四七話 未来の計画
僕が天空龍を従えたことはあっという間に広がった。
誰もが嘘だと考えるような出来事にも関わらず絵の効果でほとんどの人がそれが真実だと信じてしまった。
情報を拡散するゲッペルの能力に洗脳染みた迫力を持つ絵。
恐ろしい能力が組み合わさってしまった。
これまで僕を知っていたのは貴族やら魔法使いといったいわゆる、上位の人たちが多かった。
今回の件で、僕を知る一般人が一気に増えた。
当然ながら、僕の実家であるザルゴル家にもその情報は届いた。
「一応、聞いておこうか。お前は何がしたいんだ?」
当主の父が呼び出してきて、問いかけて来た。
何がしたいのかと聞かれても、あの記事を出せと命令したわけじゃないし、なりゆきで情報を拡散されてしまった。別に目的はない
だけど、理由の後付けならいくらでもできる。
「六歳になる直前ですので、独立の準備です。知名度があれば何かと便利ですから」
「知名度か。まあ、いいだろう。お前は爺さんとは違って後先を考える頭がある。私からは何も言わないが、もし困ったことがあれば助けてやれる範囲なら助けてやろう」
「ありがとうございます」
やけに甘いなと思ったけど、実の子供として僕の事を信用してくれているんだろう。
独立という言葉にも眉一つ動かしていない。すでに想定していたんだろう。
「さて、天空龍を従えたことは偉業だろう。多くの人間がお前を賞賛、畏怖している。だが、冒険者ギルドはお前を疑っている。面倒な組織に目をつけられたな」
手紙を渡された。
冒険者ギルドは魔物討伐を主に行っている巨大組織だ。国ですら、冒険者ギルドを敵に回すことを恐れるぐらいの規模を持ち、ギルドが立ち退けばその町は住めなくなるとまで言われるほどだ。
英雄譚のほとんどは冒険者関連と言ってもいい。
魔王種を倒した時の祖父ガルローもS級冒険者だった。
「親善試合ですか」
手紙の内容を要約すると「こっちの最強を集めるから実力を確かめてやる」って感じだった。まあ、かなり丁寧に書かれているし、僕への敬意は感じられる。
「断ってもいいが、あいつらは声がでかい」
「受けます。なんなら冒険者以外でも相手をしてあげてもいいぐらいですよ」
僕にとって強さは手段に過ぎない。
大切な人を守れるために手に入れただけだ。
ただ、この強さはまだ不完全だ。
真の強者は戦わない。
なぜなら、誰も勝てないと分かっているからだ。
敵対するだけ無駄。そう思わせられれば、僕が強くなった意味がある。
「強者の発想だな。力を持たぬ父からすれば羨ましい考えだ」
お父さんはザルゴル家の中では最弱レベルの人だ。戦闘ではなく政治力に特化している。
「いいだろう。ならば、祭りにしよう。強者を集めようじゃないか」
祭り? 強者? 一瞬、理解まで時間が掛かったけど、言いたいことは分かった。
「最強だと自負する人たちを集めるんですね。そして、戦わせて誰が強いか決める。至って単純そうな構造ですが、かなり影響がありそうですね」
世界最強という称号は誰もが欲しがるものだ。少なくとも、その称号を目的に人生を歩んでいる人もいるような立派な夢になるほどのものだ。
それに戦闘というのは人々を楽しませることができる。闘技場がいい例だ。もし、最高峰の戦いが見られるとなれば、相当の集客となる。
お金の匂いもする。まさにお祭りだ。
「ただ、政治的な制約は大きいでしょうね。それこそ、他国の英雄が負ける可能性だってありますし、開催地も難しいですね。面白そうな反面、面倒な調整は多そうですね」
「私を誰だと思っている。その辺りはやらせて貰おう」
「ただでさえ忙しいのにいいの?」
「ああ。子供の晴れ舞台ぐらい用意してやれなくて何が父親だ」
お父さんは僕に甘くなった。ただ、いろいろやって貰えるのは助かる。
宰相の立場は伊達ではない。おそらく他国間の調整は完璧にやってくれる。
「ありがとう。それで開催をするのはいつになるのかな?」
「調整は一年あればできるだろう」
「なるほどね……」
調整は一年。予想よりも早い。
それだけお父さんが政治という面では有能なんだろう。
ただ、どうせやるならもっと面白くやりたい。最強たちを集めて戦えば影響力はとんでもないことになる。
得られる利益はなるべく欲しい。
「国境沿いの町とか欲しいなぁ」
最大の利益を得る方法は単純に自分の所有する土地で開催することだろう。
国境沿いなら他国から距離的にも来やすいだろうし、友好でない国からも行きやすいだろう。
「独立の話もあったな。土地か。国としての手続きは融通してやれるが、流石に貴族を丸め込むのは難しいぞ」
「いや、ごめん。さっきのは聞かなかったことにして」
言葉にするつもりはなかった考えを言ってしまった。
土地の話はまだ早い。最低でも面倒な政治を代わりにやってくれる信用できる人が見つかるまでは手を出すつもりはない。
「祭りにしようにも時間が掛かりそうだし、今は冒険者ギルドに実力を見せつけてくるよ」
「……そうか。また何かあったら頼ってくれ」
「ありがとう」
興味深い計画を聞かせて貰った。
力を使うことはあまり考えていなかったけど、使い方によっては力を証明した上に利益になる。
そうなると、土地が欲しくなってくる。
ただ、町を作ってしまえば守るものが増えるし、面倒なことも増える。やはり、リスクの面が大きい。
せめて、政治の面倒な所をやってくれる人材を手に入れるまでは手は出せない。
――――――
「お誕生日おめでとうございます!」
「ありがとう」
僕は六歳になった。前日の深夜にエヌと誕生日を祝った。
「ベルク様はもう婚約ができるお歳になっちゃいましたね。誰と結婚するかエヌは楽しみです」
「結婚はまだ早いけどね」
六歳は婚約が可能になる年齢だ。親同士が結婚を約束するものではなく、法的に認められた婚約が可能になる。
ただ、結婚をするには準成人の十三歳にならないといけない。
「今、気になっている方はいらっしゃいますか?」
僕が一番好きなのはエヌなんだけどなぁ。
「それを君に聞かれたくはなかったけどね。気になっている人はいないよ。まだ、結婚とか考えられないから」
「それもそうでしたね。ベルク様ほどの方でしたら婚約なんてしなくても選び放題ですもんねー」
「もしかして煽っているの?」
選べるのなら僕はエヌを選んでいる。だけど、エヌは僕の求婚を断った。なのに「選び放題」なんて言葉を使うのは挑発でしかない。
「ベルク様が不快になることは言いませんよ。ただ、ムカついたらどんなことをして貰ってもいいですよ。エヌはベルク様の所有物ですから。あの日の続きでもご自由に」
エヌは無防備にベッドで横になった。
キリエスが作った寝間着は可愛いけど肌の露出が多い。
「煽情的でしたっけ? 今の私には感じませんか?」
「それは……」
煽情的。その言葉は最近見たエルが縛られたキリエスを描いた時に感じたものだ。
飾り付けもなく言うなら性的な姿。
勿論ながら、六歳だけど僕は男でエヌは大好きな立派な女性だ。素肌が露出していればそうやって見てしまうことだってある。
「冗談ですよ。変な女には引っかからないで下さいよ。客観的に見てエヌよりも若くて可愛くて、愛想のいい子なんていっぱいいるんですから」
「大丈夫だよ。主観的に見ればエヌより上はいないから」
「照れることを言ってくれますね」
僕もベッドに入った。
「ベルク様は睡眠が必要ないでしょうが、エヌの事が好き過ぎて一緒に寝ちゃうんですから、仕方がないですねー」
「エヌも種族進化してくれたら睡眠なんてしなくてもいいのに」
「はは。無茶ぶりが過ぎますって」
いつも通りエヌに抱きしめられて寝た。




