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その11 火宮さんと図書室の妖精(2)

「二人は…魔法って信じる?」「信じますよ」


「はやっ!!!」


間宮先輩の問いに爆速で答える、『信じ』くらいのところでもう答えていた。


先ほどまで深きものだとか邪神だとかと邂逅を果たしてきたのだから、今更魔法なんて信じられないわけがない。


火宮さんも同様にうなずいている。


呆気にとられつつ間宮先輩が続ける。


「その…俺の家系は代々魔法使いってやつなんだけど…」


「そうなんですね」


「さっきの喋って飛んでた本が魔導書ってやつで…」


「なるほど」


「…あんまり受け入れられすぎると逆にやりづらいな…」


物分かりが良すぎて逆に困惑させてしまったようだ。


「なんでその魔導書とやら学校に?」


火宮さんが質問する。


「それはな…あれは実はうちのおばあちゃんが残したものなんだ。


さっき代々魔法使いをやってるって言っただろ?当然おばあちゃんも魔法使いだったんだけど…。


おばあちゃんもこの学校に通っていたらしくてな。


その時に魔導書の何冊かを図書室に紛れ込ませたみたいなんだ。」


間宮先輩が申し訳なさそうに言う。


それにしても祖母がこの学園に通っていたとは。確か設立から100年は経っていたはずだからありえない話ではないのだろうけど。


「それにしても、なんでそんなことを?」


「おばあちゃんは死んじまってるから本当のところはわからないけど、俺はイタズラなんじゃないかと思ってる。そういうのが好きな人だったんだ。


魔導書は書いた人間によってその性格が変わるんだけど、うちの家にある魔導書もイタズラ好きのやつばっかりなんだ」


何かを思い出したのか、げっそりとしながら言う。相当苦労しているようだ…。


「俺もここの魔導書に気付いたのはつい最近なんだ。


この学園に七不思議ってやつがあるだろ?」


ボクと火宮さんは力強くうなずく。ボクたちはその調査にこそ来たのだから。


「アレの『図書室の妖精』って話を聞いてピンと来たんだ。これはたぶん魔導書の事だなって。


それで夜の間にこっそりと回収しようとして…」


「あの状況になった。という訳ですね」


「あぁ…」


捕まえるどころか返り討ちにされてしまったと。


「魔導書は名前の通り魔法について記した本で、素質がある人が読むことでその魔法が使えるようになるんだけど…。


魔導書自体も意識を持っいて、あんな感じで飛び回るし、それに、たまにそこに記された魔法を使うことができるやつもいるんだ」


魔導書も魔法を使えるということらしい。間宮先輩が返り討ちにあったのもそこに原因がありそうだ。


「ちなみに…間宮先輩も魔法使いってことは、何か魔法が使えるんですよね?」


期待を込めた目で間宮先輩を見つめると、先輩はバツの悪そうな顔をした。


「一応使えはする…んだが…」


その時──


「クスクスクスッ」


小さな笑い声が耳に届いた。


「危ない!!」


火宮さんがボクの手を引く。


ドサドサドサッ!!ボクがいた位置に本棚から大量の本が降り注いだ。


危なかった…火宮さんがいなかったらボクも間宮先輩の二の舞だった。


一安心していると、そこらじゅうの本がガタガタと震え始める。


「やばい、走れ!」


間宮先輩の声にはじかれるようにして走り出す。


一瞬前にいたところに付近の棚から本が降り注いでいく。


止まったら生き埋めになる!


「勉強スペースまで走るぞ!!」


火宮さんの言う通りに勉強スペースに滑り込む。


勉強スペースは開けた空間になっており付近に本棚がない。


落ちてくる本がないため安全な空間になっていた。


ボクは乱れた息を整える。


その間も火宮さんは周りを警戒していた。


「とりあえずここにいれば安全のようだな」


「はぁ…はぁ…間宮先輩、さっきのが…」


「あぁ。魔導書…それも『落下』の魔法の魔導書だ…」


クスクスという笑い声は本棚の列の中へ消えていく。


再び隠れたようだ。


「アレは厄介だな…。捕まえようと再び本棚に近づけばさっきのように攻撃してくるだろう」


火宮さんが冷静に分析する。


「そもそも捕まえられるんですか?」


「あぁ、それは…」


間宮先輩がごそごそとポケットを漁る。出てきたのは銀の細いチェーンだった。


「この鎖を巻き付ければ、魔導書を封印できるんだが…」


「近づくのが難しい…って話ですね…」


なすすべのないボクらをあざ笑うようにクスクスと笑い声が響く。


「間宮先輩の魔法でどうにかできないんですか?」


「すまない…俺の魔法は役に立たないんだ…」


間宮先輩が申し訳なさそうに言う。先ほども魔法が使えるかという質問に言葉を濁していたけれど…


「魔法を使える力、っていうのは血の濃さに直結しているんだ。


おばあちゃんやその祖先は魔法の名に恥じない、奇跡のような現象も起こせたんだが…。


俺が使えるものはせいぜい、ちょっとものを光らせるとか、少し身動きを軽くするだとか、そんなおまじない程度の魔法しかないんだ…」


間宮先輩はそう言ってうつむいた。そこには何度もかみしめたであろう悔しさがにじんでいた。


「…すみません」


「いや、いいんだ…当然の疑問だしな」


はは…と力なく笑う間宮先輩。



「いや、間宮先輩。悲観するのはまだ早いぞ」



「え?」


火宮さんの力強い声に顔を上げる間宮先輩。


「先輩、少し確認するぞ。『落下』の魔法とやらは本以外も対象に出来るのか?」


「あ、あぁ…本以外にも高いところにある物なら落とせるけど、それが固定されていたり、あんまり大きかったり重かったりする物には効かない」


「天井ごと落ちてきたりだとか、固定されている電灯が落ちてきたりなんかはしないということだな」


間宮先輩がうなずく。


火宮さんは少し考えると高らかに宣言する。




「私に考えがある。うまくいけば魔導書を捕まえることができるはずだ。


ほかでもない、間宮先輩の魔法をつかってな」




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