四九話 最強の矜持
六歳になって一か月が経った。この一か月の前半は楽しかったけど、後半は忙しかった。
というのも、魔法学会と冒険者ギルドの件が近い日程になってしまったからだ。
どれもこれも多くの人たちが関わるから調整が難しい。
その結果、冒険者ギルドとの親善試合の三日後に魔法学会の発表になった。
そして、今日は冒険者ギルドとの親善試合の日だ。
場所はカオステリトリー近くの町『ガナルエ』。魔王種であるカオスボアが討伐された町だ。
僕はカオステリトリーの境界線に大きな闘技場を建てた。ドワーフの人たちに頼んだら一週間ぐらいで王都の闘技場に負けないぐらい大きくて頑丈なものを作ってくれた。
日程が調整できたS級冒険者が五人来ている。
冒険者ギルドに登録する六百万人の内の上位十人がS級という地位に立つことができる。
「今日はよろしくな」
一番強そうなおじさんが僕に手を差し伸べて来た。
「『天空』のみなさんとお会いできて光栄です。こちらこそ、よろしくお願いします」
今日、戦う五人は一つのパーティーに所属している。パーティー名は『天空』。天空龍を討伐することを目標としている最強と言われるパーティーだ。
結成してたった五年で全員がS級冒険者になり、リーダーに至ってはS級でも二位の評価を受けるほどだ。
強者特有の余裕のある空気感だ。
「あの忌々しい領域を見ると今は亡き祖国を思い出す。君のお爺さんには感謝しているが、復讐の機会を奪ったことには思う所がある。孫の君と戦える日を楽しみにしていた」
『天空』のメンバーは五人とも名前すら残っていない国。亡国の生き残りたちだ。
亡国の土地はカオステリトリーに侵され、住民のほとんどが異形の化け物になって死んだ。今でこそ一年あの領域で暮らさない限りは問題はないけど、元凶であるカオスボアがいた時代では数時間で絶命するほどだったらしい。
「僕もみなさんが目標としてた『天空龍』を倒してしまいました。祖父の事は関係なく僕と戦いましょう。恨みをぶつけて貰って構いません」
「分かった。君の事は魔王種。いや魔帝種だと思って戦う」
全員が武器を構えた。
前衛二人に後衛三人。
武器はどれも大型で人間よりも魔物を想定した武器構成だ。
自身の丈より大きい弓を持った人もいる。
人間として戦うのは野暮だろう。
「はじめ!」
僕は魔力を開放した。
天空龍が出していた量よりも少し多く、そして威圧も追加する。
威圧領域よりかは弱いけど、これで疑似的な魔帝種の完成だ。
「やはり化け物か」
天空の人たちが武器を持つ手が震えている。それもそうだ。祖国を魔王種に滅ぼされたのにその上の魔帝種の威圧に耐えるのは難しい。
僕は剣を構えた。あの人たちの武器を大きくて魔物向けと思ったけど、僕の持つ剣も通常の剣とは大きく異なる。
剣ではなく巨大な板棒と表現したくなる剣は僕の体の倍ぐらいの長さと体積を持つ。
「……あれをやるぞ」
天空の人たちはお互いの顔を見合わせて、何か合図をした。
僕から攻めたりはしない。やりたいことがあるなら全部やらせてあげる。
「ガァァ!」
苦しみ出したと思ったら、全員の肌が変色を始めた。
状況からみて意図的にやっている。僕は様子を見る事にした。
「俺たちはカオステリトリーで生き残った。適応かなんかは知らないが、忌々しいあいつらの力を得た」
魔力が跳ね上がっている。おそらく筋力も上がっている。
「この場でその姿になっても良かったの?」
「ああ。いつかはバレる能力だ。なら後ろから刺される可能性のない今しかない。悪いな。俺たちの思惑に付き合わせちまって」
「気にしないで」
この程度の利用ならむしろやって欲しいぐらいだ。
観客席がうるさくなっているけど、気にしない。僕がやることはこの人たちのすべてを受け止めて勝つことだ。
「いくぞ」
――――――
戦闘が終わった。
当然ながら僕が勝った。
だけど、所々、ヒヤッとする場面があった。
弓矢に風魔法を纏わせて抵抗をなくして加速させる魔法によって放たれた矢。
あれは僕の腕の皮膚と筋肉を貫き、骨で止まった。
他の攻撃はすべて受け止めれたけど、あの矢だけはダメージを与えることができる唯一の手段だった。
最後の最後に放たれた至近距離の矢は僕の胸骨を少し削った。
魔法による防御をしていなかったとは言っても心臓に届きうる攻撃だった。
「負けたか」
「みんな強かったよ。剣術も力もすごかったし、魔法もすごかった。そして、弓矢がこんなに強いとは思ってもなかったよ」
頑丈に作って貰ったはずの闘技場がボロボロになっている。特に地面はガタガタで歩くのも難しいほどの損傷具合だ。
「回復は大丈夫?」
「ああ。俺たちは回復しやすい。それに手加減のお陰で深刻な怪我はない。休憩すれば治る」
「そうですか。何かあったら教えて下さい。では僕は帰りますね。ありがとうございました」
天空の人たちはいい人たちだ。異形の姿を見せたことでこれから大変だろうけど、僕に協力できることがあったら手伝ってあげよう。
さて、次の仕事に行かないと。




