その5 火宮さんと花子さん(2)
紆余曲折あって、火宮さんと同じ布団で添い寝することになった訳だが、当然のように一睡もすることができず、そのまま2時を迎えたのだった。
人生で最も長い7時間だった…
休息どころか消耗、なんなら老化したくらいの気持ちである。
げっそりなボクと違い、火宮さんはきっちり2時に起き、また制服に着替えて早々と準備を整えた。
半端な時間に寝て、半端な時間に起きたというのに寝つきも寝起きも良すぎる。
長い髪をツインテールに結び直し、すっかり完全体火宮さんだ。
「それではゆこう!七不思議の真実を解き明かしに!!」
おー。ボクはと力なく手を上げて答えた。
まずは花子さんのリベンジだ。
そんなわけで、意気揚々と七不思議の調査に乗り出した我々だったけども、出鼻をくじかれる事態になっていた。
デジャビュかな?
つまるところリベンジ虚しく結局花子さんは現れなかったのである。
昼間と違って真っ暗な女子トイレは、いつ魑魅魍魎が飛び出してきてもおかしくないようなおどろおどろしさであったけど、いくら呼びかけても帰ってくるのは静寂だけだった。
「やっぱり何にも起きませんね…」
この調査のために学校に泊まる羽目になったわけだが、正直落胆よりも安堵が大きかった。
実際に夜の学校をスマホのライトだけを頼りに探索するのは普通に怖い。本当に花子さんが出てきたらと思うと恐ろしすぎる。
別に怪談を信じているわけではないけど、夜の学校にはそれもありえなくないんじゃないかと思わせるような迫力がある。
ちらりと火宮さんを盗み見る。
暗くて表情までは読み取れないが、何やら考え込んでいる様子だ。流石の火宮さんも肩透かしを喰らってがっかりしているのかもしれない。
「では次の調査に向かうとするか!」
しかし、返ってくる声は思ったよりいつも通りだった。
「花子さんはもういいんですか?」
火宮さんにしてはやけにあっさり諦める。いつもなら真実を突き止めるまで突っ走り続けるのに。
いやまぁ、こうして何も起こらない以上、真実は『噂はデマ』だったということになるのだけど。
「もともと花子さんの噂についてはあまり期待はしていなかったからな。こうして夜に訪れたのも念の為というヤツだ」
念の為で学校に泊まり込むハメになったいるのかボクは…。
「期待していなかったというのは?」
「花子さんについては目撃証言もなかったし、他の噂に比べて七不思議らしすぎると思っていたんだ」
七不思議らしすぎる?どういうことだろうか。
「つまるところ、この噂には探偵のカンがびびっとこないという話さ」
「はぁ…」
よくわからないが、ともかく花子さんの噂が空振りなのは火宮さん的には想定内のようだ。
ボクとしてはこのまま他の噂も空振りであって欲しいと思うけれど。
「ともかく、次の調査に向かおう」
そう言って女子トイレから出る火宮さん。置いていかれないように急いでついていく。
「それで、次の七不思議はどんな話なんですか?」
「それはな……」