五一話 同盟内の対立構造
僕は異種族解放同盟の拠点の村にやってきていた。三種族のトップの人たちが集まってくれた。
時々来ていたけど、ここは当初よりもかなり発展した。
三年前はほとんど廃村みたいだったけど、今では立派な村になっている。
ここまで発展したのは異種族解放同盟。長いから同盟って呼んでいるけど、同盟のみんなのお陰だ。
僕は魔法陣の事業をお願いしていたけど、想像以上にお金を引っ張ってくれた。
これまでの流通は国内のみで更に裕福な人たちを相手にしていた。
同盟の理念は『他種族の平等』。これまでその活動をすることはあまりなかった。
「この三年間。この村で我慢して貰っていた。だけど、そろそろ動き始める」
「ようやくか」
エルフの女性がため息交じりに返事をしてくれた。
「どう活動するつもりなんだ?」
「まずは奴隷の解放を目指す。暴力じゃなくて、あっちのルールでね」
同盟で最低でもやらないといけないのは奴隷の解放がある。そして、特にギルケアスを中心にいる異種族を加藤種族として奴隷にする環境を変える。
「魔法陣を一般に流通させる。お偉いさんは抑えているから、僕たちが独占しても問題はない」
魔法学会で各国の要職に就く魔法使いたちと交渉をした。これで、どこの国でも僕らの魔法陣の販売に文句を言うことは難しくなった。
根回しと安全検証で三年掛かったけど、この三年のお陰で数十年に及ぶ面倒ごとを片付けられたのなら安いと思う。
「獣人のみんなが作ってくれた商会に流通は任せるね」
「承知いたしました。命に懸けてその任務を成しましょう」
そこまで気負わせる気はなかったけど、獣人の人たちは普段からこんな感じだからしょうがない。
「エルフとドワーフは引き続き生産をよろしくね。新しい魔法陣を作ったらまた制作して貰うけど大丈夫かな?」
「おう。任せとけ」
リーダーたちとの会議はすぐに終わった。
実質的に既に伝えていた計画通りの内容だった。みんな目標に向かって動いているから考えることが少なくて助かる。
リーダー会議が終わった後、僕は話したいことがあって獣人がいる場所に向かっていた。
同盟の拠点となる村では三種族がいるけど、それぞれ居住区は分かれている。
種族の特性というか、エルフたちは森の方に住んで、ドワーフは火を扱うから森から離れた場所に住みたがる。獣人はこだわりがないから真ん中に住んでいる。
獣人は種族柄、特性が変わり役割を決めている。
非力だけど頭のいい狐や猫が交渉をして、戦闘能力がある犬系の獣人が護衛をする。
同盟では三十人の獣人がいるけど、その中でも役割による社会が生み出されている。
「主ぃ!」
居住区を歩いていると、メツが飛びついて来た。相変わらず女性っぽい見た目をしている。
黒狼族のメツは戦闘者タイプで、種族レベルで闇魔法に適性を持つ。
「また匂いが濃くなりましたか? もう立派なオスですね」
「メツ。反応に困るからやめて」
「申し訳ございません」
口では謝罪しているけど、僕を抱きしめて離さない。他の男の人にこんなことをされたらむさくるしくて嫌になるけど、メツは見た目もあって嫌な感じはしない。
「それで、最近はどうなの?」
「主に教えて貰った闇魔法とツクリに作って貰った武器を使った戦闘が馴染んできました」
戦闘者の獣人を何度か指導したことがあるけど、メツは才能もさることながらやる気が桁違いだった。だから、闇魔法を教えた。
本来、闇魔法は隠密行動に役に立つ属性だけど、メツはそれらの利点をすべて捨てて攻撃のみに特化させた。
「主がいない間はぼくがみんなを守ります」
「それは頼もしいね」
メツの実力はA級冒険者にも負けないほどだ。間の認識も出来ているし、支配するまでは時間の問題だろう。
「メツさん。訓練の時間で――あ、主様だ! みんな!」
獣人のみんなが集まって来た。
僕よりは年上だけど若い世代が多い。
慕ってくれている。だけど、こんな大勢に囲まれたら対応できない。
「これこれ。主が困っているではないか」
困っているとさっきまで話していた狐獣人のお姉さん。獣人のリーダーがやって来てくれた。
「こんな場所に来ていただきありがとうございます。お話でしたらこちらへどうぞ」
「ありがとう。少し話したいことがあってね」
「メツも来なさい」
「? はい」
家の中に案内してくれた。
「主が話したいことは、現状の同盟の力関係についてでしょう?」
「うん。はっきり言って対立構造が生み出されている」
異種族解放同盟には種族の同士で目標に対する致命的な認識の違いがあった。
それは同盟が結成された経緯を知っていれば当たり前に発生する違いだったけど、今までは特に問題にはならなかった。なぜならエルフが絶対的な力を持っており、他の二つの種族は実質的に支配されている構図にあったからだ。
エルフは魔法に長け、知能も高い。戦闘力も知能も飛び抜けていた。だから、エルフたちが先導する形になっており、誰も逆らうことはなかった。
だけど、僕という存在の出現と各自が強みを生かし始めたことによって、種族間のバランスが取れ始めた。
一見、いいことのように思えるけど、拮抗した力関係はいつしか火種になってしまった。
最初は獣人とドワーフの対立だったのが、エルフを巻き込んで全体の対立になった。
「解決は簡単なのでは? 主の命令で我々は手を取っているのですから」
「僕がいるからは理由にしちゃいけないよ。せいぜい百年も生きられない個人よりも、今後何千年も続くみんなの子孫のことも考えないと」
「やはり、先の先まで考えているのですね」
平等はあまりにも難しい課題だ。
勿論、完全な平等は不可能だろう。
「あえて聞きましょうか。なぜ、そのことを私。いえ、獣人に話したのでしょうか?」
「君たちは他の種族と違って、既に人族とも関わっている。そういった政治の領域だと君たちの方が詳しいんじゃないかなって思ってね」
「政治ですか……嫌な言葉を仰られる」
獣人社会は弱肉強食。ここにいる獣人たちはその競争で負けて捨てられた人たちだ。
だから、負けたことのある政治という言葉に嫌な思い出がある。
「これから、僕らはより多くの人たちと関わる。奴隷解放をすればここの人数も増える。そうすれば、同盟は大きな揺らぎを受ける。だから、今のうちに制度の案ぐらいは持っておきたい。何かいい方法はないかな?」
「一つ。提案したいことがあります」
お姉さんは冷静に応えてくれた。
「主が各種族を娶り、その子孫をリーダーとするのです。そうすれば主が去った後でも我々は崩壊はしないでしょう」
「血統主義ね。悪くはない」
血統による支配は人族の貴族社会と同じ構造だ。
歴史を見てもこの方法が一番安定的であることは分かる。
投票による多数決の民主主義も考えたけど、今の状況では難しい。その制度は子孫を増やしやすい獣人が票を独占してしまう。
繁殖力の低いエルフに生殖を促すことができるのはメリットではあるけど、あまりにも人権を無視している方法だ。
「だけど、それは今までと同じ結果になると思う。僕が言うのはいけないかもしれないけど、僕の寵愛を受けた種族が一番になるのなら、みんな僕に媚びることになる。それは生産的じゃない」
「ええ。それに寵愛を受けられなかった者は我々みたいな獣人のように迫害されるのは目に見えております」
理想的な方法はないものかと思っていたけど、やはり難しい。
「難しいね。ありがとう。この話は他のみんなには内緒ね。メツも喋っちゃダメだよ」
「はい! よく分かりませんでしたが、守ります!」
「承知いたしました」
この話題は難しい。下手に触れれば面倒な事になる。かといって一人で抱え込めるほど単純な話じゃない。やっぱり政治は難しい。こんな小さい集団でこれだから国はもっと大変なんだろうなぁ。
次はドワーフの人たちに技術的な相談に行こう。
―――――――
ベルクが去った後。
「メツ。主はお前を気に入っている。エルフに負けるのはよいが、あの小人どもに負けることは許されん。獣人らしさで主を魅了できればいいのだが」
「姉さん。いくら貴女でも主を利用するのなら殺しますよ?」
「こらこら。そう焦るでない。我らは主の手足となれるように頑張ろうということだ。少なくともあの単細胞どもに負けるわけにはいかんのだ」
同盟にいる獣人は群れで負けた者たちの集まりだ。
リーダーの狐獣人も群れの頂点に立つオスを奪われた結果、群れを追放された過去を持つ。
そのため、強いオスであるベルクをどうにか魅了できないか考えていた。
「すべては群れの利益のため、ひいては主の利益のため」
「ぼくにはよく分からないですけど、頑張ってください。僕も主のためなら頑張るので」
メツの頭はベルクの事だけだった。




