その1 火宮さんとボク
「この学園には七不思議というものがある」
火宮さんは腕を組んで堂々と言い放った。
こういう時はたいていロクなことがない。入学してからたった2ヶ月程度の付き合いだけれど、ボクはもう嫌というほどそれを知っていた。
びくびくしながら次の言葉を待つ。5時間目をサボり(火宮さんに強制されて)立ち入り禁止の屋上に入り込んでいる時点で、もうびくびくというか戦々恐々な状態なのだけど。
親に連絡がいったりしないよな…。
火宮さんはそんな僕とは対照的に、わが物顔でフェンスを背に仁王立ちしている。風が彼女のツインテールを揺らす。燃えるような赤髪は青空によく映えた。
せめてもうすこししゃがんでくれ…。彼女のけして大きくない背丈でも、向こうの校舎の3階からその姿が丸見えになっているだろう。
そんなことはまるで気にしていない火宮さんが言葉を続ける。
「私は宣言する!『探偵部』部長の名に懸けて、学園七不思議の真相を明らかにすることを!!」
高らかな宣言が屋上に鳴り響く。何なら教室まで届きかねないレベル。声量落として!
ちなみに『探偵部』とは火宮さんが所属する部活である。所属というか彼女が立ちあげた部活動だ。
部員は2名。火宮さんとこのボクだ。なお入部届を出した記憶はない。
その活動目的は『この世のあらゆる謎の真実を見つける』である。
「七不思議…ですか」
「そうだ。助手くんは聞いたことないかい?」
助手くんとはボクのことだ。火宮さん知り合うことになった入学式当日の『最初の事件』以来、ボクはずっとそう呼ばれている。
「この学園にそういうのがあるっていうのは、初めて聞きました」
入学して2か月しか経っていないことを考えると、当然といえばそうだが。
「そういう噂がまことしやかにささやかれているのだよ。主に上級生や先生方の間でね」
「ここ数日私のほうで調査してみたが、実に数多くの証言をもらった。実際に遭遇したという話もね」
言いぶりからして上級生から話を聞いて回ったのだろうか。相変わらずとんでもない行動力だ。
「探偵としての勘が告げているのだよ。この学園の七不思議には”何か”があるということをね!」
「というわけでさっそく調査に向かおうじゃないか!七不思議の詳細については道すがら話すとしよう」
「まずは定番中の定番!『トイレの花子さん』だ!」
颯爽と身をひるがえす火宮さん。
よしておけばいいのに、ボクは慌ててその背を追いかけるのだった。