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世界最強は善人じゃない~やりたい事だけして好きな人だけ守ります。あれ? 結局善人している?~  作者: 村岡 太一
二章 世界最強の幼児

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五十話 重力魔法(オリジナル)

 『天空』との戦いの後、僕は今年の魔法学会があるギルケアスに向かっていた。空間魔法を使っても良かったけど、公式的な行事の合間なので隠している空間魔法の存在が気付かれないように馬を乗り継ぎながら進んだ。


 魔法学会は魔法を扱う人間にとっては最高峰の権威を持つ。

 学者の人間の中にはこの学会に論文が掲載されることを目的とする人もいるほどである。


 実は僕は何度か論文を出したことがある。

 魔法陣に関する論文のほとんどは第二著者以降に名前を載せて貰ったけど、それ以外の魔法理論の何個かは僕が第一著者として名前を残している。


 賢者会の一件からこの一年は学者としての活動を多くやっていて、公演なんかもやった。その公演では僕が発表するだけじゃなくて他の人たちも発表なんかをしていた。


 学者の人たちは人生かけて特定の属性について研究する人が多くて、本で得られる知識を超える新たな知識を吸収することができた。そして、魔法陣がどれほど他の研究で利用されて、僕がどれほど影響を与えたかを実感することもできた。


 今日は魔法学会が数年に一度行っている発表会がある。


 この発表会の日は世界から魔法使いたちが集まる。移動を含めると数週間は要職に就く強い魔法使いたちがいなくなる。

 ただ、犯罪者側の魔法使いたちもこの発表会に来るので重大犯罪は起きにくい。


 各国のすごい学者や魔法使いの人たちが大きい会場に所狭しと集まっている。


 図書館の魔法陣研究班の責任者であるエミサンの発表には大きな会場に人が詰まるほどの人数を集めた。


「――以上が魔力バッテリーを用いた魔法陣の実用例と改良でした」


 魔法陣に関することはやはり、昔からやって来た第一人者に任せることにした。僕が集めたデータや一緒に行った実験もエミサンに渡している。


「この中に悪者になる人がいる。ベルクが開発したものを悪用する。でも、それはその人のせい。ベルクに罪はない」


 魔法陣を利用した犯罪は既に発生していた。幸いな事に火力としては不十分で人を殺すほどの威力は出ていない。

 それでも、犯罪利用されてしまっている。流通量が増えれば更に増えるだろう。


「でも、この中には研究をより良いものにしてくれる人もいる。それに知って貰わないと研究は意味がない。だから、難しいことは考えないでいい」

「そうだね」

「そろそろ。ベルクが出る時間」


 今日の発表会では僕も発表することになっている。魔法陣についてはかなり研究してきて、設備さえ整ったら古代都市の再現ができるレベルまで研究が進んだ。


 今回発表するのは魔法陣じゃなくて、()()()()()()()()『重力』について。

 この二年の学習の集大成として、世間には内緒でこっそりと研究していた魔法を世界に発表する機会をもらった。

 

 壇上に立つと周りがざわつき始めた。


 この学会は研究者の中でも高名な魔法使いが主にやって来る学会で、年齢層は高い。特に壇上に立つのはこの道の権威と呼ばれる人たちだけ。

 この場で話すだけでも魔法使いにおいては名誉な事。


 そんな所にこの場の誰よりも若い僕が立つ。これがどんな意味を持つか、想像にかたくない。


「初めまして。私がおおやけの場に出ることは少なかったので、自己紹介から始めます。私はゼドアムの王立図書館副館長のベルク・ザルゴルと申します」


 この一言だけで反応が別れた。


 魔法陣魔法について関係している人は僕のことを魔法陣を最初に動かした謎の研究者の正体として理解した。

 魔法に詳しい人たちは僕の事を《賢剛》ガルローの孫として認識した。


 それぞれ違った理解だったけど、反応は同じだった。


 動揺と驚き。

 多くの人が周りの人とのすり合わせを行う。会場がさらにざわめいた。


 基本的にこの場で発表を行う人の前には拡声器の効果がある魔道具が置かれている。だけど、これには出力に限りがある。今の会場には声は届かない。だから、僕は自前の魔法で声を大きくする。


「私がこの場に立つのは魔法陣魔法とは別の分野の魔法属性についてです。さて、理論は後で説明するとして、実際に見て頂きましょう」


 僕が合図をすると、巨大な天秤が運ばれて来た。

 天秤には僕よりも大きい鉄の塊が乗せられていてバランスを保っていた。


「こちらは特に何もない天秤です。こちら片側あたり1トンの重りが載っています。これを今から動かします。勿論、私は風魔法も使えますし、この天秤を傾かせる能力はあります。ですので、風魔法に自信のある方複数人にお手伝いして貰います。もし協力してくれる方がいらっしゃれば壇上に上がって頂けますか?」


 世界トップクラスの魔法使いが集まる学会で自分の風魔法に自信を持っていると自負する人はあまりいない。だから、僕は仕込みをしていた。


「拙者らが協力しよう」


 風属性の派閥『風魔会』のトップ、ゼルフィールさんを中心に風魔法の権威と呼ばれこの壇上で発表していた教授と風魔法を得意とする戦闘系魔法使いが来てくれた。


「では、会場の皆さんに見えやすいように小麦の粉塵ふんじんを風魔法で舞い上がらせておいてください。勿論、私が風魔法で干渉したら分かると思いますのでその当たりも正直に見ておいていただけると助かります」

「承知した」


 二人は完璧なコントロールで小麦の粉塵を空気中にただよわせた。

 これで風魔法を使えばすぐにバレる環境を作ったと言える。


「では、魔法を使います。これが重力魔法です」


 重りに向かって魔法を掛けた。


「おお!」


 秤がゆっくりと傾いた。粉塵には変化はない。


「風魔法は一切使われていない」


 風魔法の権威がそう言った。


「これが重力魔法です。さて、もう一つ実験をしてみましょうか。今度はこちらの鉄の塊に使います」


 僕は天秤に乗った鉄の板を持ち上げて移動させた。


「こちらにあるのは何の変哲もない鉄のボールです。こうやって落としてもなんにもなりません」


 少し上に放り投げてから鉄の板に当てたけど、鈍い音がするだけで何もならない。


「さて、次に魔法を使って投げてみると」


 ガチンッ。


 今度は鉄の球が板にめり込んだ。


「最後にもう一つ。これまでは重力を強くする実験でしたが、次は弱く。つまり軽くしてみましょう。私では実験体になれないので、どなたか失礼ですがこの板を持ち上げる自信がない。できれば、華奢な女性の方。お手伝い頂けますか?」


 一人の女性が手を上げた。


「私が行ってもいいですか?」


 登壇予定の人だけが座れる席にいた女性。『炎魔会』のトップ、エレオノール・イグニスさんだ。最大派閥のトップなのに四十台前後で比較的若い方だ。一応、事前にお願いしていた。

 一見して非力そうなのは確かだ。


「勿論です。では、まずは何もしない状態で持ち上がるかどうかお試し下さい」


 エレオノールさんは精一杯持ち上げようとしたけど、板はピクリとも動かなかった。


「では、軽くしてみましょう。今、100分の1にしました」

「いきます」


 力をゆっくり入れていき、板を少しずつ持ち上げた。


「えっ。本当に軽いです」

「では、手を放してみて下さい。思いっきりどうぞ」


 最後の実験として、1トンはある鉄の塊を落として貰うことにした。


 躊躇ちゅうちょすることなく手を離した。いくら、僕の事を信用しているとは言え、ここまで容赦なくやってくれるとは思わなかった。


 鉄の塊はゆっくりと落ちて地面に着いた。

 重量的に考えて建物を揺らすほどの力になりそうな落下物だったが、ちょっと重たい物を落とした程度の音だけを出した。


「以上が実証です。これが今回私が発表する新たな属性『重力』です」


 会場の興味が一気に向いたのが分かる。


「ご協力ありがとうございました。席にお戻りください」


 実験に協力してくれた人たちが一礼をしてから戻っていった。


「では、お手元の資料に記載しておりますが重力魔法は――」


 この後の発表は予定通り進んだ。

 実験でありえない魔法じゃないことを知ったことで、みんな理論について真剣に聞いてくれた。


「課題としてはやはり習得が難しいことがあります。現在、数名の魔法使いに教えたのですが、私と図書館長のサミュエル・リーター氏しか使えません。今後の展望としましては、重力魔法の魔法陣を作成することで物流などに利用していきたいと思っています」


 こうして、僕の学者としての発表は幕を閉じた。


 ――――――


 発表の後、いろんな人が僕の所に押しかけて来た。


 魔法使いや学者の人は勿論、商人や国の重役だったり、傭兵団を営んでいる人まで僕の所にやって来た。


「なんか申し訳なかったよ。だって、しばらくは学者として活動するつもりはないから」


 重力魔法の発表。僕はそこを一つの区切りとしていた。


「考え直す気はない?」

「うん。そろそろ実践の段階だからね」


 学者は新たなことを発見したり理論の開発など、いろんなものを生み出すことに長けている。

 三歳で魔法陣に出会ってから三年間、学者として活動してきてその面白さと楽しさは知っている。


 だけど、学だけじゃ世界は回らない。

 産業として商人や職人たちが経済を動かす必要があるし、その動きを国が正常にする必要がある。


 つまり、産学官の内、学だけじゃなくて産や官の部分もやってみたい。


 僕には産業分野として『異種族解放同盟』もあるし、官についても血筋や協力者はいる。


 独立には莫大な資産が必要になる。学で手に入れた人脈と経験を使えば多くの利益を得られる。


「分かった。意思があるなら止めない。もし、嫌になったら図書館はいつでも受け入れる。おいで」

「ありがとう。じゃあ、ちょっとお願いしてもいいかな」


 僕はフェトラに視線を向けた。すると、察してくれたのか契約書を渡してくれた。


「これは?」

「僕は悪魔と契約しているんだ」


 悪魔との契約のことはエヌと他の悪魔の契約者以外には隠していた。世界の混乱を生むことだし、隠すしかなかった。

 だけど、僕はサミュに隠し事をしたくなかった。


 僕の発言にサミュは特に動揺もしていない。知っていたのか信用なのか。それは分からないけど、大騒ぎされるとも思ってはいなかった。


「悪魔? なんの悪魔?」

「契約の悪魔だって」


 サミュは少し考えた。


「初めて聞く。どんな能力?」

「この契約書に署名したことを強制する力だよ」

「物理的に不可能なことも可能?」

「うーん。他人との契約で約束事を守らせるぐらいしか使えないかな。物理的にありえないのはペナルティと強制徴収ぐらいかな」

「他には特別な能力は? 未来を視たり、力が増したり」

「ないよ」

「それは……」


 サミュは目を見開いて、僕の隣に座った。


「悪魔として弱い子。でも、わたしのベルクは賢い。きっと、その子はいい子。どんなことになってもわたしはずっと応援する」

「ありがとう」


 何も疑うことなく契約書を書いてくれた。


「だから、たまには会いに来て。エルフで老人だから数年はすぐ。だけど、年に百は会いたい」

「うん。そんなに会えるかは分からないけど、帰ってくるよ」


 僕を撫でてくれた。


 これからはよりいろんな人たちと関わる事になる。きっと、これまで以上に醜悪な相手は多いと思う。できるだけ頑張ってみよう。



来週(12月18日)の更新はお休みします

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