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六話 学者への道(舗装済み)

「わたしの弟子になるメリットは――」


 すごい早口で図書館の館長サミュラスは話始めた。


「一つ目、本をいっぱい読める。二つ目、ある程度好き勝手出来る権力。三つ目、いろんな所の研究者や学者との繋がり。四つ目、本を書ける。五つ目、魔法の原点であるエルフから魔法を教われる。六つ目、楽しい。あと――」

「分かりました。弟子になります」


 この人は本気だ。

 言葉というか、肩に掛かる力から絶対に逃がさないという意思を感じる。


 お爺ちゃんですら、敬意を払う相手にここまでされて断るなんて事はできない。

 それに、メリットを聞く限り僕にとっても面白そうな環境だと思う。


 家の事を考えると、長男のケサド兄さんは争う気のない僕にいたずらをする気はないと思うけど、一つ上の兄はその辺りの判断が出来ない。だから、ある程度の後ろ盾がないと手軽に手を出されてしまう。

 建国に関わったという図書館の館長。権力闘争において別格の存在で誰も触れられない聖域。この人が僕の後ろ盾になってくれれば、かなり心強い。仮に王族であっても下手に手を出そうとはしない。


 断れない事情もあるけど、受け入れたいという気持ちも強い。


「……流石、聡明な子。いろいろ考えた上での決断」


 頭を撫でられた。

 よく分からないけど嬉しかった。


「わたしの弟子。昨日の事を覚えている?」

「魔法陣のことですか?」

「敬語はダメ。もう一回」

「魔法陣のこと?」


 また撫でられた。


「その事で協力して欲しい。エミサン」

「あっ。昨日のお姉さん」


 昨日のお姉さんがやってきた。寝不足気味なのか少しやつれている。


「しょ、紹介にあずかりました。エミサン・シュトルです。先日はご迷惑を掛けました」

「あれは僕も悪いから気にしないで。それで協力って?」

「応接間の用意ある。座って話そ」


 本題に入る前に応接間に通された。


 既に紅茶コップやら資料が並べられていた。多分、本来はここに通してくれる予定だったんだろうけど、僕が変なことをしてしまったせいで立ち話が続いてしまったんだ。


「それでですね。あの魔法陣なのですが、あの後、五時間ほど水を出し続けた後に不活性化しました。そして、同じ条件で宮廷魔導師の方にやって貰ったんですが、その、再現できなくて。これだと論文が書けないんです。なので、大変申し訳ないんですけど、手伝ってくれませんか?」


 僕は師匠の方を見た。


「弟子は一緒に論文を書いてみたいって思っている?」

「うん!」

「あ、あ。あの勿論。大丈夫ですし、むしろ歓迎します! だって、サミュさんのお弟子さんですもん」


 半ば脅しみたいになっちゃったけど、僕も論文が気になる。


「なんなら第一著者も差し上げることもやぶさかではありません」

「僕は名誉とかは要らないから。ちょっと紙とペンを貸してくれないかな?」

「えっ? あっ! はい。どうぞ」


 紙とペンを借りて、魔法陣を書いた。

 見た分は書ける。それに朝起きた時に少し気になったことがあった。


 魔法陣の大きさについて。昨日は壁に大きく書いていたけど、それは過去の資料の大きさそのままに書いたと思う。なら、紙のサイズで書いてみたらどうなるんだろう。


 昨日よりも魔力の量が少ない状態で魔法陣が発動して水が出た。


「こうなるんだ」


 水は数秒だけ出て、空のコップを満たした。


「これなんですか? 新種の魔法陣ですか!?」

「いや、大きさと魔力量を変えただけだよ」

「大きさと魔力を変えても大丈夫なんですね! これは新しい知見ですよ!」


 エミサンはメモを取り始めた。


「魔力の注ぎ方さえ間違えなければ、問題はないのか。ベルクさんの魔力が特別なのか。材料には左右されない? 大きさは規模に左右されるかも。追加検証が必要かも……」


 周りが見えていないみたいだ。


「この子はたまにこうなる」

「さっきも思ったんだけど、知り合いなの?」

「エミサンは有望な子。わたしの弟子が居なくても数年後には魔法陣を活性化させてた」


 師匠は言葉が足りていないけど、要はこれまで研究を見てあげていたということなのかな。

 師匠の事をサミュさんと呼んでいたし、親しい間柄だとは思っていたけど、意外と業務的な関係性だった。


「わたしの弟子のことは各国に名が広まっている」

「魔法業界は理論よりも先に使用者の方が目立つからのう。魔法陣でも同様。今まで誰も使えなかったものを使ったことは注目されるには十分じゃ」

「しかも、三歳児。いろんな人がわたしの弟子に会いたがっている」

「それはちょっと嫌かも」


 どうせ、みんな僕の事を奇怪な目で見るに決まっている。

 ここにいる人たちはそんな目で見ないけど、他の人もそうだとは言えない。


 化け物扱いされるのは嫌だ。


「元々、図書館所属だって事にして貰って、魔力操作だけ優れているみたいな扱いにしたい」


 魔力操作()()できるみたいな扱いなら、好奇の目に晒されることは少なくなると思う。


「それは再現性が前提。わたしの弟子の感覚の部分を言語にしないといけない。でも、それはかなり難しい。検証にも必ず時間が掛かる」

「……うん。分かった」


 この研究は僕にとって重要な意味を持つ。

 正直、遊び半分の気持ちで取り掛かろうという気持ちがあったけど、その感覚は捨てないといけないみたい。


「エヌ。身の回りの世話は任せるよ。僕はこの研究に本気で取り組まないといけないみたい」

「それは何にも問題はないですよ。エヌはベルク様の所有物ですから」


 重圧を掛けられていることは分かる。この研究に何年掛かるか。ちょっとした恐怖もある。

 でも、それ以上に面白そうという期待が勝っている。


 ――――――


 あの日から、僕たちは図書館にいる時間の方が長い日が続いた。

 初めはエミサンに実験をお願いされて、僕が試すみたいなことが多かった。


 でも、研究を一緒にやるうちに要領を掴み、僕も自分で考えて実験をして記録するようになった。


 師匠はスケジュールの管理と、休憩時間に面白いと思った本を紹介してくれた。

 魔法陣以外の知識も役に立つかもしれない。そう思っていろんなことを学んだ。


 研究をする過程でいろんな人と関わった。最強の戦闘魔法使い集団と呼び声も高いである王宮魔導師団の団長さんだったり、近接戦闘の最高峰と言われるゼドアムの近衛騎士団の人たち。


 みんな僕を可愛がってくれて、いろいろと教えてくれた。

 研究以外でも魔法と近接戦闘の訓練にも付き合ってくれた。お陰で魔法の新たな境地に立てた。


 結論から言えば、魔法陣に関する論文の完成には半年掛かった。


 そして、なんやかんやあって、一般人でも実用可能な魔法陣の開発だったり、より効率的な魔法陣の作製だったりと他にもいろんな分野の研究をしていた。


 やらなきゃいけない理由は解決していたけど、僕は研究を続けた。


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