涙を流し始めた。悟も下を向いた。


三人とも、声を出して泣き始めた。


人間との接し方を知らないエレンは、どうしたらいいのかわからず、ただ立ちすくむしかなかった。


(ジジイ、こんなときゃなんて言えばいいんだい)


(私にもわからない。泣きやむまで、一緒にいてあげよう)


ソファに座っていたルミがやって来て、両手を広げて、


「みんな!猫さんにお馬さんをしてもらおうよ。猫のお馬さんて聞いたことないでしょ」


エレンの顔が引きつった。


「ルミ!何をいってんだい!」


ルミはそれを無視して、

子供の目線に屈んだルミが、


「お姉さんもお馬さんをしてあげるから。最初は誰からかな?」


泣いているレイコを抱き上げ、


「レイちゃんは、誰に乗りたい?」


レイコは泣きながら、エレンを指差した。


それを見た剛と悟は泣きやんだ。


剛が手を挙げて、


「俺も猫に乗りたい」


ルミが悟に、


「悟君はだれがいいかな。お姉さんでいいかな?」


「僕は大丈夫だよ」


「そんなこと言わずに。じゃあ、猫さんに乗ってみようよ」


エレンはルミの言動に驚きすぎて何も言えず、ただ突っ立っていた。


ルミはエレンに向かって、


「猫さん、レイちゃんが乗るから四つんばいになって」


エレンは渋々四つんばいになった。背中にレイコを乗せて、リビングを回り始めた。


ヒヒーンと馬の真似をしたエレンにレイコが、


「猫さんはニャーですよ。ニャーっていって」


「ニャー」


あたしゃ情ないよ。そう思いながら、エレンはニコニコしていた。


松中博士の声が聞こえてきた。


(エレン、楽しそうじゃないか。人間も悪くないだろ)


(黙んな)


レイコの顔が笑顔になっていく。


夜が更けていき、疲れた子供たちは寝息をたて始めた。


エレンとルミがソファに座っている。


「猫さん、今日はありがとう。猫さんいなかったら、私達どうなっていたことか。もし、猫さんが困ったときは、きっと私が助けるからね」


「あたしゃ誰の助けもいらないよ。ルミが困ったときに私が助けるさね」



翌朝、エレンは森の中へと入って行った。エレンが育てた奇怪な植物達が生えている。


大きなハエトリ草のような植物が見えた。高さはニメートル程。太い茎が上に伸び、茎からは、たくさんの二十センチ程のハエトリ草のような葉が生えている。一番上には五十センチ程の大きなハエトリ草が生えていた。


一番上の大きなハエトリ草のような葉は、雑食だが、主に爬虫類や小動物を捕食する。茎を曲げて、二メートル上空から襲いかかるのだ。


エレンはやさしく声をかけた。


「もうすぐ旅に出るさね。また、すぐに戻ってくるさね」


声をかけながら、カゴから小型のイグアナを出して、一番上の葉の前に持っていった。葉はイグアナめがけて前に動いて噛み付くように食べた。エレンにはいつも餌を貰っているので襲ったりはしないし、葉を取っても怒らない。


巨大ハエトリ草一本一本に声をかけて、イグアナをあげていった。


森を歩いていると、木から蔓がぶら下がり、ウツボカズラのような物がたくさんぶら下がっている。中には五十センチ以上のものもある。


それを越えて森の奥に入って行くと、ヒグマが寝ていた。


「ビッグ!起きるさね」


熊は聞こえていないようで、スースー寝ている。


エレンは首にまたがって、両耳を引っ張った。


熊は怒って首に乗ってるエレンを叩こうとしたが、クルッと前方に回転して降りた。


寝ぼけているヒグマは、右手を振って襲ってきた。


エレンは左腕をくの字にして、横薙ぎに振るってきた熊の右手を受けた。両足がズズズズズと地面にめり込んだ。そして、ジャンプし、右手でヒグマの顔を平手打ちした。


「ビック、起きな!」


熊はハッとして頭を下げた。

「ガウガウ、ゴウゴウ!」


「謝らなくていいさね。ちょっと手伝ってほしいさね」


熊は頭を上下に振った。



巨大なミミズは、落とし穴からアンドロイドを押し上げた。

ナノマシンの阻害装置が体の中に入り込み、作動しているのでアンドロイドは動かない。

アンドロイドの身長は、百八十センチ前後、重量百三十キロは超えていると予想した。エレンが背負うには重すぎる。

アンドロイドをヒグマの背に乗せ、家に戻った。

扉が開き、アンドロイドを背中に載せている巨大な熊が、階段から降りてきた。

みんな悲鳴を上げて逃げ出したが、猿のコンだけは、

「キキー」

と熊に挨拶した。

エレンが階段から降りてきて、

「大丈夫さね。この熊は仲間だよ」

エレンは研究室の扉を開き、熊に指示した。

「ここに入れてほしいさね」

熊はアンドロイドを背中から下ろし、両手で持ち上げて大きな作業台の上に載せた。

「ありがとうよ、ビッグ。こっちにおいで」

研究室を出て、台所の方へ連れて行った。

エレンは大きな冷蔵庫から大きなイグアナを取り出し、熊に与えた。

エレンはビックに、

「あたしゃ、少し旅に出るよ。よく聞いておくれ、人間がこの山に銃を持って侵入するかもしれない。できるだけ多くの動物に知らせて、隣の山に移るんだよ」

熊は頭を上下させ、イグアナを咥えて出て行った。

研究室に戻ったエレンは、アンドロイドの頭部を分解し、AIを取り外し始めた。その光景を見ていたルミが、横から声をかけた。

「こんな構造だったのね」

「理解できるかい?」

「機械のことは得意なの」

「AIを取り外したら、ルミにも外装の取り外しを手伝ってもらえるかい」

「もちろんよ」

特殊な工具を使い、外装を取り外していく。エレンは水筒のようなものを持ち出し、横にあるスイッチをオンにした。すると、ナノマシンが集まり、水筒の中に戻っていった。

ルミはそれを見て、

「まるでスライムみたい」

と言ったが、エレンは何も言わなかった。

カバーが外されたアンドロイドは、まさに機械そのものだ。

エレンは自ら後頭部に銃型の注射で麻酔を打ち、自分で後頭部を十センチ切開した。

「猫さん、何を...」

エレンはそこから5センチ四方で高さが1ミリにも満たないものを取り出し、テーブルの上に置いた。

「ルミ、ホッチキスがあるだろう。それでここを縫っておくれ」

エレンは血が出ている後頭部をルミの方に向けた。

ルミは気持ち悪そうに、ホッチキスで縫っていく。

「大丈夫ですか?」

「ああ、半日もすれば傷は塞がるさね」

取り出したAIをアンドロイドに取り付けた。もともと、このAIを取り付けるために、松中博士が設計開発したアンドロイドだ。

人間を助けるためのヘルパーとして開発したが、防衛省が兵士に改造したのだ。

アンドロイドは起き上がり、動き始めた。

ルミに方を向いて、ルミに握手を求めた。

「初めまして、松中です」

ルミはあっけにとられながらも握手し、目が輝きだした。

「ロボットなんですよね。かっこいい!ワクワクします!」

「エレン、このアンドロイドのパワーを上げて、外装を強化して、スライムに侵されないようにシールドする。表情も豊かに動くようにして、人工皮膚を被せる。手伝っておくれ」

「私も手伝います。でも、その前に自己紹介をさせてください」

ルミは年齢22歳で、趣味はコスプレだと自己紹介した。

「猫さんは?」

「自己紹介なんてしないさね」

「じゃあ、名前と年齢を教えてください」

ほとんど人と会話をしたことがないエレンは恥ずかしそうに横を向きながら、

「あたしゃエレン」

と答えた。

「かっこいい名前ですね。歳は?」

「百歳さね」

ルミは言葉が出なかった。やがて興奮した声で質問した。

「百年前に生まれたってことですか?やっぱり妖怪じゃないですか!」

「ルミが歳を聞いたから、百歳と答えたさね。百年前に生まれたとは言ってないさね」

「何年前に生まれたんですか?」

「二十年前さね。猫の年齢は一年で一歳じゃないさね」

ルミはエレンの年齢を聞いて、距離を縮め始めた。

「じゃあ、ほとんど同い年だね」

「ルミは22歳であたしゃ百歳さ。どっちが歳上さね」

ルミは笑顔でお姉さんぶったように、

「わかったわよ。これからはエレンって呼ぶね。それから、タメ語で話すから」

「好きにすればいいさね」

アンドロイドの改造は、松中博士の指示に従って二日がかりで完了した。

ルミがエレンに、

「作業が終わったね」

二人はリビングでお茶を飲みながら、子供たちを見つめて、

ルミがため息をついて、

「この子たちをどうしようかしら。私には育てられないから、可哀想だけど、どこかに預けるしかないわよね」

松中博士がやって来た。

「施設に預けるしかないだろうね」

アンドロイドの耳は、離れていても会話が聞こえるようだ。

「子供たちを預かってくれるところを探すのに、車は必要だよ。ルミ、君の車を直そう。せっかくチューニングしたんだから」

エレンも、

「そうさね。力持ちのアンドロイドがいるから、こき使ってやるさね」

ボロボロのシルエイティの前に、松中博士のアンドロイドとルミが立っている。

ルミはボロボロになった自分の車を見て悲しくなった。落ち込んだ声で、

「やっぱり、直すのは無理だよ」

松中博士は、前の部分を引っ張り出し、曲がっている部分を、指で引っ張り、ボディのシワを伸ばしていく。

「松中さん、すっごい!」

諦めていたルミも動き出した。

ルミはフレームを指差して、

「ねえ松中さん、ここも引っ張れる?」

表情ができるようになった松中アンドロイドは、柔らかい表情で左目でウインクしながら、

「ノープロブレム!」

フレーム修正機のように、車を真っ直ぐに直していく。

ルミが車を直している間、エレンは森の中に入っていき、動物たちに、人間がこの山に入ってくる可能性があるので、隣の山に移動するよう伝え歩き回った。

ルミの車の修理が終わったときは、別れの時だ。

エレンはルミの前に立ち、少し照れくさそうに言った。

「メールを送るさね」

「うん、必ず返事するからね」

ルミは笑顔で答えた。

レイコは泣きながらエレンに抱きつき、

「エレンちゃん、エレンちゃん...」

剛は、

「猫、また会えるか?」

「会いに行くさよ」

悟は、瞳を少し潤ませて、

「エレンさん、僕たちどんなことがあっても生きていくよ」

二台の車は山を下り、別々の道に分かれて走り去った。

運転をしている松中博士に、

「ジジイ、人間の友達ができたさね。変な気分だよ」

エレンはそう言って、嬉しそうにニヤニヤしていた。




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