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七話 異種族解放同盟

 完成した研究論文の発表とかで第一著者のエミサンは各地で公演するようになって国にいることが少なくなっていた。

 その関係で魔法陣に関する研究は一回ストップして、僕は暇になった。


 この半年間はとても楽しかったけど、思い返してみると休日もなく魔法を使って疲れた。


 今日はすこし寄り道をしながら図書館に行くことにした。


「少し確かめたいんですが、ベルク様はこの半年でどれほどの魔法が使えるようになったんですか?」

「うーんと。基礎四属性は上級魔法まで、派生三属性は中級魔法まで、特殊属性は光と闇かな。一応、特殊属性はあと二つ使えるように頑張っているよ」

「もう、王宮魔導士二人分の実力があるんですね。格闘もすごいセンスでもう『間』を掴んでいるんですよね」

「血統のお陰かな。お爺ちゃんの血に助けられているよ」


 僕はこの半年である程度強くなることができた。


 魔法だけで言えば、国でも有数の魔法使いレベル。近接戦闘は近衛騎士の人たちに瞬殺されないレベル。魔法に関係することを研究していた都合上、魔法の方が得意な感じになってきている。


「エヌだって、魔法を教えて貰っているのにようやく魔力の感覚が掴めただけなんですよ。それも、ベルク様に毎晩魔力の感覚を教えて貰ってこれですよ」

「半年でも十分早いってお婆ちゃんは言っていたから、エヌだって魔法を使えるようになるよ」

「むー。ベルク様に言われるとちょっと複雑です。それにしても、サミュラス様は最近、ベルク様と距離が近すぎる気がするんですよ。一緒に本を読むとか言って、同じ椅子でベルク様を抱きしめながら本を読んでいるなんて、普通はダメですからね」


 図書館に通い始めてから、二か月ごろぐらいに師匠は僕の事を孫にすると言ってきた。

 僕としても、孫のように可愛がってくれるし、師匠の事は好きだったから孫と呼ばれるのは嬉しかった。だから、僕は師匠の事をお婆ちゃんと呼ぶことにした。


「じゃあ、今度はエヌがお婆ちゃんと読むみたいに本を読もうよ。ほら、一年前ぐらいみたいに読み聞かせとかしてよ」

「もう、しょーがないですねー。ベルク様は。頭が良くなっても強くなっても可愛いエヌの事が好きなんですから」

「うん。好きだよ」


 エヌは僕にとって大事な存在だ。


 今でこそ、僕の事を理解してくれる人が増えた。でも、みんなが僕を避けていた時からずっと僕に寄り添ってくれたエヌは僕にとって特別な人なんだ。


「そんな真っすぐ言われたら照れますね」


 エヌが繋いでいる手の力を強めつつ、もう片方の手を背に隠した。


 すこし嬉しい気持ちになった時に地面が少し傾いた気がした。


「ん?」

「どうしましたか?」

「今、地面が少し下がったような」

「そうですか? エヌは特に変わった感じはしませんでしたけど」

「少し調べてみよう」


 地下で何かが移動した? そんな感じがする。


 魔法が使われた時にする感覚はない。だから、多分気のせいかもしれない。

 でも、こういう本能的な何かは正しいことが多い。


 土魔法を応用して、不自然に下がった場所を辿っていった。


「図書館で止まっている」


 ここまで来てようやく分かった。

 図書館から知らない人たちの魔力が漏れ出ている。


「お婆ちゃんがふたをしてもこの量が漏れているってことは相当強い人たちなんだ」

「ベルク様? 申し訳ないんですけど、エヌにも分かるように教えて下さいませんか?」

「あの中に敵意を持った王宮魔法使いレベルの人たちがいる」


 魔力から殺意を感じる。

 お婆ちゃんはこの訪問を察知してか図書館の門番さんすらいない状況になっている。


「お、お客様もいるみたいなので、このまま家に帰りましょうか。館長さんは最近ハイエルフになったみたいですし、きっと大丈夫ですよ。今日はエヌと遊びましょう」

「ごめん。本気で戦ってみたい」


 エヌは僕の手を引っ張った。


「エヌとしてはベルク様の意思を尊重したいです。でも、護衛として抵抗させて貰います。エヌを引きずって行って下さい。せめてもの時間稼ぎです」


 腕を傷つけずに運ぶのは少し時間が掛かるかもしれない。


 ――――――


 図書館内部では館長のサミュラスがフードで顔を隠した五人の侵入者と対峙していた。


「これまで勧誘し続けた。しかし、貴方あなたは要請に応えてくれなかった」

「? 勧誘は断った。図書館に攻撃しない限り干渉はしないとも言った。不満?」


 侵入者の一人がフードを外した。


「私はあなたと同じ種族だ。エルフなら私たち『異種族解放同盟』の理念を理解できるだろう」

「人族以外の亜人種族の権利の主張。いいと思う」

「なら……」

「わたしは関わらない。武力行使でも国家転覆でも好きにして。図書館ここに手を出さない限りは介入しない」


 サミュラスは突き放すように言った。


「そうか。残念だ。今までならそんな曖昧な回答でも許した。だが、ハイエルフへと進化した今、その解答は我々にとっては脅威でしない。こちらに着かぬというのならば、死んでもらう」


 四人が人を飲み込むサイズの魔法を雨のように放った。


「どうだ。元々魔力に愛されたエルフの中でも長老クラスの実力を持つ者たちの攻撃。いくら貴様でも無傷では……」

「本が汚れる」


 炎の雨を一振りで消し去り、指を鳴らした。

 すると大量の本棚が動き出し端に移動し始める。本棚が積み重なり、新たな壁が作られた。


 その結果、野外の訓練場ほどの広場が一瞬で完成した。


「先に手を出したのはそっち」


 サミュラスは自身よりも一回り大きい目の前に白く燃え盛る球体を出した。


「炎極大魔法。《白炎葬はくえんそう》」


 瞬間。ビームとなった炎が侵入者たちを襲った。


「俺が受ける」


 侵入者の男が前に出た。


 炎は男を飲み込もうとしたが、斜め上に反射された。

 図書館に当たる前に消えた炎だったが、男のフードを燃やすことには成功していた。


「ミスリルの盾と鎧?」

「合金だが、魔法との相性は最高だ。っといっても、かなり摩耗まもうさせられちまった。エルフの嬢ちゃんたち。何度も受けるのは無理だ。短期決戦で頼む」

「分かった。魔法を使う源、魔力は人数有利を取ってようやく互角。サミュラス・リッター! ここがお前の墓場だ」


 数十分ほど、互いに一歩も動かずに魔法の乱打戦となった。


 多種多様な属性の魔法の打ち合いがされており、図書館に残る傷がその戦いの次元の高さを物語っていた。

 魔法使いの実力はサミュラスの方が上回っていたが、ミスリルを纏った男の防御によって戦いは互角の打ち合いをしているように見えた。


 しかし、実態は……


「完全に遊ばれているぞ。こっちが使った魔法と同じ属性をあえて使っている」

「そんなのは分かっている。想定外の強さだ。あれほど生きたエルフがなぜここまで自己研鑽を詰める? 里の百歳を超える老害どもは人生に飽きて、衰える一方なのに」

「私も半年前までは停滞してた。でも、今は違う」


 サミュラスは一冊の本を取り出した。


「これは孫がわたしの為に書いた本。二つの新たな特殊属性について書かれている」

「孫? 貴様は未婚のはずでは」

「血は繋がっていない。でも、心は繋がっている。その孫が作った魔法。まだまだ研究しないといけない部分は多い。ならば、お婆ちゃんがサポートするだけ」


 エルフたちは何かを感じて、魔法防壁を作った。


「重力魔法。《重力場グラビティゾーン》」


 その魔法は敵の魔法使いを狙ったものではなかった。


「盾が重――」

「まずは一人。空間魔ほ――」


 とどめを刺そうとした瞬間。ナイフを持った獣人の女が陰から現れ、サミュラスをナイフで攻撃した。

 微かな魔力の異変を感じたサミュラスは回避行動を取っていた。


「チッ。仕留め損ねた。次は殺す」

「痛い」


 腕を切られた上に獣人はまた背景に同化して消えてしまった。


「これほど魔法を打ち合った場所の魔力は乱れていて見えないだろう」

「闇魔法。ちょっと厄介」

「攻守交替だ」


 傷を負い、暗殺者を警戒しなければならないサミュラスの集中力は格段に落ちた。


「どうした!? ハイエルフがその程度か?」


 先ほどまでは相手の魔法をすべて消し去っていたが、受けきれない魔法も増えていき、徐々に傷が増えていく。


「決めるぞ。合わせろ!」


 魔法使いたちが魔法を掃射し、鎧の男が突っ込んできた。

 魔法防御の高い男の突進に対応するか、魔法を防御するか。この二択に迫られた結果。魔法をガードすることしかできなかった。


 盾ごと突っ込んできた男はサミュラスを押し飛ばした。


「貰った」


 飛ばされた先には暗殺者の刃が待っていた。


「お婆ちゃん。いつまで遊んでいるの?」


 サミュラスを受け止めながら、暗殺者の手首を外したベルクが現れた。



 

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